表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

最大にして最後の作戦

「お久しぶり、リーランドさん」

 エミルが電話をかけた相手――道楽者の大富豪、ロドニー・リーランドは、嬉しそうな声で答えてきた。

《おわおっ!? なんかクールセクシー系のお声のお嬢さん!? ……え、えーと、失礼、あの、誰ですか?》

「ありがと。エミル・ミヌーよ。覚えてるかしら?」

《えみ……えみる、えー、……あっ、あー、うん、覚えてる、バッチリ、オーケー。です。あっ、えーと、え、エミルさん、いや、……オホン。エミル、俺に電話って、あの、何か用事が?》

 しどろもどろのロドニーに、エミルは淡々と用事を伝える。

「あたしがあなたに預けてたお金、いくらくらいになったかしら?」

《お金? お金……お金……おかね? ……あー! あー、はいはいはいはい、お金ね、うん、あの、アレだ、ダイヤ鉱山のヤツだよな?》

「そう、そのそれよ」

《えーと、ちょっと待ってくれよ、……おーいグリフィス、あれってどうなった? あれだよあれ、鉱山の利益。……あ、そんな出てたの? へー。……っと、待たせたな。今確認したら、なんか総額1200万ドルくらいになったってさ。だからあんたには120万ドル、……じゃないっけ、あん時の10人で10等分だから……》

 話をさえぎり、エミルが続ける。

「それ、今ちょうだい。100万ドル分」

《……へ? 今?》

「今すぐ、100万ドルが必要なの。仲間も納得してくれてるわ」

《いや、今ったって、現金で送るのは無理だぜ。渡すとなると、俺が立て替えないと……》

「お願い。合衆国の危機を救うためなの」

《……何かすげーヤバそうでデカそうな話だな》

 浮ついていたロドニーの声が、一転して真面目なものになる。

《分かった。今すぐ探偵局に送ればいいのか?》

「いえ、……局長、さっきの会社ってどこ?」

「N州のウエスタンテレグラフ&テレフォン社だ」

「ありがと。聞こえた? そこに送ってちょうだい」

《分かった、送金しとく。送金者が俺の名前じゃ変だよな?》

「ええ。ジェフ・F・パディントン名義でお願い。送ったら向こうに連絡しておいて」

《オーケー。じゃ、すぐ銀行に言っとくわ》

「ありがとね」

《あ、あ、ちょっと待った。あの、エミル》

 と、エミルが電話を切ろうとしたところで、ロドニーが呼び止める。

「なにかしら?」

《あのー、えーと、……こ、今度お茶とかどうかなって》

「いいわよ。あなたがN州に来た時にでも、ね」

《おっ、おう! んじゃ、また! じゃあ、あの、じゃあ……》

 そこで電話を切り、エミルは受話器を局長に返した。

「ありがとう。では返事を聞いてみるとしよう」


 1時間後、再度電話をWT&T社へとつないだ局長は、今度は安堵した表情を浮かべていた。

「……うむ。……うむ。それで構わん。では、よろしく頼む」

「どうでした?」

 尋ねたアデルに、局長は大きくうなずいた。

「二つ返事でオーケーしてくれた。まもなくC州の電信電話網は不通となる。これでポートショアの残党が本拠地に連絡することは不可能になった。ただし1週間の間だけだがね」

「そ、それだけですか?」

 困った顔をしたサムに、局長は肩をすくめて返す。

「向こうも商売だ。それ以上停止させれば、被害は100万ドル以上になってしまう。これ以上エミルの財布をかじるわけには行かんだろう?」

「そ、そうですよね……、はい」

「よって、この1週間以内にすべての決着を付けなければならんと言うわけだ」

 その言葉に、局員全員の顔に緊張の色が浮かんだ。

「決着……」

「そうだ。具体的に言えば、この1週間で我々はC州に到着し、装備を整えてサンドニシウス島に上陸し、大閣下を拘束せねばならん。でなければ1週間後、C州の電信電話網は回復し、異状を伝えられた組織は大慌てで島を飛び出し、行方知れずになる。そうなれば我々がもう一度組織の尻尾をつかむことは、向こう10年は不可能になるだろう。

 そしてその優位を利用しない大閣下ではなかろう。その10年の間に、いや、1年以内にででも、合衆国殲滅のために培っていた資金と人員、そして銃火器を、我々探偵局の殲滅のためだけに傾斜投下してくれば、我々はひとたまりもあるまい」

「……」

 誰ともなく、ゴクリと固唾を飲む音が響く。

「諸君」

 局長が淡々と、しかし威厳をにじませた声で続ける。

「これが我々と組織の、最後の戦いになるだろう。全身全霊を以て、任務に当たってくれ」

 その言葉に、自然と全員が敬礼していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ