【それはやめてよ‼︎】
海風がなんとも気持ちが良い。
この感覚は1年ぶりだった。
俺たちは今、タケルの船の上にいる。
彼の船は少し小ぶりの漁船だが、10人くらいは乗れるような仕様だ。船の壁のヘリの所には、人が腰掛けられるスペースがあってレミナと俺はそこに座っている。
もちろんピピツーは座らないので、ふわふわと船の真ん中の辺りで無表情のまま浮いていた。
「結局、ハンマー投げはどうなったんだろうな?」
レミナは強い風で横に靡いている長い髪を少し鬱陶しそうに手で押さえながら呟いた。
「あー、どうなったんだろう。そういえば聞いてなかったね。タケルさんは船室で運転中だから降りたら聞くかね」
俺は潮の匂いに懐かしく感じながら…少し上の空で答えた。
自分の実家は港の坂の上にポツンと建っている2階建て古民家の一軒家だ。『学院』に入るまではずっとそこで暮らしていた。海の香りはとても馴染みのある匂いなのである。
『えっ、2人とも何を言っているのですか? ピピッ! そもそもタケルさんはハンマーは投げてないと言っていたじゃないですか……ピッ』
ピピツーはピピピ……と効果音を鳴らしながらそう言って近づいてきた。
「あり? そうだっけ?」
「ふむ。実は、砲丸投げだったか?」
またレミナお得意の勘違いというやつだろうか……まぁよくあることなので、今更気にしていないが。
「えー? 砲丸投げ〜? うーん、棒か槍投げかも?」
俺は適当に思いついたことを伝えてみた。
『いやいや、確か輪投げだと言ってました! ピピッ』
ピピツーは俺の言葉を否定し、絶対そうです! と強く訴える。
「えっ、輪投げ〜?」
俺はまさか……と疑いの目でロボを見た。
「それはないな。そんなん競技にならんだろう?」
レミナもはははと笑いながらナイナイと手を振りニヤっとした。
『いや本当です! ピピッ! 機械はウソつけません! 一度聞いた事は忘れません! ピピッ』
「え、じゃあ、俺の言ったこととか全部覚えてるの?」
まぁ機械にウソはつけない……のは分かるが少し疑いものだ。
もし本当に輪投げなら大爆笑である。今までの厳ついイメージが、どちらかというと子供たちの楽しい楽しい競技……と一気に微笑ましいイメージに変わる。
『もちろん言ったこと、行ったこと、リンの行動の全てを記録してラヴァにリアル通信してます。ピピッ』
ピピツーはこれはもうここ1年間ずっ〜とですが、と付け加えた。そして俺はこのロボの発言に青ざめる。
「はぁあ⁈ ウ、ウソでしょ⁈ やめてよ、えーーこの1年? ラヴァに? ウソウソ……ウソだ……ナイナイナイナイナイナイ……」
俺は頭を抱え呪文のように唱え出した。機械がウソつけないのは確かだが、そこはさすがにウソであってほしい。何かの間違いだ。
『機械はウソつけませんので……残念ですが……ピピッ』
ピピツーはトドメの一言を機械らしく機械的に言った。
「別に機械たちに知られても気にしなくて良いじゃないか。それともあれか? ラヴァに知られて困ることでもやったのか? んーアプの風呂でも覗いたか?」
そう言ったレミナの冷ややか〜な目が横から突き刺さる。
「な! そんなこと……女子寮に入ることすら困難なあの学院でできるわけ! ってそういうことじゃ……ナイ! 覗いてない! というかする気もないよ! いや、もちろん興味はあるけどって、もう! 何言わすんだぁ‼︎」
『ピピッ! 送信しました』
「あぁあああ、本当、もうやめてぇええ‼︎」
俺の叫びにレミナはご愁傷……とだけ言って笑っていた。