【ちょっと休息しよう!】
風の音が小鳥の囀りと共に耳の奥へ響く。近くに幾つかある小さな川の中には、綺麗な緑色の線が入った銀色の小魚たちが気持ちよさそう泳いでいた。
川の水は濁りもなく透きとおっていて、さらさらと流れている。
「アプ、大丈夫?」
そんな様子を少し離れた場所で観ていた彼女に俺は話しかけた。
「うん。大丈夫だよ。ゴメンね、迷惑かけて……」
俺は飲料水の入ったコップを彼女に手渡した。彼女はスーっとそれを飲み干し『はぁ…ごめんね』と何度も謝りため息を吐いた。
そして空のコップを少々虚ろな目で眺めている。
「しょうがないよ。アプはバイク乗ったの初めてで酔っちゃったんだよ。また水持ってこようか?」
「ううん。もう大丈夫。ありがとう」
「無理するなよー」
カヲルも心配そうに声かけた。
彼は俺たち2人の傍らで、モーターバイクの点検や確認をしている。
「ありがとね。これから行くメートリーってどんなところなの?」
「すごく大きくて広い街だったらしいよ。今はもうほとんど壊れちゃったけど、ここから1時間くらい行ったところにあるんだ」
アプの質問に俺は答えた。
「アプはきちんとした説明を受けていないのか?」
とカヲル。
「う~ん、軽くおさらいって感じかな。一応こちらの助っ人ってなってるけど、《研究》チームの方でもミッションがあって《探索》の方と利害が一致したから人数合わせに出張させられた感じなの」
「そうだったんだね。メートリーは戦争の被害がひどく今は無人でそこも含め現状の調査、未確認生物の有無確認と生存者がいた場合の優先救助が今回の任務。けど俺は今まで生存者に会ったことないんだよね」
本当に生き残りなんているのだろうか。
ロットはもうモンスターばかりでみんな襲われてしまったのではないだろうかと、頭の中で考えざるを得ない。
「ていうか、戦争でみんな死んじゃったっていうのも不思議で……ちょっとおかしくない?」
俺は1人も残らずってのが信じられないと伝えた。
「確かに。戦いに直接行った人間はともかく女性や子供、弱者の人達までいなくなってるのが……10年前ロットとの兵力差は10倍以上あって、男女関係なく戦争に駆り出されたストゥートとは違うし」
カヲルも疑問に思っていたようだ。
というよりも、思っていない国民はいるのだろうか……国は何か隠しているとしか思えない。
「俺の母さんは戦争呼ばれなかった。そういや俺とリリフとずっと一緒に家にいたんだよね」
「へぇ、珍しい。ウチは俺が3歳の時に母ちゃん家出ちまってるから、そのあと分かんねぇけど、たぶん死んだかな」
「私の両親は研究者だから戦争には行かなかったけど、研究所の実験中に事故死したわ。戦争が終わったすぐ後に」
カヲルとアプは当時を思い出しながら複雑な顔をしている。
「事故?」
俺はアプに聞き返した。
「私はあの時まだ8歳だったから、詳しくは知らないのだけど、後で両親の同僚から聞かされたわ」
「研究中の事故死か……」
「ストゥートとロットの生物の研究をしていた。主に他生物ね」
「最近問題になってるモンスターだな。うちの親父も研究をしていたから兵役免除だった。たぶん今生きている大人はほとんどが研究者か10年前に学生だった人じゃないかな」
「そうね。その可能性が高そう」
「モンスターってアレだよな、カヲルやみんなと何度か戦ったヤツ。ま、ほとんど毎回逃げてるけど」
「そうなの?」
「学院からの指示だよ。規則が煩くて『ある程度戦闘力を奪ったら速やかな撤退の徹底を命ずる。我が国は無益な殺生は好まず、モンスターといえど生態系を壊してはならない。これは学院の生徒としての品質と秩序を保って行動をすべきであって……』なんたらかんたら」
俺は苦笑いをして答えた。
「だから鉢合わせして戦闘になったらこの学院支給の電流が出る『光線銃』で抑えてる間にみんなで罠を仕掛けて足止め、そのまま撤退するんだ。もちろん銃はリリフちゃんとアプ以外みんな持ってる。稀に街とかに来る凶暴なのもいるけど、基本は撤退」
カヲルは身振り手振りを使って再現しながら説明をした。アプはなるほどーと言って、興味深そうに聞いている。
「カヲルは口笛を吹いたりして罠の場所まで挑発が得意なんだよ。女性たちは怪我したら止血してくれたり、薬塗ってくれたりするし。グレースは基本司令塔」
「そっかぁ。やっぱり実際に戦ってる人たちってすごいね」
アプは感嘆の声を出した。
ふと見ると彼女の顔が元の血色に戻っていた。どうやら体調は幾らか回復したようだ。
「へへ。だいぶ休憩したしそろそろ行こうか。アプはもう平気かな?」
「うん。だいぶ良くなったよ。出発しよう」
「よし、《探索》再開だ! カヲル先導を頼む!」
俺たち3人は再びバイクに跨がり、メートリーを目指した。




