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染まらぬ一匹狼

 DJのアジトとポートショアを掌握したが、ウィリスは依然、ジェフに対する警戒を緩める様子は無かった。

「ボス、周辺の見回りが終わりました。パディントンらしき姿はありません」

「そうか」

 手下に顔も向けず、ぶっきらぼうに一言だけ返して、ウィリスは作業に没頭している。

「あの、……ボス、それは?」

「見て分かんねえのか? 義手だよ。鍛冶屋に造らせたんだが、どうにも『生身』と上手く噛み合わねえんだよ。合わせ目がガタガタしやがる。ま、拳銃向けて脅して造らせてたから、ずっとビビってたせいもあるが、職人が仕事頼まれて、ちゃんとできねえってんじゃなあ」

「殺したんですか?」

「いやぁ、この町にゃ鍛冶屋は一人だけだからな。殺しちまったんじゃ、不便でしょうがねえ。顔面一発で勘弁してやったよ」

「そ、そうですか」

 顔を真っ青にする手下に、ウィリスがくるんと顔を向ける。

「おい、手ぇ貸せ」

「手……っ!?」

「おいおい、何もお前の手をちょん切って俺にくっつけろって言ってんじゃねえよ。義手の噛み合わせ直すのを手伝えっつってんだよ」

「あっ、は、はい」

 手下は額に浮き出た汗をバンダナで拭き、ウィリスを手伝い始めた。

「で、今日も見回りは異常無しっつってたな?」

「は、はい」

「なら、そっちはいい。元ボスが進めてた建造計画はどうなってる?」

 尋ねられ、手下は義手を万力に固定させながら答える。

「船の方はほぼほぼ出来上がってます。ですが『本部』の工作もまだ時間を要すると言う話ですし、こっちはまだ待機で……」「本部?」

 ウィリスが顔を上げ、ペンチを部下に向ける。

「俺はあの船の話は聞いたが、本部だか何だかのことなんぞ、どうだっていいんだよ」

「えっ?」

「組織だの大閣下だの、んなこたあ俺の知ったこっちゃねえ。俺はそんな誇大妄想狂に付き合うつもりはこれっぽっちもねえんだよ。俺はあの船を使って『一稼ぎ』する気しか無い」

「そんな……」

「おいおいおいおい」

 ウィリスはペンチをがりっ、と手下の口にめり込ませた。

「はがっ!?」

「まさかお前までダリウスのおとぎ話に付き合うつもりじゃねえよな? 合衆国征服作戦なんぞ、やったところで何になる? どう見積もったって、失敗する話じゃねえか。いや、仮にマジで成功したとして、結局は合衆国がどっさり抱えてる面倒事や厄介事を、俺たちが背負い込む羽目になるってだけじゃねえか」

「へ、へもぼふ、だひかっかほ、ひがんへふひ(で、でもボス、大閣下の悲願ですし)」

「その大閣下とやらも、結局面倒事は全部他人任せだろうぜ。『朕が新たなアメリカ国王であるぞよ、オッホン』とか何とか偉そうなこと言って、ふんぞり返るってだけさ。王様気取りのボケジジイが、実務なんぞするわけがねえ。『それはお下々の役目であるぞよ』って言い捨てて終わりだろうさ。18世紀生まれの、棺桶に片足突っ込んでるような亡霊が考えることなんぞ、その程度さ。くだらねえ。まったくもってくだらなすぎるぜ!

 そんなくだらねえことより、もっとシンプルにカネ稼ぎすりゃいいじゃねえかよ。なあ?」

「ひが……ひかひぼふ、あんはが、へふふはんほ、やっはっへほほを、ほひひがひっはは(しかしボス、あんたがヴェルヌさんを殺ったってことを、組織が知ったら)」

「関係ねえなあ」

 ウィリスはペンチを開き、手下の口をこじ開ける。

「ひぎ、ひっ、がっ」

「こっちにゃその組織が計画遂行のために寄越してきた武器が、山のように積んであるんだ。何百人けしかけて来ようが、返り討ちにしてやるさ」

 ようやくペンチを引き抜き、ウィリスは顔面を手下のすぐ側に寄せて、こう続ける。

「だからお前もバカなことは考えず、俺の言うことだけを聞いてりゃいいんだよ。分かったな?」

「はっ……はい」

 ウィリスの威圧と脅し――そして抗えない気持ちにさせるその獣じみた眼差しに射抜かれ、手下はうなずくことしかできなかった。

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