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化かし合い

 列車は本来の運行計画通りに走行を続け、やがてとある峡谷に差し掛かったところで、がくんと速度を落とし、停車した。

「なんだよ、おい……?」

「おい車掌! どうなってんだ!?」

 当然、乗客たちはいぶかしがり、ぞろぞろと列車を降りて来る。車掌も列車から降り、慌てた様子で機関車へ駆け寄った。

「マント、何があった? なんでこんなところで停めるんだ?」

 いかにも想定外の出来事があったかのように振る舞ってはいるが、彼も組織から依頼された身であり、ここまでは予定通りだった。

「へえ、急に車体が軽くなっちまったんで、どうもこりゃあどこかの連結が外れちまったんじゃねえかと思いやして」

 機関士のカルロスも予定通りの回答を返し、車掌もそれを受けて演技を続ける。

「なに、連結が外れただって? ……あーっ!」

 おおげさに驚いて見せ、バタバタと列車の後方へと走り出す。

「本当だ、こりゃ大変だぞ!」

 車掌と機関士が大騒ぎしている様子を、乗客たちは遠巻きに眺めている。

「なんだなんだ?」

「列車の連結が外れたってさ」

「走行中にか? こりゃニュースになるな」

 乗客たちも列車の後方へと向かい、機関車周辺にはカルロスだけになった。いや――。

「さてと」

 機関車から、ジェフが姿を現す。

「では私はこれで失礼するよ。例の件も忘れんように」

「ああ。しっかり覚えとくよ」

 カルロスに背を向け、歩き出そうとしたところで、彼が声をかける。

「お、おい!」

「どうかしたかね?」

 ジェフが振り向いたところで、カルロスは機関士帽を取り、頭を下げてきた。

「ありがとう。気を付けてな」

「うむ」

 ジェフも帽子を取ってそれに答え、そのまま歩き去った。

 そうこうしている間に車掌が後方から引き返し、カルロスに小声で耳打ちする。

(予定通り、10号車から後ろは目的地で切り離しておいた。1時間後に引き返すぞ)

(分かった。車輌トラブルで引き止め、だったな)

(ああ。適当に直す演技しといてくれ)

(オーケー)

 もう一度車掌が乗客の方へ向かい、説明を始めたところで、カルロスはジェフが歩き去った方角に目を向けたが、既に荒野のどこにも、彼の姿は無かった。


 ジェフは丘陵を静かに駆け、その向こうに見えるもう一本の線路――組織がジェフ暗殺を仕掛けるポイントが見渡せる位置に到着した。

(ふふふ……、さぞ困っているだろう。主賓が不在とあっては、パーティも盛り上がらんだろうからな)

 ジェフの予想通り、列車を降りた男たちは、呆然とした様子でうろうろしている。

「どうすんだよ……」

「んなこと言ったって」

「戻るか?」

「いや、戻ってどうすんだよ」

「もしかしたら前の車輌に乗ってたかも知れないしさ」

「だったら何だよ? いたら撃つのか?」

「アホか。他の乗客に殺しの現場、バッチリ見られるじゃねえかよ」

「だろ?」

「だから、じゃあどうすんだよって」

「……うーん」

 どうやら挽回策を見出だせず、動くに動けないでいるらしい。

(好機だな)

 相手の困惑を察したジェフは、彼らに気付かれぬよう、こっそりと機関車へと近付く。そのままするりと機関車に乗り込み、炉が十分温まったままであるのを確認して、そのままブレーキを抜く。

「とりあえずさ、こんなところでボーッとしてても、……ん?」

「あれ? 列車、動いてないか?」

「なわけねーだろ。ブレーキかけてるんだぞ」

「いや、動いてるって。ほら!」

「はぁ? てめえ目がどーかして、……して、……ないな。動いてる」

「なにを呑気なこと抜かしてやがる! 誰かいるぞ!」

「あっ!?」

 ようやく男たちが気付いた時には、機関車は既に時速10マイル、20マイルと加速を続け、人の脚では到底追いつけないスピードに達していた。

「ま、待てー!」

「停まれ! 停まれって!」

 慌てふためく彼らの様子を耳で感じながら、ジェフは肩をすくめた。

「やれやれだ。古今東西、『待て』と言われて素直に待つ者がいたためしがあるのかね?」

 彼らの姿が完全に地平線の向こうへ消え去ったところで、ジェフは機関室の壁に貼り付けられた地図を確認した。

「ふむ、50マイル先の分岐に入り、そのまま170マイル南進か。丁寧なご案内、痛み入るよ」

 ジェフは鼻歌を歌いながらレバーを操作し、機関車の速度を上げた。

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