【呼び出されたコロア】
ここは学院の管理ビルの最上階だ。
コロアは学院の管理官に呼び出しを受けていた。
管理官とは国からの役職名で、生徒達から見ればいわゆる学院長の立場である。
「こんなとこに呼び出して何の用ですかねぇ……ジジイ」
コロアは黒い椅子に腰掛けているこの豪華すぎる部屋に全くもって不似合いな年配の男に話しかけた。
「ジジイって……」
年配の男はテーブルの前で立ったまま、つまんなそうにしている若い女性に話しかける。
「コロア、最近お前が一部の生徒達に好き勝手やらせているという噂を聞いたのだが、本当かね?」
「まぁ本当だね。間違っちゃいない」
コロアはキッパリ告げた。
「はぁ、頼むよ。もし、生徒達に何かあったら爺ちゃん心配で益々髪の毛薄くなっちゃうよ。せっかく軍の人も来て守ってくれてるのに、今の状態の中、生徒を《探索》に行かせるとか……」
「それ以上薄くなりようがないだろうが」
「一本もなくなっちゃうよ」
「なくならしとけ」
年配の男、この学院の管理官である学院長は、はぁと深いため息をついた。
「爺ちゃんは2年前にここの管理を国に押し付けられてから、育毛剤の量は倍以上だ。しかし、髪の毛は半分以下になってしまったよ」
「だから?」
「心配で心配で……髪の毛が」
「ジジイ! さっきから髪の心配しかしてねーじゃねーか」
コロアは怒鳴る。
相手に対しかなりイライラしている様子が伺える。
「《探索》チームなんて、やめてしまいたいよ」
「ジジイ」と呼ばれた学院長はそう言って頭を抱えていた。
「てめーバカかよ。こんなとこにずっとガキを閉じ込めてどうすんだ。外行きたいやつだっているんだ。てめーの保身のために生徒を出さないとか言ってんじゃねーよ」
「コロア……」
「子どもは大人の都合の良い人形じゃねーぞ! ずっと籠の中閉じ込めといて、大人になっていきなり外に出されても自分たちの力で生きてけないだろうが。ここの教授どもを見ろ! 頭が良いんだか知らねーがどいつもこいつも保守的なやつばかりで、この学院の中だけで満足しやがる。怖がって外にも出ない。みんなあんな大人になっちまうぞ‼︎」
学院長である年配の男は怒鳴り声で言葉を発するコロアを黙って見つめていた。
彼女は怒り心頭で顔が怖い。
息も上がっている。
そんな様子を傍観していた。
「コロア、爺ちゃんは管理官やめようと思ってるんだ」
「それで?」
「お前ならんかね?」
「は⁈」
コロアは想像もしてなかった、相手の言葉に驚く。
「国からも軍からも学院の体制に不満の声があるようなんだ。他の学校はどうだか知らないが、あの戦争から10年。親に死なれた子ども達もだいぶ大きくなってきた。ここのあり方もそろそろ変わらなきゃならんようだ。しかしお前のようにここに新しい風を持ち込む教授は1人もおらん」
「まぁここの教授どもはそうだろうな」
コロアはやる気なさそうに、そっぽを向いて適当に返答した。
「お前はまだ若いからあの保守的な教授達の意識改革をさせるには、それなりの地位がいるだろう。どうかね?」
「その話をするために呼び出したのか?」
コロアは少し考えている。
このままの学院の在り方では子供たちの未来をいつか潰してしまうかもしれないと常に思っていたのは確かだ。
「爺ちゃんは戦争で娘と婿に死なれて、バアちゃんも既にあの世だし、もう身内はお前しかおらん。リヴァル家の人たちは後継者を早く決めろと圧力をかけてくる。正直かなり困っている」
「ちっ、そういう権力とか好きじゃねーのよ」
今の方が自由にできてるし、担当している生徒たちもかわいい。
だが、それとは別に今は問題も山積みだ。
多くの人間が知らないところで世界の命運の分かれ目に足を突っ込んでいる。それはもはやリンたちの活躍にかかっているとコロアは思っていた。
「ワシが引退するとまたワシのようなジジイが来る。上は人手不足も人手不足だ。もうこの国はジジイと子供達しかおらんのでな」
「ジジイ連鎖はいやだな。ここの《研究》チームのエリート達はダメなのかぃ? 私くらい年齢のやつもいるだろ?」
「あやつらは研究しか興味を持ち合わせておらん。学院の運営なんて到底無理じゃろう。コロアは今何歳じゃったかな?」
いきなり年齢を聞かれコロアは祖父である学院長を不審な目で見た。
「耄碌したのか? ジジイ。今年で25歳だ。7年前に前の学院長……グレイダー将軍の推薦でここの教授になったんだ。ワケもわからず」
「ほっほっほ。首席で飛び級したからの。18歳で教授に……ここではそんな生徒はお前しかおらん。ジジイ連鎖を止めてくれんかね」
「管理官の件、来年くらいなら考えといてやる。今は問題が山積みなんだ。こっちを解決しないと。まぁここの生徒達のためなら喜んで体制を変えてやるさ」
コロアはそう言って、部屋を出て行った。




