【してやられたね】
軍用のヘリ中はわりと広い。シンプルで飾りも何もない実用的な造りだが、その分座席スペースは多く…おそらく20人くらいは乗れるのだろう。
ここには壁側横並びにずらりと用意された座席とは別に、真ん中にも3席ずつ縦に並んでいる。席同士の隙間はわりと狭いが、人1人歩く分にはわけないスペースがある。
僕とマラカナは壁側の席に横並びに2人で座っているわけだが、腰につけた安全ベルトで動けない状態だ。真ん中の座席には彼女の部下であろう男性の兵士が2人、反対側の壁際に3人ほどが静かに座って待機している。
「マラカナ?」
僕は下を俯いたままの隣に座っている女性に声をかけた。
「……将軍の遺体ないんですよ」
少しの間の後にそう語った彼女の目は少し虚である。なんだかいつものマラカナ・リヴァルらしからぬ様子に僕は少し戸惑っていた。
「病院から訃報を受けて、私が向かった時には既にいなかったんです」
「いなかった?」
彼女の言葉に僕は理解が追いつかず、とりあえず聞き返した。
「おそらく、ソルトウェルトが自分で自分の死後の処遇を手配して……私に遺体を使わせないつもりです」
マラカナ・リヴァルはそう語り、また顔を下に下げて俯いた。そして唇をわなわなと震わせていてかなり動揺しているのが分かる。
「叔父の遺体で何企んでた? なにか当てが外れたの?」
僕は少し呆れ顔で尋ねた。
あまり聞きたくないことだが、この際仕方がない。
「当然コールドスリープですよ……今の技術では無理でも、未来ではどうか分からないので……でも希望は絶たれた」
マラカナは瞬きもせず真顔でそう語る。
そんな様子に僕は思わず苦笑いしてしまった。
そして
「はは、叔父にしてやられたね〜」
と、嘲笑とも取れる言葉を彼女にかけた。
そんな僕に彼女はすごい目つきで睨んできたが、あえて気にはしない。
元々、彼女の考えややり方は同意できない部分が多く、正直あまり好きではないのだ。
僕は底意地悪く顔がやたらとニヤつく。
「随分私は嫌われたものですね。今回の件……将軍の共犯はあなたですか?」
マラカナは強い眼差しでそう尋ねてきたが、僕は「はんっ」と思わず鼻を鳴らしてしまった。
「冗談はよしてよ。僕は連絡先も叔父がいた病院の場所すら知らないよ。僕たちの中で知ってるのはリンとコロア教授くらいじゃないの?」
僕はそう言って彼女の目をじっと見る。
「まぁそうですね。リンがやったと思います?」
「あんたらしくないね。なんでそんなに動揺してるの?叔父がいなくなった日にリンが学院にいたかどうかなんてとっくに調べているんでしょう?」
僕はそう言って彼女を睨んだ。
そんな様子に今度はマラカナが苦笑いしていたが、リンを疑うのはあまりにも的外れだと僕は訴える。
「調べています。リンは学院から出ていない。ソルトウェルトが消えた時はきちんと授業を受けていました。病院から連絡を受けてからもうひと月は経っています……」
「ひと月か……もし、こっそりどこかに埋葬されてるなら諦めた方がいいな」
僕はキッパリとそう告げた。
「悔しいです」
マラカナはそう言って苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、僕はあえて何も言わなかった。