30話 誘拐事件 その4
西方国家であり、周辺国家最強とも言われているジウムデン帝国……ザルバック国王陛下は確かにそうおっしゃった。自らの妻であるリリアーヌ王妃様を攫った首謀者はそこなのだと。
「と言っても当時、証拠等が出たわけでもない。結局あれから22年間、我が妻を攫った首謀者が誰だったのかは分からずじまいさ」
「なるほど……実行犯を拷問に掛けても出てこなかった、と。妙な話ですね……」
「実行犯など使い捨ての駒でしかなかったのだろう。その者達からは、絶対に正体がバレないようにしていたのだろうな」
本当に妙な話だわ……リリアーヌ王妃様が誘拐された、国家レベル大事件だというのに、真犯人の特定が22年経っても分からないなんて。そんなことってあり得るのかしら……?
「カインよ、私が辺境伯の地位を重視しているのは、そういった面も大きいのだ。理解してもらえたかな?」
「はい、国王陛下。確かにジウムデン帝国が絡んでいるとなれば、西の国境線の守りを重点的に強化する必要がありますからね」
「ああ、そういうことだ。さて、少し長く話し込んでしまったようだな……この辺りで一旦、解散といこうか。また、話を聞きたければいつでも来てくれ」
「歓迎いたしますよ、二人とも。うふふっ」
「ありがとうございます、国王陛下、王妃様」
「ありがとうございます」
なるほど……だからこそ、立地的に西と南の辺境伯の地位が公爵クラスに引き上げられているわけね。正体が分からない敵の侵入を防ぐ狙いで。二度とこんな誘拐事件なんて起こさない為に。敵の正体が分からないからこそ余計に……か。現在では友好国であるロア王国のことも、もしかしたら疑っているのかもしれないしね。
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「カイン様、よろしいでしょうか?」
「どうしたんだ、テレーズ?」
「そうだな……」
ザルバック国王陛下とリリアーヌ王妃様と別れた後、私達はそのまま応接室に残っていた。マグナ宮殿を出ても良かったのだけれど、まだ少し気になることがあったからだ。
「国王陛下がこのタイミングで私達に話してくれたことは、何かしら大きな意味を含んでいそうだ」
「やはりそうですよね……?」
「ああ、そうだな。もしかしたら陛下は、内部犯行の可能性も視野に入れているのかもしれない。もしかしたら、今回の件で確実に反乱分子を炙り出すおつもりなのかもな」
「反乱分子……」
あんまり穏やかな話ではないけれど、当時の誘拐事件は内部の犯行だったかもしれないわけか。今更、犯人捜しなんて無理だろうけど、決して同じようなことが起きないように、内外どちらの強化も行われるつもりなのかしら。そう考えると、国王陛下達がこのタイミングで私達に話した理由も分かる気がする。
気を引き締めるように……そう語っていたのかもしれない。




