【マラカナ・リヴァル】
「もう軍の人たち来てるよ、兄貴」
「あ、ホントだ。やっぱり相当な異常事態なんだなぁ」
俺たちは4号館を出たあと、女子寮に向かって公園の池の周りの道を歩いている所だった。公園の広場や芝生の辺りで何人もの軍人が入れ替わり立ち替わり慌ただしく動いているのが見える。
「ちょっと君たち! 危ないから早く寮の方に戻りなさい」
兵士と思わしき人間に呼び止められた。
「あ、《探索》チーム・Bグループのリンです。こっちは妹のリリフ。これから妹を寮の方に送っていく所です」
俺は慌てた様子もなく、簡単に告げた。
「《探索》? モンスターと戦闘経験のある生徒ですか。リン……あ!」
兵士は何かに気づいたのか、近くにいた偉い人と思わしき軍人に駆け寄り「ちょっと」と耳打ちをしていた。
呼ばれてこちらを振りむいた人物に…俺は見覚えがあった。
「どうし……んー? あーこんにちは〜この間はアレありがとね〜」
この声はマラカナ・リヴァル。
俺の父さんであるソルトウェルト・グレイダー将軍の秘書だ。
「お前、もういいわ。下がれ」
「はっ!」
「私はこの二人と話す。極秘だ。全員持ち場に戻って待機してろ」
マラカナはそう言って、兵士たちをこの場から引き取らせた。そして公園から誰もいなくなった後、こちらに寄ってきた。
「こんにちは。これから妹を寮に送っていく所です」
「そうなんですねぇ。放送で聞いてると思うけど、モンスターの異常行動が起きたから一応軍が配備されています。まぁここは絶対守りますから安心してね〜? しっかし捕獲したモンスター100匹どころじゃないって話らしいですよ。国のトップはなるべく殺さずに…って全く無理言ってくれますわ〜! まぁちょっとくらい死んじゃってもいいかな〜なんて」
マラカナは俺とリリフの目の前でまたベラベラと一人で話し出す。
(この人……いつも情報こっちにダダ漏れしてるけど、ホントに軍の幹部なのか? まぁ色々と分かって都合がいいけど)
「そろそろ本格的に、5かなぁ……」
マラカナはボソッと呟く。
「……ご?」
「あ、こっちのことです。まぁ君は1ですねぇ。ははは、察し?」
5体目の生物兵器ってことか?
「ねぇ、リンでいい? 君はなんか特殊能力的なものまだ何もない感じですか?」
マラカナは作られたような笑顔をこちらに向けいきなり聞いた。
「たぶん。そもそも兵器とか実感すらない。ちょっと人より丈夫かな? ってくらい」
「う〜ん。そうですよねぇ。これ機密なんだけど君ならいいか。ユナとレミナの目撃情報があったんです」
「えっ」
突然、ユナの情報が入りびっくりする。
「そう、ロットで。ちょうど君と私が話をした日。お店に来たみたいです」
「お店?」
「とーまの道具屋」
「は?」
聞いたことがない名前だった。
どこの村だろう。
「知らないですよね。私もよく知らないんですが、なんかユナとレミナの身体的特徴が一致する人間が遊びに来てたらしいんですよ。道具屋さんに来た客の1人が長い青髪の小さい女の子連れた若い男の新客があったって吹聴してたようです。君や将軍と同じ髪の色。で、君にちょっと行ってもらいたいなぁなんて。どうも場所が村とかにはない店で、全くどこか分からないんですけどね」
マラカナはヘラヘラと笑って見せる。
「それじゃ探しようがないような……」
ずっと黙って会話を聞いていたリリフも思わず声に出して呟いた。
「ま、そうですよねぇ。こんな事態だし今は君も動けないと思いますが、ちょっと興味あったら、その道具屋探して店員に詳しく聞いてくれないかなぁと。あ、こちらで外出の許可出しときますから」
「なんで、そんなに極秘なことをいつも俺に頼むの?」
素朴な疑問だった。
おおよそ味方とは思えない自分たちを頼ってくるこの軍人が理解できない。
「う〜ん。まぁはっきり言って、私や将軍は今、国や軍に嫌われてるもんで、孤立してるんですよね。学院くらいしか味方いないんで、利用できるもんは利用したいじゃない? ユナもレミナも必要不可欠なのにどこ行っちゃったのかなぁ」
マラカナは淡々と話す。
「2人を見つけても、絶対俺はあんたや父さんには教えたくないね」
俺ははっきりと訴えた。
「えーっ君もユナといっしょでなんか勘違いしてませんかぁ? 別に君やレミナに何かしたりとかしませんよ?ソルトウェルトだって実験の被害者なんです。そしてそれは今も」
少し、いつもの余裕あるマラカナの顔が一瞬曇ったように見えた。
ほんの一瞬だが。
「父さんはそういえば、今回も来てないの?」
俺は聞いた。
マラカナはにこやかに答える。
「将軍は来てません。というか来られません。これからも」
気になる単語が聞こえた。
これからも?
「どういうこと?」
「度重なる実験のせいで、もう寿命がつきかけてるんです。今は病院のベッドで指示を出してるんですよ。そろそろもう危ないですね。だから、ユナが必要なんです。あの研究所の跡取りなんで、第4兵器の事故だって裏切り者のせいであって将軍のせいでは……と、失礼。今のはなしで~」
たとえ死にかけだとしても、同情の余地など微塵もわかないが。
「兵器開発なんてもうやめればいいじゃん」
俺は強く訴えた。
リリフも俺の腕に捕まったまま、後ろで頷いているのが分かる。
「向こうも勢力つけて来てるんでそうも行かないんですよ。人間側が負けちゃうんです」
「は?」
また、想像もしてなかった発言。
「今回のモンスターの襲撃、偶然だと思ってます? そんなわけないですよ。あれはね、とうとう動き出したんです。せめて、ここの子供たちだけは守らないと人類は本当に終わる。メラクニル村はもう人はいなくなってしまいました」
やはりメラクニル村と思った。
と同時に信じられない言葉を聞いた。
人がいない?
「えっ、だってさっき放送では人的被害はないって」
「まぁまだ死んでないですもん。モンスターになってしまっただけです。モンスター化した村人ぽいのは捕獲しましたよ。ただ薬が効いて人に戻れるのは今回何人かなぁ。まだ被験薬だから。アプや《研究》チームの方にもっと効果のある薬の開発早く進めてって言っておかないと……」
そう言って、マラカナは空を見上げ何か呟いていた。わけが分からないことだらけたが、なんとなくこの人も何かを守ろうと必死なのかもしれないと感じた。
鼻につくような話し方は相変わらず感じ悪いけど。
「わかった。今回のことが落ち着いたら、そのとーまの道具屋? っていうのを探してみるよ」
マラカナは目を細め、口を一文字にして笑った。
「きっとこれから学院の体制も変わると思います。甘ったるいことは言ってられなくなる。人類は後手後手に回ってるんで、手遅れになる前になんとかしないと。正直兵器の力を持った君とレミナ、そして将軍の研究の知識を全て受け継いでいるユナだけが頼りなんです。よろしく頼みますね」
マラカナはそう言って、俺たちから離れていった。




