【バカのその後】
「……服用後1時間以上経ってこの様子だったら、多分大丈夫でしょう。ただ普通の人間ならとうに死んでます。なんで生きてるのかなーあははー」
あれからグレースは、カヲルの様子に只ならぬ危機感を感じて、すぐに医務局から医者を連れてくるよう伝えた。
そして、部屋まで来た医者とグレースにカヲルは各々の状況を告げた。
事情を把握した医者はすわ一大事とすぐに検査を開始して、今に至る。
「そうでしょうね。まったく……」
グレースは短く言った。
医者も苦笑いだ。
「今回ばかりは本当に……ダメかと」
カヲルは呆れはてそう吐き捨てた。
「彼は薬に対して耐性がすごくあるみたいですね。珍しい……というよりも、今までに前例がないケースです。先程、生体透視ユニットで見ても、もう胃には薬がほとんど残っていませんでした」
医者は医療ユニットで撮った写真を彼らに見せながらそう言った。
カヲルとグレースは医者の言葉に驚きを隠せないようで彼らは顔を見合わせていた。
「それは、どういうことだ? こいつ、400粒は軽く飲んだぞ。全部消化しちまったってことか? それで、この状態? 一体どうなってんだ」
カヲルは訳が分からないと言う。俺はベッドの上で夢うつつに彼らの話を聞いていた。
「何分前例がないもので説明はちょっと。ただこの様子だとあと1時間ほどで薬が切れると思います。胃を洗う必要はなくなりました。いや本当に不思議ですね。ただ水はできるだけたくさん飲ませてやってください。まぁトイレに行く頻度が増えるでしょうが、絶対に我慢させないで行かせてくださいね」
医者はそう告げて、鞄に道具を仕舞い始めた。
「うへぇ~、きぼち悪……」
「うるせ」
俺に向かってカヲルは冷たく言い切る。
「まぁまぁ。リン、腹が減ったからって人のもの食べちゃだめだよ」
「うん。ごめん……カヲル、グレース」
先の容態よりは楽にはなってきているが、胃はむかつきが消えないしまだまだ体も重く頭の端々にズキンと衝撃が走った。
医者は仕度が済んだのか、俺たちの会話に微笑しながら部屋を去っていく。
グレースがドアーの元まで送り、礼を言って見送った。
「はぁ、心配して損した」
カヲルは真ん中のベッドに腰を落として、疲れた顔つきをして言った。
グレースは大きめのカップに水を入れて俺に手渡す。俺は医者に言われたとおりに受け取ったそれを全て飲み乾した。
「はぁ、俺ってバカだね……」
水を飲み終わって空になったカップをグレースに渡して、俺は不意にそう呟いた。
『今頃気づいたの?』
2人の声がぴったりと一致して返ってきた。
「そ、そうだったのか……知らなかった、おぇ」
今まで薬に頼ったことなんかなかったから、こんなにも大変な事になるとは思わなかった。この体の辛さは、人の持ち物に無断で手を出した罰かもしれない。
「はぁこれから先行きが不安だ」
「同感」
明日はロット……別行動でもある。
2人のため息とともに《探索》の1日目はそのまま終わりを告げた。