【あちら側では】
『……もしもし? 聞こえてた? みんな……俺これからどうしよう』
繋がったままの通信機の先でリンの声は衝撃的な事実を聞かされて少し震えているように聞こえた。
ここは4号館の5F特別フロアの《探索》チーム・Bグループ個別室で前回の任務報告書のまとめをするためにみんなで集まってきていた…はずであった。
「リン、とりあえず落ち着いてその軍人の用件とやらをとっとと聞いてこちらに戻ってこい。そんな所に長居は無用だ」
『いきなり帰ったら変に思われないかな?』
リンは不安そうになって声の主に聞く。
「大丈夫。軍人たちはそんな暇じゃない。用件伝えたら軍施設にすぐに帰るだろう。みんなで待ってるからな」
『わかりました。とりあえず、通信を切ります。向こうもあまり時間稼ぎしてると気づかれそうで』
リンはそう言って、プツっと通信は切れた。
さすがに通信相手に対してはリンも敬語だ。
グレースは2人のやり取りを傍観しながらそう思っていた。
「……いつからご存知だったんですか? コロア教授」
グレースは声の主の後ろから声をかけた。
「まぁ最初から……かな。リンがこの学院に入ってきた時の彼の担当をした何人かの教授、あと数人の職員は聞かされていたよ。なんせ彼の父がここの管理官だったからね。2年前までは」
コロア教授と呼ばれた相手はこちらに振り向きそう言った。
名はコロア・ベクタム。
《探索》チームの個別顧問だ。
まだ若くとても優秀で、そしてとても変わっている人物である。
性別は女性で、前にも聞いた通り美人だ。しかもスタイルも良い。
赤い腰まである髪を頭の上の方に束ね、キリッとした顔立ちの彼女は年齢層が高い教授たちの中でもかなりの別格だ。若く美しくそしてとても目立っている。
男勝りで気の強い性格の持ち主だが、生徒の面倒見は良く人望も厚い。
男女問わず人気のある教授で尊敬している生徒も少なくない。
みんなが夕方個別室に集まっていた時、教授は突然現れ、管理官のビルへ行く前のリンにスキャナーを渡すようワイズに指示を出した。そして通信は付けっぱなしにするようリンに促していた。
通信機の先で展開される会話に、みんな黙って耳を傾けながら時を待って今に至る。
「手紙ではリンにああ伝えたが、ちょっと軍の様子が色々と気になっていてね。今《研究》チームの方ともちょっと揉めててなーんかキナ臭い感じだし。まぁ詳しくはリンが戻ってから話すよ。ただ、ここから先はとても複雑な話になるし面倒だよ。ここまで聞かせてしまってあれだけど、これ以上巻き込まれたくない子は今からでも出てって大丈夫だ。もちろん秘密厳守でな」
コロアはそう言って、グレースとカヲルに目配せをした後、リリフやワイズ、カトレアの方へも顔を向けた。
女性3人は動かず静かに黙っていた。
「俺は自分から首を突っ込んだんで、お気になさらず」
「俺もぉ〜」
グレースとカヲルは答えた。
コロアは2人に向けニヤリとする。
「ここからは生徒の知る範囲を超えてくるぞ。覚悟がないときついぞ?」
コロアは再度拍車をかけたが、誰1人としてその場から出ていくものはいなかった。




