3話 婚約
「テレーズ、急にこんなことを言うのは失礼に当たるかもしれないが、聞いてくれないか?」
「はい? どうしましたか?」
辺境伯であるカイン様と宮殿で知り合って1か月以上が経過した。私達は本日、西の開拓地付近を歩いていた。表向きは視察や私の婚約破棄の傷心を和らげるという体裁があるけど。
最近ではデートの口実になりつつある。と、私は勝手に想像していた。
カイン様のおかげで私は婚約破棄の悲しみを克服することが出来たのだ。彼の言う通り、西の領地の各地にある自然との触れ合いは心が晴れるようだったから。
辺境伯と子爵令嬢という地位の差は、私とカイン様の間にはないようなものだった。彼自身があまりそのことを望んでいらっしゃらない。
でも、今日のカイン様の様子は明らかにおかしいような……一体、何を言うつもりなのだろうか?
「私と婚約して欲しい」
「えっ? カイン様……!?」
いきなりの告白? に私は驚きを隠せなかった。確かに最近は良い雰囲気になることも多かったけど……まさか、婚約をお申し出になるなんて。
「いきなりの告白については申し訳ないと思っている。だが、私の気持ちは知って欲しかったのだ」
「さ、左様でございますか……」
「迷惑だったなら、この場で言ってもらいたい」
「いえ、迷惑だなんて……そんなことあるはずがありません」
「そうか、安心したよ」
「はい……」
嫌だなんてそんなことあるはずがない。カイン様の人となりはこの1か月だけでもすぐに分かったから。私自身も本心で言えば惹かれている。彼との婚約であれば願ったりであると言えるだろう。
「ありがとうございます、カイン様。とても光栄でございます」
「返事は……後日聞かせてもらっても良いかな?」
「はい、畏まりました。お返事に付きましては、後日お話しさせていただきます。でも……私は子爵令嬢でしかありませんが、よろしいのでしょうか?」
「ああ、それについては問題ないさ。どうも辺境伯というのは低い身分に見られがちだからな。他の貴族……伯爵家系などには馬鹿にされる始末さ。王家の方々も私が選んだ相手ならば、ご納得いただけるだろう。なにより、君のように聡明な相手と婚約出来れば言うことはないしね」
「カイン様……」
ここまでで、私の中での答えは決まっているようなものだったけど、敢えて後日に答えを言うことにした。そちらの方が正規の手続きになるしね。
それにしても……辺境伯の地位の高さを知らない貴族の存在は問題ね。その家系は没落の可能性を秘めているんじゃないかしら?