【港で3人は】
人出が少ない今日は、なんとなく歩きやすい。いつもは人でごった返ししている市場もほとんどの店が閉店しており、寂しいくらいだった。
グレースはワイズとカヲルを連れて、リンたちの実家のある頂上から坂を下りた。
そのまま港の奥へと進み閑散とした市場を抜けた先にある宿街で泊まれる所はないか探しに来ていた。
「覚悟してたけど、なかなかやってないもんだなぁ……」
カヲルはぼそりと呟いた。
「まぁ、こんな非常事態だし仕方ないわね」
ワイズも答える。
すると、グレースの荷物からスキャナーの呼び出し音が響いた。
「あ、教授から。ちょっと失礼」
そう言ってグレースは離れていった。この場にはカヲルとワイズが2人残されていた。
「カヲル……」
「ん? なーに?」
ワイズは隣で静かに立っている人物の名前を呼んだ。
そして尋ねる。
「ホントはさっき叩きたかったのはリンじゃないでしょ?」
「……うん」
「リンは、きっと彼女に強く頼まれて……」
「……わかってる」
カヲルはいつもの元気な様子はなく、静かに返事をしている。
「自分が頼られなくて……傷ついた?」
「そう。ホントは心配よりも落胆してた。自分が彼女にとってそこまでの人間じゃなかったって思い知らされた気がした」
ただ、真っ直ぐ前を見据えたまま…彼はこちらを見ない。
「リンは親友でしょ? 兄弟みたいな……」
「そうだよ。大事な相棒だ。……でも嫉妬した」
ワイズは正直だねと、呟いた。
「その気持ちは分かる。私もね、よくある。特にね、カトレアみたいな誰もが振り向くような綺麗な子がいつもそばにいるとね。すれ違って振り向く人はあ〜きっとカトレア見てるんだろうなぁって思うの。まぁあの子はあんな調子だから、ただそれだけで終わるのだけど……」
「ん?」
「最近はアプが来てから、自分の汚い心を常に思い知らされる。頭が良くてスタイルも良い……誰とでも仲良くできるあのキレイな子が羨ましい。グレースに声かけたり話してる所を見ると……けっこうツライ。こっちが勝手に思ってるだけで、当人たちは全然そんなこと考えてないんだろうけどね」
ワイズは最後にどうして人を好きになるだけでこう苦しくなっちゃうんだろうね……と言った。
「リンは生まれた時から特別過ぎる存在で、どんな境遇も受け入れてしまう。そしてどんどん先へ進んでって俺なんか置いてかれる。だからリリフも頼るんだ。分かってる」
カヲルも眉をひそめて自分の力のなさを呪った。リンを叩いたのは心配してたわけでもなく、ただの…八つ当たりなんだと分かっていた。
「カトレアが必死になってたから、ここまで付いて来たけど、少しあの子たちから離れた方がいいのかもしれないわ、私は。自分のどす黒い感情で大事な仲間の足を引っ張りたくない。私は明日、船に乗らないでこのまま帰ろうと思うの」
「俺もそうした方がいいんだよな。距離を置いて……いや、もう少し自分が成長したい。あの2人にカヲルがいなきゃダメだ! って思わせたい。俺にできること……何かあれば。うん……そうだな。ずっと逃げてたけど、覚悟を決めるか……よし」
カヲルは何かを決意したように握りこぶしに力を入れた。
「……どうするの?」
「俺はとりあえず親父の所に行ってみようと思う。今アプの両親の仕事をしているなら何か知っているかもしれない。それと同時にもし今回の事件の首謀者とかだったらやだな〜って思ってる。危険かもしれないけど、それを確認したい」
カヲルの言葉を聞いて驚いていたが、ワイズは少し考えていた。
「私も行っていい?」
「いいよ。明日、2人で行くか」
「うん。とりあえず自分にできることからやりたい」
ワイズはカヲルに告げた。
彼はバモール研究所はどんな所かも分からないが頑張ろうと言った。
「ただいまーふぅ。ごめんな〜コロア教授のグチに付き合わされたよ。船に乗って島に渡ることを伝えたら、さすがに誤魔化しきれないって怒られた。戻ってこいとは言われなかったけど、いやーめちゃくちゃグチこぼされたよ。はは」
事情を知らないグレースは笑いながら戻ってくる。
「あのね、グレース私たち……」
ワイズは何か分かるかもしれないと明日カヲルの父に会いにレンバースの研究所まで訪ねに行くことを伝えた。
もちろん、カヲルと一緒に。
グレースにそれなら自分も行こうか?と提案されたが2人で行くと断った。
「あのメンバーじゃ道中心配だから、グレースもついて行って……」
我ながら都合よく言うものだ。
「まぁ確かに。何も起きないはずの場所でも何か起こしそうなメンツだしな。分かった。2人とも気をつけてな。さて宿を探そうか」
「そうね」
3人は再び宿探しに戻った。




