【びっくりなセンス】
とーまの店の端っこでレミナと通信を終えた俺は、ドナルドとピピツーの元まで戻ってきた。
『とーまより先にレミナに会えそうですね、ピピッ』
「リン君はいつも大変だねぇ」
ピピツーとドナルドが話しかけてきた。
この2人? が並んでいると、俺はある場所を思い出す。もう二度と行けないだろうあの地下都市を……
「とりあえず、彼女と合流してからとーまを追っかけた方が良さそうだからね、ピピツー。はは、結構この1年は仲間たちと学院で穏やかに過ごしてたんですけどね。課題に追われながら……」
俺はピピツーに返事をした後、ドナルドに向かって語りだした。
「それは良かった。あーちゃんとはたまに会っているけど、他の子達とは中々……どうしていたのかなぁと思っていたんだよ。特にユナ君やレミナとかね」
1年前、アプの両親、ドナルドとセシリアを連れて俺はユナの家まで戻ってきた時、あの場には仲間の全員が集合していた。タケルはすぐに帰ったが、残ったみんなで女子たちの作った昼食を食べた。そしてそこで一泊し、次の日の朝にドナルドとセシリアと共に一緒に学院に戻ってきたのだ。
「みんな元気です。ここ1年、レミナは嫌そうにしてるユナを連れてたまに学院に遊びに来てましたが、最近はちょっと会ってなかったですね。ユナは学院に来ると生徒からも教授からも声をかけられて捕まってしまうので、きっと来たくないのかもしれない……」
俺は苦笑いして答えた。
ユナは3年前に失踪した学院の天才……つまり有名人である。生徒は興味津々で話しかけたいだろうし、教授たちはなんとか学院に引き留めたい一心で語りかけてくる。
あまりにも寄ってこられ、辟易していた時にコロア教授に一蹴されていたが、それでもユナは嫌そうであった。
『リンだって、よく話しかけられるじゃないですか? ピピッ』
「えっ、いや……あんまり。ピピツー可愛いねとは言われたことあるけど……」
学院の生徒たちは俺のことを詳しく知らされておらず、あの地下都市での出来事など一部の人間以外、無かったことになっている。彼らにとって俺は、今までと変わらない単なる一生徒だ。
『でも、Aグループの人達とか……ピッ』
「あぁ、彼らは話しかけてくるというより、リーダーが絡みにくるというか……」
元《探索》チームのAグループのリーダー、彼は何かとBグループの俺たちにライバル心を露わにして突っかかってくる……の間違いである。
「と、そろそろ行かないと! レミナが待ってるので……ドナルドさんありがとうございました! セシリアさんに会えなかったけど、お店すごく変わりましたねって伝えておいてください」
「2人とも気をつけてね。レミナによろしく! あ、このお店の外観は僕の趣味だよ。入口も」
「マジですか!」
『えっ、これはビックリです! ピピッ!』
意外な彼のセンスを知り、俺は少し心に衝撃を感じながら店を後にした。