【これってモテ期とは言わないから!】
「あらあら今日は賑やかね……」
懐かしい声が聞こえた。
俺とリリフは家の前でみんなと母が帰宅するまで待っていたが、夕方になる前にとグレースやワイズは港で宿を取りに戻った。
この場に残っていたのは、俺、リリフ、レミナ、カトレア、アプの5人だ。
カヲルはグレースたちについて行ってしまったが、俺は今回ばかりは仕方ないかなと思っていた。
(気まずいもんねぇ。まぁたぶんカヲルが怒ってるのはホントは俺じゃなくて……)
ちらりと横にいるリリフを見る。
まだあどけない顔立ちと肩くらいまである灰色の髪、14歳にしては小さめの身長で華奢な体だ。
学院で彼女が母に会いに行きたいと訴えたあの時……幼い見た目の印象とは逆に真面目でどちらかというと落ち着いた性格の妹が、初めて俺に見せた我儘だった。
(カヲルに心配かけたくないって、黙って抜け出したことが裏目に出たな。さて、どうしようかね。やっぱりこういう場合は時間が解決なのかね……)
どちらの気持ちを取っても、2人のいい結果にはならなかっただろう。
実際、あのタイミングでないとレミナと出会ってもいないかもしれない。
そうすると、ユナとも話せず……
成り行き上、起きてしまったことは後悔しても仕方がない。
カヲルにはいつか許してもらおう! と俺は割りきることにした。
「母さん! 久しぶり!」
俺はそう言ってやっと帰ってきた母のそばに走った。リリフは下を向いて落ち込んだまま、ちらっとこちらを向いて静かに歩いて来る。
「リン、リリフ久しぶり。でも、急にどうしたの? 学院はクビ?」
母はそう言ってしばらく見ないうちに二人とも大きくなった……と呟いた。
母の名はリサ・グレイダー。
ユナとリリフの産みの親だ。
戸籍上は俺の父の妹で俺の育て親でもある。そもそも遺伝子上では俺は父のクローンでこの辺の事情はかなり複雑だ。
そろそろ40歳にもなろうとしているリサはリリフと似ており、年を重ねた分さらに落ち着いた雰囲気がある。
実の母ではないことは最近知ったのだが、俺にとっては紛れもない自分の大事な母に変わりなかった。
「あ、えっと色々あってね。あと、ちょっと母さんに聞きたいことがあるんだ。今日泊めてもらえる?」
俺は聞いた。
「別に構わないわよ。あまりキレイな家じゃないけどね。それにしても女の子ばっかり……リンも随分モテるようになったのねぇ」
「えっ! いや、これはたまたま……」
何を勘違いしたのか、母は突拍子もないことを急に言い出す。
「随分と小さい子もいるけど、みんな彼女かしら? キレイな子ばかりねぇ。タイプも違うし……節操ないわぁ。やっぱり見た目も中身もソルトウェルトに似てきたわね」
「えっ……」
見た目はともかく、中身まで父に似てるとかすごく嫌な感じである。そう言いながらリサはとても優しそうに笑うので俺の心境はとても複雑だった。
(それに今ソルトウェルトって……もしかして、母さんは……)
「あ、初めましてアパレルと申します。リン君には学院や色々な所でいつも大変お世話になってます。命助けられたりも……ホントいつでも守ってくれてます」
(あ、うん。その通りなんだけどね。ちょっと言い回しが気になるなぁ……)
アパレルは不束者ですがよろしくお願いしますと言って深くお辞儀をした。
「カトレアです。リンリンとはいつも(みんなとも)仲良しです。あ、でもそれは私が一方的に思ってるだけなんで(自分がみんなと仲良しなんてそんな)つまり片思いです!」
(ちょっ……! カッコの中もちゃんと言ってよ!)
俺は焦る。
微妙な言い回しにさらに母に誤解を生みそうで冷や汗ものだ。リリフは二人の会話を横で静かに聞いていた。しかし、元気はない。
この様子だと彼女にフォローを求めるのは無理そうだ。
「レミナだ。よろしくな! 母君。わたしは今日知り合った。イキナリ連れて来られた。いわゆる流行りのナンパだな! 一目惚れされたに違いないな!」
そしてレミナのとどめ。
「みんな誤解招くような言い回しはやめて〜! 母さん! このメンバーはたまたまだからね! 今他の3人が港に宿を取りに行ってて、いないだけだよ!」
俺は慌てて弁明する。
変な誤解はご勘弁願いたいものだ。
とくにそこのリリフと同い年にもかかわらず、幼女にしかみえないヒト。
「そう。でも、最後は1人に絞ってね。誰も傷つけちゃダメよ? ホントにあるのね、モテ期って」
「分かってない……違うからぁ」
俺の悲痛な呟きも母には伝わらなかった。




