1話 テレーズの婚約破棄
「も、もう一度おっしゃっていただけませんか……!? どうして婚約破棄なのです……?」
私はサイドル王国の中心地、首都アルスターレに来ていた。王家の権威の象徴であるマグナ宮殿。その中の一室で婚約者のラゴウ様と話している。彼は勝ち誇ったような顔つきで私を見ていた。意味が分からない……。
「何回も言わせないでほしいものだ、テレーズよ。もう一度だけ言うぞ? 私はお前ではなく、姉のマリア・クルシス子爵令嬢と婚約することにしたのだ。よって、お前との婚約は破棄ということになる。本当に残念なことだが……こればかりは仕方のないことだからな」
「そ、そんな……! そんなことって……!」
婚約者のラゴウ様は伯爵の地位にいらっしゃるお方だ。その歴史は深く、サイドル王国全体を見ても古参に当たる家系と聞いている。その当主に当たる彼がまさかマグナ宮殿の一室を借りて、わざわざ婚約破棄をするなんて。
ラゴウ・ジェシス伯爵……婚約をして半年になるけれど、こんな裏切られ方をするなんて思わなかった。そして……ラゴウ様の隣には私の姉であるマリアお姉さまの姿があった。
「ごめんなさいね、テレーズ。私とラゴウ様の方が相性が良かったみたいなの。そういうわけだから、あなたの分も幸せになってあげるわ」
「ふはは、これは皮肉な言葉だな」
「あら、ごめんあそばせ。うふふふふ」
もう既に二人だけの世界が構築されている……私は完全に蚊帳の外だ。マリア姉さまは美しくスタイルも良い。貴族としての勉学はあまり得意ではないけれど、それでも彼女を欲しがる貴族は多いだろう。ラゴウ様もその内の一人だった……そして婚約まで締結されることに。
私は目の前がブラックアウトしてしまった……。
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私はそれから、宮殿内をフラフラと歩きさまようことになってしまった。付き添いの者は居るけれど、私自身は一人で歩いている感覚だ。お父様やお母様になんて報告するの? お姉さまが私の婚約者を奪ったとストレートに言うの? 慰謝料の件はどうする? ラゴウ様が支払うかどうかも不明だし、お姉さまが婚約している相手なのだからややこしくならないかしら?
「う、うわぁぁぁぁぁぁ……!」
悲しみが遅れてやってきた。私はその場で座り込んでしまった。
「お、お嬢様……」
付き添いの者達の声も私には届かない……この先、どうやって生きて行けばいいのか。そんな生きるか死ぬかの選択を迫られていた時……。
「大丈夫ですか?」
「えっ? あ、あなた様は……!」
聞きなれない声に私は視線を合わせた。そこには……ハンカチを手に持った貴族の姿が。私はその渡されたハンカチを手に取る。このお方は確か……辺境伯のカイン・サンタローズ様だ。
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