29話 誘拐事件 その3
「誘拐をした者については特定は出来たのでしょうか?」
カイン様は核心に迫る質問をザルバック国王陛下とリリアーヌ王妃様にしていた。私もそれは気になるところだ。22年の年月が経過しており、しっかりとした貴族であれば誘拐事件のことは知っていて当たり前だけれど。
でも、私の記憶している限り、誘拐した者達の情報は勉強した覚えがない。これは学んだ当時から不思議に思っていたことだった。ザルバック国王陛下が鬼神の如き活躍をしたというのは知っているけれど……。
「我がサイドル王国とロア王国の仲違いを画策した者達の犯行としか分かっていないのだ」
「当時、ザルバック国王陛下が中心となって動き、リリアーヌ様を救出したと伺っております。それでも実行犯のことは分からなかったのでしょうか?」
普通に考えればおかしなことだ。リリアーヌ王妃様は無事に救出されている……そうなれば実行犯も捕らえられているはず。そこから芋づる式に分かっても良いものだけれど。
「私も出来る限りのことはしたつもりだ。リリアーヌを救出した後も、実行犯の何名かは生け捕りにした」
「生け捕りには出来たのですか……?」
「ああ、生け捕りにして拷問にも掛けたさ」
サイドル王国の暗部といえばいいのかしら。サイドル王国は現行法では拷問は禁じている、でもその当時は状況が状況だけに現行法に倣っている余裕はなかったのだろう。ザルバック国王陛下の当時の気持ちは嫌と言うほど分かるけれど。
私も家族やカイン様が誘拐されたとしたら、同じように拷問すると思うし……。
「拷問ですか……」
「カイン、納得できないのは重々承知の上だ」
「いえ、当時の陛下の感情からすれば仕方のないことなどだと理解しております……」
「そう言ってもらえてありがたいよ」
「いえ……とんでもございません」
カイン様の大人な対応を鑑みた瞬間だった。流石は辺境伯を任せられているお方だと思う。
「それで……実行犯からの情報は得られなかったのですか?」
「ああ、そういうことになる。これはリリアーヌや大臣参謀、ネガル議長など、本当に一部の者にしか知らせてはいないことだがな……」
確かに情報の重要度を考えれば、カイン様にも伝えていないのは納得ができるわね。ましてや、私を含めて他の貴族たちが知らなくても無理はないか。
「ただし、大体の予測はついている。おそらくは西の国境の向こう……周辺国家最強とも言われている、ジウムデン帝国の手の者だろう」
「ジウムデン帝国の仕業ですか……そんな!」
「おそらくの話ではあるがな……」
ザルバック国王陛下のお話は非常に深い内容になりつつあった。迂闊に周囲の者に聞かせてはならないレベルの……。




