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組織を出し抜け

 米軍海兵隊によってウィリス・ウォルトンとその手下が拿捕された後、ようやくパディントン探偵局の面々は、局長と再会することができた。

「ありがとう、リロイ。とても助かったよ。カルロスに送らせたメッセージが、タイミングよく届いたようだね。私の狙った通りだったよ」

「言うことはそれだけかい?」

 ねぎらう局長に対し、リロイ副局長は苦々しい顔を向けている。

「僕たちがこの2ヶ月、どれだけ苦労したか分かってる? その上君からの要請を全うするべく、合衆国各地に散ってた局員を大急ぎで呼び戻し、米軍へのコネを総動員して海兵隊を動かし、その上こうして船に乗せてもらうのに、どれだけ手間とお金を使って僕が頭を下げまくったか、それが分かった上でそんなとぼけたことを言ってるのかい?」

「……ふむ」

 局長は肩をすくめ、臆面も無く言ってのけた。

「ご苦労だった。すまなかったね」

「それでチャラにできると思ってるわけじゃないよね」

 そう返して、リロイは局長をぶん殴った。


「本拠地が分かったの?」

 局長の話を聞き、エミルが驚いた顔をする。

「うむ。C州の沖合い、サンドニシウス島だ。地図はあるかね?」

 海兵隊から地図を借り、一同はC州の辺りを確認する。

「ここね」

「組織はここで巨大な戦艦を建造し、パナマに運河を掘った上で、そこを通過してカリブ海東を航行し、バミューダ諸島西沖でこの町から出た護衛艦と合流し大船団を組織した後、DCへ侵攻する計画を立てていたらしい」

「パナマに運河ぁ?」

 これを聞いて、アデルが呆れた声を上げる。

「んなこと、マジに考えてるんですか?」

「彼らは真剣だろう。結構な額の資金も集めているらしいからな。ま、運河があれば大西洋と太平洋をつなぐことができるわけだし、便利なことは確かだろう」

「で、でも、もし本当にそんな運河ができちゃったら」

 サムの言わんとすることを、リロイが答える。

「合衆国政府はびっくりするだろうね。予想もしてないルートからの侵攻だもの。状況によっては、かなりの打撃を受けるかも知れない」

「で、ですよね」

「しかしこうして計画を察知した以上、最早その成功はありえん。当然、米軍上層部は対策を講じるだろう。

 しかし我々としては、そこからさらに先手を打ちに行かねばなるまい」

「そうね」

 エミルがうなずき、話を継ぐ。

「本拠地が分かった以上、何としてでも襲撃して、壊滅させなきゃね」

「うむ。全く同意見だ。だが懸念すべき件がある」

 そう返しつつ、局長は地図を指差した。

「幸か不幸か、『ウルフ』が町の電信電話網を破壊したことにより、組織の人間は町とアジトの状況を島に伝えることができなくなっていた。鉄道も破壊しているから、大急ぎで隣町へ駆け込み、電話を借りるようなこともできん。加えて、ヴェルヌから『ウルフ』に乗り換えた日和見者たちだ。『ウルフ』を怒らせてまでその事実を伝えに出るような気概は持ち合わせていまい。

 だがこうして『ウルフ』が捕らえられ、米軍に占拠された今、流石にこの事実を伝えないわけにはいかん。米軍は『全員拿捕した』などと威張り散らした顔をしているが、調べれば2、3人くらいは捕り逃していることが判明するだろう」

 局長の背後に立っていた海兵隊士官がほんのわずかながらも顔をしかめさせたが、局長はそのまま話を続ける。

「隣町へは300マイルほどだ。馬を使えば6時間程度で着く。そして米軍包囲から既に2時間が経過している。つまりこのまま看過すれば、組織は4時間後にポートショア陥落と、DC襲撃計画が露見した事実を知ることになる」

「となると……」

 神妙な顔をしたアデルに、局長はうなずいて返す。

「間違い無く逃亡を図るだろう。そうなればすべてがふりだしに戻る。いや、組織は今以上に用心深くなる。今回のような幸運は、最早訪れまい」

「じゃあ、急いでそいつら捕まえりゃ……」

 ロバートの提案を、エミルが首を振って却下する。

「どうやって追いつくつもりよ? この船が陸も走れると思ってるの? 車輪なんか付いて無いわよ」

「う……」

「そう言うことだ。今から馬で追いかけても、到底間に合うまい。……が、電気は馬よりずっと速い。追い抜くのは非常に容易だ」

 局長はニヤッと笑みを浮かべ、町を指差した。

「電信電話網が破壊されたとは言ったが、厳密にはサルーンとアジトにあった電話と、電報局を破壊しただけだ。電柱自体は生きている。リロイ、君なら電話を直せるだろう?」

「ま、心得はある。……で、どこに電話するんだ? まさかC州にじゃないよね」

「うむ。私の友人のところにだ」

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