【げっ……】
『あそこはシーモアで過去行われていたモンスター協会のキメラ実験場跡ですよ?』
通信の先から聞こえる淡々とした声。
この声の主、自分の出身地ストゥートという国のトップを牛耳る一族……リヴァル家の一員である『マラカナ・リヴァル』は家の受話器越しにそう告げた。
「……は?」
僕は突然告げられた事実に言葉が出ず、思わず聞き返す。
『国のトップの中では有名な話です。危険なモンスターが増えすぎて暴走、その島にいた研究者もみんな殺されてしまい、どうにもできなくなったので、そのまま放置してあるみたいですね。確かもう50年くらい前の話です。運悪く流れ着いた一般人にたまに被害が出ると聞いてます』
「ど、どこの国でも本当にもう、クソなことばかりしてやがる……」
マラカナから聞かされた説明に、相も変わらず人間っていうのはろくな事をしないと実感。
僕は頭を抱えた。
ドナルドさんと電話を終えた後、すぐに研究室のモニターをつけた。そして位置情報を検索すると、レミナに持たせている博士特製の『じーぴーえす』はしっかりとシーモアの近くの海上を記していたのだ。
僕はやはり……と予想通りの結果に苦笑いしか出なかった。
そしてなんとかできないかと考えた末、僕の最も嫌うあの女に連絡せざるを得なかったのだ。
『まぁ、リンとレミナなら大丈夫じゃないですか? 上手くしたらモンスター達を駆逐してくれるかも。他の人間の生命は保証しないですが。それとあの島の中心にある実験場の建物、あの中に入ったら最後……おそらくバイオ◯ザードの世界をもれなく体験できると思います。リンたちでもキツイかもしれないですね〜……まぁ入ってないことを祈りますケド』
「絶対入ってる気がする。レミナ、あの子はそういう子だ。ねぇなんとかできない?」
そんなモンスターだらけの危険な島に、僕が単身で助けに行っても全く何も役に立たないので、とりあえず1番手っ取り早く力を持つモノにすがってみる。
『今回はシーモアの境界内なので軍が堂々と動くのは厳しいですねぇ、シーモアと戦争になります。それでも良ければですね』
戦争になったら困るな……それこそ、今あちこちの国でキナ臭い事件が多発しているというのにと、僕はため息が出た。
「リンとレミナが一生あそこから出てこれないとか、さすがにあの2人でもいつか気が狂うでしょ。頼むから何とかしてよ。」
僕はとりあえず、軍人であるマラカナに再度懇願した。
これで彼女が『うん』と言わなかったら、次は『学院』頼りである。学院が救助を断ることはしないだろうが、軍との力の差は歴然で、きっと動き出すのに時間がかかるだろう。
それ以外の方法となると、あとはもう『とーま』の存在しか僕には思いつかない。
『あなたは私を嫌っている割には随分と都合が良いですねぇ。ふむ、まぁいいでしょう。国にはバレずにこっそりヘリを1つ用意し数人で島に向かいます……が、リンとレミナ達を助けるに当たり1つ条件があります』
電話越しにふふっと不敵に笑う声が聞こえた。
「なに?」
僕は嫌な気持ちを抱きながら、少しひと呼吸置いた後、仕方なしに条件とやらを伺った。
『簡単なことですよ。救助に行く際にあなたもヘリに同乗すること……これだけです』
「げっ……」
『こちらからは以上です。1時間後に迎えに行きますね。では』
そう言ってマラカナは一方的に切った。
僕は予想外の事態に受話器を持ったまましばらく硬直していたのだった。