【俺は守るからね】
ピストシア帝国はロットとストゥートの南に位置している大陸にある。
気候はとても暖かく、雨は少ない。
国の面積はロットよりもずっと小さいが、色々な国と陸地続きに繋がっていて大陸としては世界で1番大きい。
ここは冬でも氷点下になることはまずなく…国民は皆薄着で日に焼けた小麦色の肌がよく目立つ。ストゥートと違って港で見かける子供も多い。
学院のようなところでずっと生活しているわけではないから当たり前なのだが。俺は船を降りた後、行き交う人を不思議な感覚で見ていた。
(こんな自由は自分の国にはない。いいなぁ……)
暖かい陽の光を浴びながら、俺は1人でぼ〜っと街を見回してその場に立ち止まっていた。
「リン君ー? 行くよ〜?」
「あ、ごめん。つい……」
アパレルに呼ばれ、俺ははっと我にかえる。気づけば、レミナとリリフは港から街の方へとどんどん先に進んでしまっている。
アプは気にして待っていてくれたようだが、先ほどの船での件から少しよそよそしい感じがするのは俺だけだろうか。
とりあえず横にきて隣をさりげなく歩く。彼女には色々と聞きたいことも話したいこともいっぱいあった。
大事なことも含め、天気の話とか好きなもの嫌いなものとか何でもないことでもいつまでも話していたかった。
「あ、アプさ……」
俺は思い切って声をかけた。
「ん?」
「俺さ、いや、あの……」
うまく言えない。
目で見ても分かりやすいくらい、しどろもどろしている。
「なーに?」
「あ、いや」
アプは不思議そうに俺の顔を覗き込む。近い……と益々俺は言葉が出なくなった。
「どうしたのー?」
「ギアスって……」
やっと言えた。
名前だけだけど……
「彼がどうかした?」
「あ、その」
続きが言えない。
なんでだ。
なんで、こんなに言葉が出ないんだ。
自分が嫌になる。
「リン君、ギアスと会ったことあるの?」
「……うん」
アプは少し考え込んで、ふぅとため息をついた。
「余計なお世話かもしれないけど、彼とはあまり仲良くしない方がいいよ? リン君とは全然違う場所に立ってる人間だよ」
「え、それは……」
(どういうこと? ってなんで言葉が出てこないんだ)
「会ったことあるなら分かると思うんだけど、あの人は全てを憎んでるから。彼からは憎しみの感情しか伝わってこない」
「え、だって元彼って……あっ」
慌てて口を閉じるもすでに遅し。
俺はまた失言をした。
「カヲル君もロットの施設で言ってたね。マラカナから聞いたのかな?」
アプがちょっと怒っているように感じる。
「うん、ごめん」
聞くんじゃなかったと、俺は後悔した。もう遅いけど。
「付き合ってたって言えるのかなぁ……アレ」
「え?」
アプは空を見上げながら、そう言い放つ。
「私は彼と手を繋いだこともないよ?」
彼女はこちらに苦笑いしてそう言った。ちょっと俺が思っていた関係と違うような気がしてきた。
「それは……微妙だね」
そう言いながらホッとしている自分がいる。
「でしょう? しかも去年の3ヶ月くらい? 同郷で知り合いだったマラカナに紹介されて、付き合うことは彼から誘われたけど、あんなに心開かない人は初めてだった。友達でもほしくないなぁ」
「なんで付き合ったの?」
「彼の母のことを探りたかったから」
アプは打算的でしょ?っときっぱり言った。
「母?」
「そう。サラ・リヴァル。あの2人の母親で今は国の幹部よ。昔は将軍の教育係って研究所の記録で書いてあったでしょう? 覚えてる?」
「あ、うん。なんとなくね」
俺はそう言って、あの四角い箱たちのガラスに映っていた文字を記憶から呼び戻す。確かにリヴァルってとカヲルと話してた気がする。
「何か知ってるかと思って……10年前の当事者だし。でも何も分からなかった。彼は心を開くどころか私を殺そうとした」
「えっ! なんで⁈」
アプからとんでもない発言があり俺は驚く。ふざけんな!って100回くらい言いたい。
「厳密に言えばマラカナを殺そうとしたギアスを止めに入って殺されそうになったんだけどね。しかもマラカナがちょっと母親の悪口言っただけだった気がする」
「それだけで自分の姉と彼女を殺そうとするの? 聞くだけで恐ろしい。そんなこと……」
「でしょう? リン君とは立ってる場所が全然違うわ。私はその後すぐに別れを切り出したけど、彼は「あそう」の一言だった。あんな人間……関わらない方が1番よ。まぁ私も目的があって彼女の立場を利用してたから人のこと言えないけどね。両親のことになると私はどうも突っ走ってダメだなぁ」
アパレルはそう言って、顔を手で覆った。彼と付き合ったことを後悔しているように見える。そこは俺の願望かもしれないけど。
「アプ……俺は守るからね」
「うん? ありがとう。いつも守ってくれてるの知ってるよ! でも、無茶はしないでね」
あまり気持ちは伝わってないけど、今は言えないけど問題が落ち着いたら俺は今度こそ言葉にする。そう心の中で何度も唱えている自分がいた。




