【この2人は頼もしい男子】
「ただいま」
エレベーターで戻って来たグレースの足下にはモーターバイクの燃料と思われるものが大量だ。
「おかえりさん。こっちは全部用事が終了したよ」
カヲルそう言って、硬くなった体の痛みにう〜んと唸り、腕を上に伸ばした。
「早かったな。こっちもこれで全部なはず」
グレースはそう言って燃料をエレベーターから運び出す。
「早く入れてしまおうかね」
2人はタンクに詰めて、後部座席の下に予備を収めた。
カヲルは試しに1つを作動させる。
音も動きも申し分ないようだ。これでより一層バイクらしさが増した。
「よーぅし、今は夜の7時20分! なんとかなったな。後はバイクを下に運んでおしまいだ」
グレースとカヲルは地下へと続くバイク専用のエレベーターの方へ1台ずつ移動させた。
「ところで、リン達には部屋の鍵を渡してきたのか?」
最後の1つをエレベーター内に並べ終えた後カヲルは聞いた。
「ああ、208以外は。なんで急に?」
グレースはB7と記されたボタンを指で押した。エレベーターは動き出す。
地下にはバイク専用の車両搬入口がある。そこから続く道に行くと橋の向こう側へ直接繋がっている分岐点へと出られた。
「いや、さっき点検完了の明細書をフロントに渡した時、ロビーを見たらまだみんながいたから鍵がなくて部屋に入れないのかと……」
カヲルは言った。
「んー、なんでだろ。部屋で待ってりゃいいのに。あやつらの行動はたまに解らん」
グレースは確認のためか後ろのポケットに手を入れた。やはりそこには208号室の鍵しか入っていない。
「ただリンはいなかったな」
カヲルはドアの方を向いたまま告げた。
「なんで?」
グレースはカヲルの横で神妙な顔をする。
「さぁ」
カヲルはそう短く切ってお手上げという感じに手を挙げる。
グレースはため息が出た……と同時にエレベーターは地下に着いた。彼らはバイクを車庫へ1台ずつ降ろす。
「ところであのリリフちゃんて子、お前と別行動にしちゃって悪かったな」
最後の1台を降ろし終わったとき、グレースがふい口にした。
「何?なんで?」
「いや、なんていうかほら、リンがちょっとな」
「ああ、あいつまた何か色々とくだらないことを……」
と、カヲルの慣れた様なセリフ。
グレースは、はははと笑った。
「まぁ兄妹っていいよね」
カヲルはふと呟いた。
「そうか? 俺にも4つ下の弟がいるが手間かかって大変だったよ」
グレースはそう言って最近はろくに会っていない彼の弟のことを話した。
「そりゃあ、いたらいたらで大変だろうけどいないとまた淋しーもんだぜ」
「ふむ、そういうものかね。俺にはその気持ちは分からないな」
「はは、最初からいたら実感わかないのは分かるけど。年齢の近い家族がいるのは良いよ。助け合えるだろ?」
カヲルはそう言って笑った。
「ああそうだな」
グレースも同意する。
毎日が楽しくて忙しくてついつい忘れてしまいそうになるが、学院にいる多くの者が身内を亡くしている。
グレースは幼かった頃、両親と死別した時、たとえ弟でも肉親がいたのは心強かった。
今では大事な仲間や友達がいる。
当時騒がしかった国もだいぶ落ち着きを取り戻していた。学院で少しずつみんなの心の傷も癒えてきている気がした。
「そろそろみんなの所に戻るかね」
「ああ、そうだな」
グレースの言葉にカヲルは頷き、2人はここを後にした。