【誰も助けてくれない】
水の中を進んでいくと、少しずつ波の高さが低くなってくる。
足を何歩も踏み出すうちに、水の底では肌色の砂地が徐々に顔を出してきた。
相も変わらず霧は濃いけれど、降りてみて分かった。陸地に近い浅瀬には船の残骸があちらこちらに見渡せる。
ここは、やはり噂の墓場島のようだ。
「不気味」
俺は思わず呟いていた。
『広範囲の検索は不可能ですが、ここはラヴァのいる地下都市くらいの面積……つまりトウキョウの半分の半分の半分の半分の……以下略くらいです。おそらく、無人島かと。生体反応が島の様々な場所で無数にあちらこちらで確認できますが、人とは熱量が類似していません。ピピッ』
横で浮遊しているピピツーはピピピと効果音を鳴らして警告した。
「トウキョウってなんだ? その熱量はやはりモンスターなのか?」
『おそらく水の中にも、遠距離ですが反応があります。このまま海の中にいるのは危険かもしれません。トウキョウはトウキョウです。分かりやすく言うと『学院』を何個か敷き詰めたくらいの面積です。はい。ピピッ』
レミナの問いにピピツーは再度警告、上陸を促した。
「め、面積はなんとなく分かった。水の中で戦うのはやだな……」
「まさにモンスターの巣窟というわけか。早く上がった方がいいだろう。足を取られては危険だ」
眉間にシワを寄せて慌てる俺に、タケルは冷静にそう告げた。
そして3名と1体はバシャバシャと水飛沫をあげて島の方へ走る。
「ふぅ、ここまで来れば……とりあえず。タケルさんの船、あのままで大丈夫かな? モンスターとかに……」
島の海辺の砂場まで来た時、ふと船のことが気になった。海の中の化け物に狙われないのだろうかと。
「まぁ、致し方あるまい。壊れたら壊れたでその時だ。新しく作る」
「えっ⁈ 作るの?」
淡々と告げたタケルの言葉に、俺は思わず聞き返した。
「ここで延々と生活するわけにもいかないだろう? 距離的にはシーモアにわりと近めだ。ボートくらいならなんとか作れるかもしれない」
そしてタケルは腕組みをしながら多少面倒だけど…と付け加えため息をついた。今回に至ってはわりと真面目な彼である。
失礼だが、前作とは比べものにならないくらいマトモだった。
『1人くらいならピピツーの不可視センサーで隠せますよ? タケルを隠して船の修理、リンとレミナは島で修理のための素材集めと手分けした方がいいのではないですか? ピピッ』
「それはありがたいな。一から作る手間が省ける」
ピピツーの言葉にタケルは笑みを溢した。変わって俺は驚き、思わず横にいるロボを見た。
「ピピツーそんな特技あったの⁈ でも、島の中にもモンスターがうじゃうじゃいるんでしょ? 直すための素材集めてる暇なんてないんじゃ……」
「もし、危険なモンスターがいたら皆殺しにすればいいだけじゃないか」
「ぐはっ! レミナさん、容赦ないな」
今度はレミナがケロっと冷たく答えた。こういう所はさすが……というか大分即物的である。
「ははは、さすがレミナだ。リンだってその腰の銃が役に立つ頃ではないか?」
タケルはそう言って、俺の銃を指差した。
「う、そう……だね。最近使ってなかったから、あまり自信ないけど」
そう言われ、思わず腰からオモ銃を抜き取る。今は静かな銃だが、指の先からゾゾゾとかなりの体力が抜かれた。銃もこの島で警戒しているのか、若干の緊張を感じる。
この異様な感覚は懐かしい。
「なら肩慣らしに丁度いいな。リンには前線で戦ってもらおう。はい、森の中‼︎」
「いきなりスパルタっすか⁈」
レミナの無謀な提案に俺は逃げ腰の状態で断り続けた。そして彼女に腰抜け呼ばわりされた上、仲間に鞭で追いかけられるという奇有な状況に誰も助けてくれなかったのだ。