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【短編】いきなり異世界?大冒険

作者: 書き手ナメクジ

初投稿作品です。


異世界モノの流れに便乗して、異世界っぽい作品を書きました。

短編として、十五分くらいで読める程度に抑えてあるつもりです。

 空が高い。

 真夏に良く似合う真っ青で何処までも高い空。こんなお出掛け日和に家で大人しくしているのは勿体無いと思い、準備もそこそこに出掛けるためにドアを開けるとそこは……間違いなく僕の家の外では無かった。


「何処だよ」


 思わず言葉が漏れた。

 いや、誰だってそうなるだろう。都内ではないにしろそれなりに栄えている住宅街に住んでいるのだ。それが玄関を開けてみたら、あら不思議。どこまでも広がる大草原! 右手にはまるで神獣でも住んでいるかのような大森林! 僕にアウトドアな趣味があって大自然にキャンプにでも来ていたなら別だけど、当然引き籠りだからそれもない。


 静かにドアを閉めるとゆっくと落ち着いた動作でベッドに戻る。

 ハロードリーム。グッバイワールド。こういう時は寝るに限る。どうせ寝て起きればいつもの朝のパターンだ。

 そう考えて憂鬱になる。朝起きたらもう仕事かぁ。そう思うとこのまま変な夢を見ているのも悪くないのかもしれない。


 …………ちょっと冒険するのもありかもしれない。何故か全然眠くないし。

 

「行くかなぁ。夢ならどうにでもなるでしょ。ああ! なんだかちょっとワクワクして来たぞ!」


 そう言うと起き上がり部屋の中からあらん限りのアウトドアグッズをかき集める。懐中電灯、磁石、折り畳み傘、工具類に持ち運びの食料。

 ……なーんもないや。いやそもそも、夢でお腹空くか? とはいえ持っていっても困るものではないだろう。後は適当なタオルなどをリュックに詰め込み長袖に着替える。頭はまだギリギリ防御力が残っているが、念のために帽子を被っていこう。そう、念のためで深い意味はない。


「さて、冒険の始まりだ!」


 いざ未開の地へ! 勇者太郎の冒険はここから始まるのだ!

 (クソッ!! 太郎って名前がダサすぎる!!!)


 気を取り直して思い切ってドアを開け放つ。するとそこには……。


 ……全然知らない洞窟の中へと繋がっていた。


「何処だよ!!!」


 今度は大声で叫ぶ羽目になった。

 いやいやいやいや! さっきの草原は何処いったよ! これは取り乱さない方がおかしい。やっぱり行くのをやめようか。それとも……。


「俺も男だ。ここで引き下がれば男が廃る」


 洞窟の中には当然明かりなんて無い。リュックの中から懐中電灯を取り出す。当然電池切れなんて下手なヘマはしないのが出来る俺である。


「頼むぜ相棒。お前だけが頼りだ」


 この暗闇を照らすか細い明かりがとても心強く感じる。

 心強いのは確かだが、よく考えてみて欲しい。いきなりに暗闇に一人きり、すでに入り口のドアすら無くなっており出口の方角すらも分からない。足が震源地になっている事も致し方ないと言えよう。


「駄目だ。足が動かない。リアルすぎるだろこの夢……」


 恐怖までリアルなのは勘弁してもらいたい。……よし、そろそろ目を覚まそう。


 ……。

 …………。

 ………………。

 ハハッ!ぜんっぜん目覚めやしねぇ!

 でも時間が経ったせいか恐怖が薄れてきた。いや、慣れてきたんだろうか。壁に手を這わせながら少しずつ足を進める。


 ガタッ!


「すすすすすすいませええええええん」


 ライトの端にコウモリが飛んでいくのが分かる。怖ぇよ。


 その後もゆっくりゆっくり進んでいく。どれくらい時間が経っただろうか。遠くに微かな光が見えた。それを見ると足取りが軽くなり、いつしか走り出していた。

 入り込む光で外の景色は見えない。それでも足を止めることはない。そのまま光の中へと飛び込んで目にしたものは……。


「ようやくスタート地点とか鬼畜仕様かよ。チュートリアルでもう無理なんだが」


 目に入って来たのは最初に見た大草原だった。右側の森林の奥に見える一層巨大な木がそれを証明してくれる。当然森に入る勇気なんてないので、向かう先はこの草原の先だ。ここから見る限りでは地平線まで続く草原なので相当の広さがあるのは分かる。僕の足はすでに棒である。


「ここに突っ立ってても何も始まらないし、とりあえず前に進もう。街とか村とか人がいたら嬉しいな」


 用済みになった懐中電灯をリュックに仕舞いながら歩き始める。さらば相棒。もうお前の出番が無いことを祈るぜ。







 さて。かれこれ一時間は歩いたのだろうか。今僕は全力疾走をしている。とても疲れているのにも関わらず、だ。理由? 後ろを見て貰えば分かるよ。


 ヴウウウウモオォォォォォォッ!!! 

 馬鹿みたいにデカい牛が追いかけて来ているからな。


「ふっざけんな! もう諦めろよ! 死ぬぞ? そろそろ死ぬぞ!?」


 事の発端は一分ほど前になる。馬鹿広い草原のようで歩けど歩けど先が見えない。そこで小さい丘のような場所を見つけたので、そこに登って辺りを見回そうとした。周りの草とは違った茶色がかったその丘を登って周囲を見ていたら、急に丘が動き出した。

 もう分かっただろう? そうだよ牛だよ。丘と見間違えるほどの大きさだし四メートルくらいはあるんじゃないか? 登る前に小便しておいて本当に良かったと思っている。


 後はもう命がけで走るだけ。ただ考え無しに走っている訳じゃあない。さっき登った時に川の様なものを発見した。この牛が泳げるかどうかは分からない。だけどこのまま走ってもいずれ追い付かれるし、僕の体力だって限界だ。だから一か八かの賭けに出る事にした。


「川のギリギリまで走ってギリギリで避けて、川に落としてやる! こうならヤケだ。なんだってやってやるさ」


 もう目の前に川が見えて来た。後ろから聞こえる鳴き声がもう耳元から聞こえると錯覚するほどだ。距離に余裕はないだろう。

 ……三。

 ……二。

 ……一。

 ……今だ!!


 川の手前で振り向き横に飛んで避ける……つもりだった。

 目の前に迫る牛と目が合った瞬間に完全に足が竦んでしまった。この迫力に体が硬直し身動きが出来ない。

 ……駄目だ。俺、死んだわ。母さん……ダメな息子で本当にごめん。


 死を覚悟した瞬間に目の前で爆発が起こった。目を凝らすと牛の右側で爆発が起こり体の一部が弾け飛んでいる。爆発により牛が左に逸れたようだが、突進の勢いが消える訳ではない。僕のすぐ横に突っ込んで来て、その勢いによる僕も一緒に川へと突き落とされた。

 川へ落ちる寸前に牛の後方に髪の長い女性が立っているような気がした。



 目を覚したら浅瀬にある岩に引っかかっていた。身体中が痛むが動けない程じゃない。骨にヒビくらいは入っているかもしれないが。リュックは見当たらない。たぶん流れているうちに何処か別で流れちゃったんだろうな。


「……生きてる。奇跡だ。あれは絶対に死んだと思ったわ……。いってぇ……全身アザだらけになりそうだ。そういえばあの牛はどうなった!? 確か一緒に川に落ちたはず」


 周囲を見回すと僕のいた場所よりも少し下流に牛が倒れていた。痛む体を無理矢理動かして確認に行く。幸いこの周囲は足首上くらいの深さしかないので、歩くのには問題ない。

 少し離れた場所から様子を伺う。あの爆発の傷口から血が流れて川を赤く染め上げていた。あの勢いならもう死んでいると見て間違いなさそうだ。素人が見てもあれはヤバイ。


「そう言えばあの爆発……一体何だったんだろう。それに最後に女性がいたような気がする……」


 考えても分からないので今は目の前の問題を解決しよう。冷静になって牛を見ていると体が震えて来た。


「……勝ったん……だよな。あの化け物のような牛に。最後の爆発のおかげだとしても、今生きているのは僕だ。それが結果だよな! やったぞおぉぉぉぉぉぉ!!」


 吠えた。今までの人生で一番の大声で吠えた。一番感情を露わにして吠えた。

 この先どうなるかは分からないし、今の状況が好転している訳ではない。だけど今だけはそんな事がどうでも良いと思える程に興奮していたんだ


 「あれ……なんか眠くなってきた」


 ここまで歩き走り、おまけに川に流されてもう体力的にはとっくに限界を超えているはずだから、特におかしい事ではないだろう。

 眠気が更に強くなる。瞼が言うことを聞かない。そのまま眠気に身を任せて倒れ込むように眠りについた。




 目覚めた時にはベッドの上だった。

 窓の外に目をやる。見えるのは住宅街の屋根やビルなど見覚えのあるものばかりだ。道路を走る車の音が聞こえてくる。


 よく見た景色だ。


「……夢落ち……またあの夢、か……」


 これまで何度も見た夢だ。結果を見てみれば実に味気ないもので、結局あの冒険は夢だったのだ。暗闇で奮い立たせた足も、モンスターに立ち向かった勇気も、やり遂げたあの感動でさえも脳が見せた幻だったのだ。

 でも……。


 僕はこの夢が詰まらないものだと思ってはいない。

 僕はこの夢が希望に満ちたものだと思っている。


 夢は新しい自分を作りあげてくれる。

 夢は現実にはない心躍る冒険を届けてくれる。


 夢の中なら世界中の何処へでも行ける。それが宇宙だろうと異世界だろうと想いのままだ。

 夢の中なら何にだってなれる。それが冒険者でも有名人でも、勇者でも神にでさえも。

 夢の中ではいつだって自分自身が最高に格好良くてクールで最強で、主人公なのだから。




 「さてと……」


 僕は起き上がると出掛ける支度を始める。あの夢を初めて見た日からもう三十年。あれからずっと、ただ一つを目標にずっと努力して来たのだ。


「あの感動を自由に見れるまでもう少しだ」


 夢を自由に見れる世界を作る……。

 そうすれば誰だって。


 そう拳を握り少し熱っぽくなった顔を引き締めてドアを開け放つ。

 

「世界中で主人公たちが待っているんだからね」


 夢を叶えるために夢を見続け、その手を伸ばし続ける。

 これはそんな男の物語。

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