【外の世界へ】
僕はレミナを連れて、学院の外まで出た。外はまだやっぱり薄暗く、風もないのか草や木々の音もしない。整備された広い人口道にも誰もおらず、虫の音も空が少し明けてきたためか静かだった。
今は朝の4時くらいだろう。
学院の門の警備員さん以外誰にも会うこともなくここまでやってきた。
「う?」
「レミナ、これからバイクに乗るよ。バイク」
「ば、いく……」
僕は前もって用意してもらっていたモーターバイクを停めてある所までレミナと歩く。
「……眠い」
まぁ当然といえば当然だ。
夜中の0時半ごろに叔父に呼び出されて自室に戻った後、貴重品や最低限の服や飲料水などをカバンに入れて出かける準備した。
その後すぐにレミナがいた地下まで行って…今に至るのだ。
僕はあれから一睡もしていなかった。
「ゆ、あ……ゆ、な」
「ん? 大丈夫だよ。これからちょっと寄り道していこう。どこ行こうかな。レンバースまで結構距離があるからね」
「ゆ、な……」
「ん? ユナって言えた?」
レミナはニコッと笑う。
笑い方もやっぱりリンに似ていると僕は感じた。
同じ顔なのだから当たり前だが。
「すごいじゃないかレミナ。僕のこと呼べたね」
「ゆ、な……ど、こ」
「う〜ん、そうだねぇ。ここからちょっと先に行くと、メラクニル村がある。そこへ行ってご飯にしようか。お腹すいたよね」
「めら、る、にる。す……いた。ゆ、な」
「メラクニル。舌を噛みそうな名前だよねぇ……さぁ着いた。これに乗れる? 後ろの所」
僕はそう言って、バイクの座席の後ろ部分を手でポンポンと示した。
レミナは察したのか、機体の真横からよじ登る。
彼女の体格にとってこのバイクは少々大きいようだ。
「あーーー! で、きた! ゆな!」
なんとか後部座席に座ることができたレミナは嬉しそうにそう叫んだ。
「……すごい。言葉どんどん進化してる」
僕は思わず感嘆の声を出した。
先ほどの金庫室の中でのやり取りを考えるとすごい早い進歩だった。
「レミナは話せないんじゃなくて、今まで本当に話したくなかったんだね。まぁ分かるけど。僕もね、学院でリンたちに会うまでは周りの大人たちと勉強や研究以外のことで話したことなかったよ。はっきりいって周りの環境が悪いよねぇ……僕は自分の母もあいつらも大嫌いだよ」
レミナはきょとんとした顔をしていたが、黙って僕の話を聞いていた。
「……君を送り届ければ、僕はまたリンたちとの生活に戻れるんだ」
僕は心の中でずっと引っ掛かっていることがある……ずっと気にしないようにしていた。
「ゆ、な。あ、いつ、き、らい」
「ん?」
「あ、いつ。まら……から、きらい‼︎」
「マラカナか。あの人はどこ行っても嫌われものだねぇ。まぁ自分のことしか考えてないからね。あんな性格になれたら僕も楽だったろうなぁ……」
周りを自分の都合のいいように利用し、捨て、蹴落としていければ、きっとこんな風に悩まない。
「リンを取るか、レミナを取るか……僕は選ばなきゃ行けないんだよね」
それは一体誰のためなんだろう。
自分のため? 大切な友達のため?
いや……全部自分のためだな。
僕はこの小さい命を見捨て、この子が嫌がっている所へ連れていこうとしている。
そうすることで自分は元の生活に戻れると。
バモールに連れていかれたレミナはまた薬物や機械的な実験の生活が延々と続くことになる。
そしていつか使えなくなったと判断された時に処分……いや殺されるのだろう。
それを分かっていて、僕は自分の平穏な生活に戻るために、後押しをするわけだ。
……平穏?
本当に平穏だろうか。
学院にいたって、所詮は叔父の管轄内。
飼われているようなものだ。
いつまたみんなと引き離されるか分からないし、いずれ……リンも。
「もしこのまま僕がレミナと失踪したら、次の兵器開発も滞るし、叔父の立場はかなり悪くなる。信用していた自分の人形に裏切られれば、少しは落ち込むこともあるのか……?」
「ゆ、な?」
レミナはじっと立って、考え込んでいる僕を不思議そうな顔で見ていた。
……これは賭けだ。
でも誰かがアクションを起こさなければ、この国の体質は変わらない。
リンには僕と同じように大事な仲間がいる。彼は僕なんかより能力も心も強い。
「きっと、いつか気づいて……くれるかもしれない。この歪んだ国や政府のやり方に」
「ゆな、ど、した?」
「あ、レミナ、ゴメンね。僕は決めたよ」
言われてレミナは、首を傾げる。
「とりあえずね、メラクニルはやめて港に行こう。海を渡るよ。この国をまず出なきゃ……」
僕はそう言って、バイクにまたがり北東の海の方へ発進させた。
『ユナとレミナの物語』はここで終了です。
次回から、本編の後半部分へと突入していきます。
これからもどうぞ、よろしくお願いいたします(^^)




