【ユナ編2】
(ふう、とりあえず、出発準備をしなくては……)
急いで学生寮まで戻ってきた僕は、夜風ですっかり冷えた体で、寮の廊下を歩いていた。
「ん?」
ふと、エレベーターの前で佇んでいる、二名の人物の方に目が行く。
彼らは自分がいる所から少し離れた距離にいるため、顔などはよく見えない。
しかしこんな夜更けに寮内をうろついている問題児といえば、僕の知るところでは思い当たる人物は二人……。
「おっと、いけね。忘れもんしたわ。ちと先に帰ってろ」
「ほいほい」
そういった会話が交わされたかと思うと、長身で金色の髪を揺らした、タレ目が特徴の少年が、こちらの方へと走ってきた。
「よぉ、ユナ」
「や、やあ……」
その少年は軽い挨拶を交わした後、僕の横を早々に通り過ぎる。
彼の名前はカヲルという。
かなり身長が高く、落ち着いた雰囲気のある彼だが、ああ見えてまだ15歳。
僕よりも年下だった。
そしてそこにいるもう一人は……。
「リン!」
僕は、エレベーターが降りてくるのを待っている、青い髪の少年の名前を呼んだ。
「あれー? ユナぁ?」
先ほどの彼よりも、若干幼稚なしゃべり方をするこの少年は、リンと言って僕とは少々関係がある。
まぁ、昔からの友達というか、知り合いというか……。
「リンは今帰りかい?」
「うん。講義サボってたら教授に居残りさせられた。明日休みだから良いけどさ。ユナは?」
「あらら。まぁ、こっちも色々と野暮用」
「ふーん……そっか」
そんな感じで他愛もない会話をしていたら、ちょうどエレベーター降りてきたので、僕とリンはそのまま中へと入る。
「ちょっと、これから出るところがあってね」
「出るって……もしかして外に行くの? こんな夜中に?」
リンはそう言って驚いた顔をした。
彼の言う外とは、学院の敷地から出て行くという意味だ。
この学院では、一部の許可された生徒しか外に出ることができない、絶対的な規則がある。
そしてリンは、どんな生徒よりも外の話に興味を持っている少年だった。
「俺もユナについて行きたい」
「だーめ」
「むぅ」
僕は笑って答えたが、リンはふてくされた顔をした。
少し上の角度から見る彼の顔は、睫毛がとても長いのがよく分かる。
本人は気にしているので直接言ったりなんてことはしないが、リンはかなり女性ぽい中性的な顔立ちをしていた。
「リン、七階についたよ」
「……」
「どうした?」
リンたちの部屋がある階についたのに、なぜか彼は降りない。
本当にどうかしたのだろうか。
「ユナ、俺だってもう14歳になったんだよ」
「あぁ、うん……そういや結構背伸びたよね。まぁ、リンは探索チームに所属しているんだから、イヤでもそのうち外に出られるだろう? 探索チームの現場同行は何歳からOKなんだっけ?」
「探索は15歳から。決まった期間しか出られないけど」
「なら、あと一年じゃないか」
「う~俺は今、外に行きたいんだよー」
エレベーターが16階で止まった時、僕は寮の廊下へと降りた。
そしてそれにリンも続く。
「まぁ、規則だからね。来年までの我慢だよ」
「ちぇ……て、あれ? そういやユナは研究チームだろ? 外に出ても平気なの?」
リンは不思議そうな顔で尋ねた。
そう、研究チームには基本的に外出許可は下りていない。
「今回は管理官からの指示だから……」
「え、何かすげぇー……でもそんな大事なこと、部外者の俺に話していいの?」
リンは首を傾けて言った。
その仕草があまりにも子供っぽかったので、僕はついつい笑みがこぼれる。
こうしていると、先ほどの叔父との会話がかなり遠くのことのように感じられた。
「むしろ君だから言ってる。そうだね、いつか僕との因縁も分かる日が来るだろう」
「いんねん? まぁ外、気をつけてね」
「ああ、ありがと。もうここへは戻ってこられないかもしれないけど……」
「え?」
僕が自分の部屋の方へと歩いて行くと、リンは不思議そうな顔で、エレベーターの中へと戻って行った。




