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リンが紡ぐ〜ある国のある物語〜  作者: dia
かの島では
188/219

【つまり、後の祭り?】

「痛い痛い!」


 俺は名も知らぬ不気味な森の中で地面に仰向けで倒れながら徐ろに叫んだ。レミナに鞭で追いかけられ、何も考えず森を進んだ先では、やはりウジャウジャとモンスター達が寄ってきた。


 ちょっと猿のような……でも牙なんか明らかに猿じゃなくてどちらかというとゴジ◯? いやガ◯ラ? に近いような身の毛もよだつ風貌の化け物がゾロゾロと、木の上から降ってきたのだ。


 慌てて銃を撃つも接近戦になってしまい、何十匹と飛んできた猿モドキをかわしきれず、肩を噛まれたり背中を鋭い爪で引っ掻かれたりした。


 上から押さえ込まれ、顔を噛まれると思った瞬間、気づくと猿モドキは瞬時にバラバラになっていた。どうやら潮時と認識したレミナの鞭が化け物にトドメをさしたようだった。


「すぐ治るだろうが……」


 幼い見た目とは裏腹に、可愛さも優しさも感じられない声で彼女は冷たく言い放った。


「レミナひどい! そういう問題じゃないだろっ! 痛いのは辛いんだから」


「鍛錬が足りん」


「う〜……」


 スパッと言い返したレミナに俺はぐぅの根も出ない。仕方なしにまだ若干痛い体を起こして立ち上がった。

 そしてふと、自分の手が震えていることに気がつく。さすがにあんな牙だらけの化け物に顔から食われそうになったなんて……と、思い出したらとにかく寒気がした。




「ところで何を探すんだったっけか?」


 バラバラや穴だらけでご臨終になったモンスター達の横で、レミナはきょとんとした顔で聞いてきた。

 そんな様子に俺は思わずため息が出る。龍の巣でレミナに振り回されたユナの苦労がなんとなく分かった気がした。


「はぁ、とりあえず、船の修理になりそうな素材集めでしょ」


「船には何がいるんだ?」


「タケルさんに聞く暇もなく森の中に突っ込んだじゃない……」


 そう言って、ジロっとした目でレミナを睨んだ。彼女の考えなしの行動のお陰で、知らぬ間に化け物だらけの森を無我夢中で走り、今に至るのだ。途中色んなモンスターを何度か見かけたが、襲ってこないモノや逃げ出すモノはとりあえずスルーしていた。


「森に船の材料あるのか?」


「分かんないよ」


「ここどこだ?」


「知らない。どんどんここまで来ちゃったから……」


 俺は周りを見回す。

 目印など何もつけてこなかったため、位置関係が曖昧だった。

 帰り道が分かるだろうか……ピピツー情報によればそこまで広い島ではないし、進んで行って向こう側の海に着いた方が早いかもしれないと思った。この先に続いている道があるのかも分からないが。


「とりあえず、進もう? 何かあるかも……」


 俺は来たであろう方向とは逆の道を行く。

 そして、レミナも後ろからついて来た。




「超加速で走る?」


 歩きながらも前を向いたままの状態で俺はぼそっと尋ねた。


「いや、ここは化け物が多い。移動であまり体力を消耗しない方が懸命だろう」


「…そうだね」


 彼女の言葉に同意、とりあえず再び森の中を進んだ。なんとなくメートリーの森でアプを探していた時を思い出す。

 これはもう1年も前のことである。



 たまに木々がガサッと不気味な音を立てると、思わず身構えてしまう自分がいた。

 いつまたあの猿モドキが襲ってくるのか分からない。今度は油断せず、できるだけ先手を打とうと考えていた。

 ここのモンスター達の強さはピストシアで倒したスライムの比ではない。動きが速く、攻撃力の高いモンスターが相手では、銃での接近戦はかなり不利だと分かったのだ。


(あぁ、丈夫で屈強な盾でも欲しいな……)


 俺は思わず心の中で唱えていた。

 すぐに回復するとはいえ、体は生身だ。出来ることなら傷は負いたくないもので……と、兵器とは思えない自分の不甲斐なさに少々落胆していた。


 どうやら俺はここ一年、『学院』で平和に過ごしすぎたようだ。去年感じていた自分の意気込みは一体どこへ行ってしまったのか……つまり絶賛平和ボケ中である。





「なぁ、一つ聞いていいか?」


「なに? レミナ」


 しばらく進んだ頃、後方から声をかけてきたレミナに、俺は一度足を止め問い返した。

 チラッと顔だけ横目に彼女を見ると、無表情ともとれる感情の分からない顔でこちらと目が合う。そして口を開いた。


「ふむ、ふと思ったんだが、船の材料なら海辺にごろごろ沈んでる船から調達した方が早かったんじゃないかと……」


「い……」


「い?」


「今それを言うなぁぁぁ‼︎‼︎」


 きょとんとした顔でそう告げたレミナの言葉に俺は思わず絶叫、そして後悔の念が押し寄せ愕然とした。


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