【一体何が?】
「とーまの道具屋で大事件が起きているんだ」
俺は管理ビルの最上階である管理官の部屋……ではなく、なぜか教授たちの説教ビルの一室をそのまま使っているコロア教授から6階の部屋に呼び出された。
説教ビルとは生徒たちから呼ばれている通称で、教授たちの専用室がある建物のことである。
生徒はチームの報告や自分のレポートなどの提出物を出しに、この説教ビルにやってくる。
「えっ! 何が起きているんですか?」
俺は目の前で慌てている教授に尋ねた。
彼女の名前はコロア・ベクタム。
赤い髪を後ろに束ね、キリッとしたつり目の美人でとても若い教授だ。生徒の人望も厚く、人当たりが良い人間だが教授の中でも異質な存在であった。
今年の春、彼女は祖父の跡を継ぎ、26歳という若さでこの学院の異例な管理官となった。
管理官とは、国から学院を管理するために派遣された責任者の役職名であり、学生からみると学院長の立場である。
そんなコロアに呼ばれたのだ。
俺は少し不安に感じながら、彼女の次の言葉を待った。
「チョコレートが……」
「は?」
コロアは焦った顔で口を開く。
「チョコレートが入荷しなくなってしまったのだ! 私は……食べられない‼︎」
「そ、それは残念ですが……」
彼女の任務……俺はとてつもなく嫌な予感がした。
「だから、リン」
「はい?」
「お前、とーまと一緒にチョコを探してきてくれ」
コロアはそう言って、両手を重ね俺に懇願した。
「それが今回の《コロア直属なんでも請負》チームの任務ですか?」
俺はついていけないという顔で尋ねる。
「そうだ。しかし、いつもの仲間とは別行動で頼む。みんなには他にもやることがいっぱいあるんだ。とりあえず、暇そーなお前が行ってくれ。どーせ、アパレルの周りをうろうろして03002号と遊んでるだけだろ?」
「彼女と一緒にいるの、否定はしないですが、ちょっと違います!」
コロアの言葉を俺は慌てて否定する。
そんな言われようは心外である。
これでもまぁそこそこ忙しい身だ。優秀なグレースやアプほどではないにしろ……
「イチャイチャしてねーで、行けよ」
コロアは俺の萎え切らない態度に悪態をつきだす。自分の椅子に座りながら、長い足を組んでジロリとこちらの顔を見やった。
「イチャイチャって……俺、アプとまだ付き合ってないですよ」
「ん? 振られたのか?」
「ち、違います! アプから『もうちょっと待ってて、卒業したらで』って言われてるだけです!」
俺は慌てて否定していた。