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第十話

 瑞樹から春休み合宿について告げられたあと、江草家で万帆と美帆が会話していた。


「お姉ちゃん、合宿どう思う?」

「んー……なんか嫌な予感がする」

「そーだよね。瑞樹ちゃんの作戦だもんね」

「うん。あの瑞樹ちゃんの作戦だもん」

「あの瑞樹ちゃんのね」


 二人とも、瑞樹が周到な作戦を組んで計画することは知っている。ただ生徒会の仕事をするためだけに合宿へ行くとは思っていなかった。


「でも、瑞樹ちゃんがどうしたいかわかんないんだよね。わたしと山川くんの仲を応援してくれるような感じじゃないし」

「お姉ちゃんさあ、結局山川くんをどうするの? 多分ずっとお姉ちゃん待ちだよ」

「うーん……」

「馬鹿力のくせに変なところ乙女だよね、お姉ちゃん」

「美帆」

「はいごめんなさい冗談です。それでさー、多分、瑞樹ちゃん今回の合宿で山川くんに告白すると思うんだよね」

「瑞樹ちゃんが? 山川くんに?」

「そう。お姉ちゃんにはずっと黙ってたけど、瑞樹ちゃん前から山川くんのこと狙ってるんだよ」

「そ、そうだったの!?」

「気づいてなかったんだね……それでさ、今山川くんはお姉ちゃんのことが好きでしょ。だから瑞樹ちゃんは、一回山川くんに万帆ちゃんのことを諦めさせて、それから付き合おうとしてると思うの。だから多分、今回の合宿で何か仕組むんだよ」

「何するんだろう……あの瑞樹ちゃんだもんね」

「うん。あの瑞樹ちゃんだからね。何するか想像もつかないね。でもさー、わたしとしては正直、瑞樹ちゃんよりお姉ちゃんの方を応援したいんだよね」

「美帆、卒業してからも瑞樹ちゃんと仲良くしてたじゃない」

「それはわたしの知らないお姉ちゃんの姿を知りたいっていうか……まあ、最初は瑞樹ちゃん仲良しだから、山川くんと付き合うための作戦をお手伝いしてたんだけど、相手がお姉ちゃんってなったら、話は別だと思ってる」

「……いいの? わたしのために」

「いいよ。ってか、わたし普通に彼氏いるし、お姉ちゃんに彼氏できても特にうらやましくないよ」

「ふうん……でも、わたしはこれからどうすればいい?」

「お姉ちゃんから告白したら、山川くん普通に付き合ってくれると思うんだけどなあ」

「それは無理」

「そっかー。じゃ、山川くんにもう一回告白させるか。でもその前に、瑞樹ちゃんに山川くんのことを諦めさせないとね」

「そうだね。あの瑞樹ちゃんだもんね。何されるかわからないよ」

「うん。だからさ、瑞樹ちゃんの弱みを握るしかないんだよね」

「弱みを握るって……まさか、美帆、瑞樹ちゃんのあの秘密のことを」

「うん。あの秘密を使うしかないね」


 ちょうどその時、部活帰りの翔太が家に帰ってきた。


「ただいまー」

「しょーたーん。春休みの土日ってヒマ?」


 美帆が声をかけると、翔太はリビングで服を脱ぎながら答えた。


「あー、土日はヒマ。来年から受験生だし勉強しろって事になってる」

「じゃあオッケー。お姉ちゃんの高校の生徒会の合宿があるから一緒に行こ」

「はあ? 万帆姉の高校の合宿? 俺関係ないじゃん」

「体験入学ってことでいいじゃん。実はその日、山川くんも来るんだよね」

「えっ山川センパイが? マジ?」


 万帆と美帆のことなど構わず着替えていた翔太が、手を止め、目を輝かせる。

 ここ数週間で光と翔太はとても仲良くなった。光が帰宅部でヒマなこともあり、休日は光の強力な肩を利用して、翔太の中学の野球部相手にバッティングピッチャーをしているほどだ。体を動かすことが嫌いではない光は、何でも付き合ってくれた。


「うん。その合宿、男子が山川くんだけで、寂しいからさあ」

「俺も行く!」


 翔太は即答。着替え終わって、自分の部屋に入った。


「……しょーたん呼んでどうするの?」

「ふふ。まあ見てなって」


 美帆の怪しい笑顔に、万帆は不安を覚えた。


** *


約束の日がやってきた。

光、瑞樹、泉、美帆、万帆、翔太の六人が集まり、電車に乗って旅館のある目的地へ向かった。乗り換えるたびに電車は短くなり、最後は一両編成のディーゼル車に。光たちの他には誰も降りない山間の秘境駅のようなところで、一行は下車した。

 駅から広い国道沿いを十分ほど歩くと、いちおう温泉街と思われる一角に到着した。どこの建物も昭和時代で使命を終えた廃墟のようで、光たちの他に人通りはなかった。

 瑞樹が案内してくれた旅館は、一応のぼりは立っているし、リフォームもされてそこそこ綺麗だった。親戚だという老夫婦の主人に挨拶をし、広い部屋に通された。


「俺たちの部屋はどこだ?」

「えっ? みんな一緒の部屋だけど」


 てっきり男子用の部屋があると思っていた光は、瑞樹の答えに戸惑った。というか、瑞樹以外全員少し引いていた。


「別に、山川くん変なことしないでしょ。マホミホの弟くんも」

「あー、瑞樹ちゃん久しぶりにマホミホって呼んだね」

「二人揃ってるところ、滅多にないもの」

「そういえばそうだね。まあ、しょーたんが変なことしたらお姉ちゃんたちが許さないから大丈夫だよ」

「変なことなんかしねーよ! つーかしょーたんって呼ぶんじゃねえ」


 こうして瑞樹に押し切られ、一行は同じ部屋で過ごすことになった。

 大部屋に学校から持ってきたパソコンや書類を広げ、生徒会長選挙の準備作業が始まる。


「うーん。これ六人もいらないよね?」


 美帆がざっと書類を数えてから言った。


「あんまり大人数で一つのことやっても非効率だし、山川くんとしょーたんはキャッチボールでもしてれば?」

「な、何?」


 普通に事務作業をしようと意気込んでいた光は、少し気が抜けた。


「センパイ、俺一応ボールとグローブは持ってきてます」


 翔太はすでにキャッチボールの準備を進めている。


「そうね。単純作業は女子だけで終わらせちゃいましょうか」


 主催者である瑞樹がそう言って、男子二人のキャッチボールが確定した。

 瑞樹は美帆が作戦を仕組んでいることに気がついていなかった。しかし、生徒会選挙の準備を済ませなければいけないことは事実だったので、美帆の提案に納得していた。瑞樹の作戦は主に、夕方から夜にかけて動く予定だったのだ。

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