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リンが紡ぐ〜ある国のある物語〜  作者: dia
第5章《探索》終了!学院に帰還する!
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【管理ビルにて】


「失礼しま〜す。あの、6時に約束のリンです。今来ましたぁ」


 ここは学院の中にある建物の中でもひと際大きなビルだ。


 学院のシンボルとも言えるだろう。黒く縦に伸びたそのビルは圧迫感が凄まじく、近くまで来ると嫌に圧倒される。


 現在午後5:45分。


 中にどうやって入ればいいのか分からない俺は、警備員室の前でガラス越しに声をかけた。


『はい。リンさん? お待ちください。確認します』


 中からスピーカー越しに応答があった。


 とりあえず、待つ。



 …………




 ………………………





『……お待たせしました、リンさん。ご案内します。こちらへどうぞ』


 しばらく待った後、そう言って中の警備員が1人俺の元へやってきて付いて来るようお願いされた。


 俺は黙って彼の後ろを歩く。


 エレベーターを2つほど乗り継いだ後、『応接室』とかかれた部屋の前まで来た。


 こちらへお願いしますとだけ告げ、警備員はそのまま去っていった。


 俺はノックをして中に入る。


「失礼しま〜す」


「どうぞ」


(うわっ)


 さすがは管理官のいるビルディングという感じだ。

 落ち着いた色の壁とドシっと構えた大きな柱に支えられた部屋の中を見回すと、気品のある高価そうな家具たちが静かに揃っているのが嫌でも目に入る。


 学生の寮や講堂とは比較にならない材質だということはよく分かった。


(うへぇ、高そう。壊さないようにしないと)


 俺はおそるおそる通された部屋の中に入って行く。


 目の前には若い女性が1人、部屋の中心の大きなテーブルに寄りかかっていて、窓際には若い男性1人がこちらを向いて立っているのが見えた。


 女性の方が前に来る。


「お呼び立てして申し訳ありません。リン・グレイダー様。私はあなたの父、ソルトウェルト・グレイダー将軍の秘書のマラカナ・リヴァルと申します。こっちの男は私の弟のギアス・リヴァルです。以後お見知りおきを」


 若い女性はそう言って、頭を下げた。


「あ、あの、用件を。あと、俺の父さんはソルトウェルトって名前じゃないですが……」


 俺は少し圧倒されながらも挨拶をしてそう尋ねた。


「あなたはリサ・グレイダー様とバルト・グレイダー様のご子息と思われているようですが、バルトとはグレイダー将軍の偽名です。そしてリサ様はグレイダー将軍の妹君でございます」


「は? へ? えっ……」


 俺は想像していなかった事情をいきなり突きつけられ、声に詰まる。


「驚かれるのも無理はないですが、将軍よりそう聞いております。本人は今この場にはおりませんが、将軍のご子息であるあなたに用があって参りました。ロットにある将軍の昔の極秘研究室へ行って、ある物を回収してきて欲しいのです」


 マラカナと名乗った女性は表情なくそう言った。


「ちょっ、ちょっと待ってください。意味が分からないです。その将軍が俺の父さんってのも意味が分からない」


 俺は混乱している。


 自分の身に起きていることだが、まるで実感が湧かない。


 本の登場人物の自己紹介欄でも読んでいるような…そんな他人事のような感覚だ。


 最近はこんな衝撃の告白を突きつけられるばかりで困る。


「急に真実を聞かされ驚かれていると思いますが、すべて事実でございます。こちらに私どもと一緒に写っている将軍のお写真がございます。どうぞ確認してみてください。あなたは将軍様の若い頃によく似ておられますよ」


 俺は写真を受け取る。


「本当だ……父さんの顔だ」


(ユナの言っていたことは本当だったんだ。じゃあもしかして俺に似ているっていうレミナも妹とか?)


「え、じゃあリリフは? 俺の母さんは?」


「リリフ様はリサ様のご令嬢です。リリフ様の父君はリリフ様が生まれて間もなく亡くなりました。そして、あなたに母はおりません」


「は?」


 やっと分かりかけたと思ったが、やっぱり意味が分からない。


 頭の中で家系図と時系列がめちゃくちゃだ。


「順に説明します。現在行方不明のユナ・ユンバース様と学院にいるリリフ・グレイダー様はご兄妹でごさいます。戸籍上お二人はあなた様のイトコに当たりますね。ユナ様はご存知かと思われますが2年前から生存の確認すら分かっておりません」


 俺は言われてドキッとした。


 ユナのことは気づかれぬよう黙って聞いている。


「ユナ様は亡くなられた父君の名を受け継いでおられます。リリフ様はソルトウェルトの姓を付けました。あなたと兄妹と思われるように」


「俺と兄妹と思わせるため?」


「そうです。あなたともう1人、レミナ・グレイダーはソルトウェルトのクローンなのです。レミナはひっそりと軍で育てられましたが、あなたはリサ様に引き取られました」


「俺とその女の子はクローン⁈ なんのために⁈」


 衝撃の事実に俺は声が大きくなる。


 なんだか心がついていかない。


「我が国の生物兵器開発のためにクローン胎児の利用は必須でした。あなた方はそのために作られた。」


「そんな……作られたって……」


「兵器開発の実験で遺伝子が適していたからです。将軍の遺伝子が不可欠でした」


「将軍の?」


「何百年も前から人体の兵器開発実験で行われている中で偶然1つだけ成功した実験体、それがソルトウェルトそのものです」


「父さん自体が実験体……」


 予想を超えた事実の告白に目が回ってくる。


「過去の遺物の被害者です。今現在ほとんどのそういった施設は閉鎖され、生体実験は禁止されています。表向きは。あなたの能力は覚醒されていないと報告を受けていますが、何か身に覚えはありませんか?妙に他の人より力が強いとか丈夫だ、とか」


「本当なら死ぬような量の薬を飲んでも平気だった。俺は……人間じゃないの?」


 色々と思い当たることは今までもあった。


 人よりも回復が早いとか、小柄な割に力が強いとか。


「いえ、人ですよ。ただ出征がクローンなだけで人です。あなたの能力は分かりません。レミナも行方不明なので確認しようがないですが、能力がつかなかった可能性もあります。そうなると兵器としては不十分。とと、失礼。まぁちょっと周りより丈夫なただの人です。第2兵器や第4兵器のような力はなさそうなので、要観察のまま育てられ今に至ります。新しい開発や実験は禁止されてますし昔のことです。誰も責められません。その件に関してはもう気にしなくていいんじゃないですか」


 淡々と答える若い女性。軍人というのはこういう人材なのか。


「少し考える時間をください」


「はぁ、まぁいいですけど、隣の部屋に行きますか? ギアス、案内してあげて。まだ肝心の用件を説明できてません。私はここにいますので、落ち着いたら来てください」


 彼女はそういって踵を返し、部屋の隅に置かれている書類が束になって置いてあるデスクの方へと移動した。


「こちらで少しお休みになってください。姉からびっくりされることばかり聞かされて恐縮ですが、将軍のご子息であるあなたに何かあっては困ります。2年前から保護人も逃げてしまってあなたは今フリーですからね」


 保護人……ユナのことだろうか。


 俺は案内された隣の部屋でギアスという男性の言葉に促されソファに腰掛けた。


 その若い男性は部屋を出ていく。




 ……………




 ………………………………





「……もしもし? 聞こえてた? みんな……俺これからどうしよう」


 ワイズから預かっていたスキャナーをオンにしたままの俺は隣の部屋に聞こえないくらいの声でそう呟いた。

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