【船の上で⁈】
「風が気持ちいい」
「海の上だからね」
ここは船の甲板の上だ。
椅子やテーブルも置いてある。
豪華……とまではいかないが、200人ほど乗車できる大きい客船だ。
レミナ曰く、ユナのいる島に行くにはまず船で南に3時間ほどかけピストシア帝国に一度入るのだという。
帝国大陸のちょうど真北にある港から西に4時間ほど海に沿って歩いた先に名もなき漁村があり、そこに馴染みの漁師さんがいて、いつも小船で島まで連れて行ってくれるそうだ。
島までのルートはユナとその漁師さんしか知らないのだという。
「漁師と言っても若いぞ! ユナくらいだ。20歳になっていないと言っていた」
「若いね……」
レミナの言葉にリリフは呟く。
「ユナ叔父の家にいた元使用人の息子だそうだ。戦争になる前に家族でピストシアに逃げてきた。国から逃げてきた人は応援する! と、いつも助けてくれるのだ」
「そうなんだ。逃げてる人もいるんだね」
学院の中では、外の情報はあまり入ってこない。知らないことばかりで、驚いている。
「うむ。不思議な話なんだが、あのユナ叔父が逃してくれたと言うんだ。そんなわけないと、ユナは信じてないようだが」
「父さんが逃がした? う〜ん、まぁ俺やレミナもわざと逃がしたようなことをユナも言ってたし、あり得ない話ではないと思うけど……」
俺はレミナの言葉に少し疑問を感じつつも…真実はまだ分からないと冷静になる。
あぁ、しかし気持ちいい風だ。
そう思ったのもつかの間……だった。
「きゃーーーーー‼︎‼︎」
「なんだ⁈」
後ろの甲板の方で女性の悲鳴がした。
俺たちは慌てて走る。
「⁈⁈‼︎」
「た…助けて!」
「なっ! モンスターか⁈」
俺は叫んだ。
「なにあれ……サメみたいな見たことないモンスター……変異してる⁈」
アプも驚きの声をあげた。
若い女性は足に怪我をしているのかサメの下で前のめりに倒れ、ずりずりと足を引きずり逃げようとしている。
甲板にいた客はパニックになりみんな慌てて逃げて行く。
乗務員も光線銃らしき武器で応戦するが、全然効いていないようだ。
まるで歯が立ってない。
二足歩行のサメのような姿の口の先端には鋭い槍のようなものが付いており、刃先には女性の血だろうか。
なんとも気持ち悪く、禍々しい姿に圧倒される。
「た、助けなきゃ! 最近船でもう何人も食われてるんだ!」
乗務員の声。
「そんな……」
リリフは震えた。
「光線銃も効かないし……」
乗務員の武器ではサメのような硬い皮膚に弾かれ、ビクともしていなかった。
「あ! 危ない!」
リンの体がとっさに動いた。
人に見えない速さだった。
サメの刃が女性に振り下ろされる前に…彼女を抱き上げレミナたちの後ろに移動していた。
「リ、リン君?」
「あ、兄貴、その動きは」
「えっ、あ……」
レミナは驚かない。
「リンも超加速が使えるのだな。レミナもそれぐらいはできるのだ。疲れるので滅多にやらないがな。」
「え、なんのこと……知らない」
「とりあえず手当を!」
俺は女性をその場に下ろす。
リリフは布で女性の足の止血をした。
アプは薬を取り出し塗る。
止血薬、消毒薬、痛み止めのアプ特製配合薬だ。そして包帯で巻いた。
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」
女性は泣きながら何度もお礼を言っている。アパレルはそばにいた2人の乗務員に彼女を託した。彼女は担架で下まで運ばれていく。
「うわわああ」
今度は男の乗務員の悲鳴。
襲われている。
このままじゃ……
「ヤバイ! 逃げろ! 無理だ!」
「1人食われれば満足する!」
応戦していた乗務員たちも、叫びながら逃げ出し始めた。
襲われている乗務員はなすすべもなく倒される。
そして上からサメの刃が振り下ろされた。
「クソ!」
俺は床を蹴り、再び飛んだ。
今度はさっきの女性のようには…間に合わない。
仕方ない。
見殺しにはできない。
俺はサメの落ちてくる刃と乗務員の間に入った。
瞬間、鈍い音と衝撃の後に…胸から背中にかけて何かが貫通した感覚があった。
少し遅れて、鮮血が飛び散る。
「ぐはっ……」
俺は声にならない声が出た。
サメの刃はまだ体に突き刺さったままだ。
「リン動くな! 待ってろ!」
レミナはモンスターの隙を見逃さない。
隠し持っていた鞭のような武器を瞬時に取り出し、変異サメを高速で打った。
速すぎてアプたちには見えなかったかもしれない。
サメは一瞬でバラバラになり、その場に崩れ落ちた。
俺はサメの肉片と返り血を頭からを浴びる。
もう自分の血なんだか、サメの血なんだか……
しかし致命傷か?
その割には痛みがない。
「リン! 大丈夫か?」
「あ、レミナ」
「敵の前に割り込むやつがあるか! 私たちでなければ死んでいるぞ」
「兄貴!」
「リン君!」
「あ、え……」
服は破れている。
破れているが……体に穴がない。
傷すらない。
確かに自分の体をサメの刃が貫通したはずだった。
完全に死を覚悟した……のに。
「え、どういうこと」
「あ、ありがとうございました。助けていただいて…あなた方はスゴイんですね。その、あの……お風呂入ります?」
「あ、ぜひ」
俺は自分の置かれている状況がつかめず、トンチンカンな返事をした。




