【そういえば、お腹がすいた】
「そうだな。僕も逃げてばかりいないで過去の精算をしよう。妻は……はてどこにいるのかな。ここは男性の寮でわりと自由に生活できるが、外には出られないんだ。まぁ地下だから」
ドナルドはそう語る。
「どんな街なんでしょう?」
俺はとりあえず立ち上がった。
体はもうだいぶ良い。
ラマダンから連れてこられてから、どれぐらいの時間が経っているのか俺には分からないが、体の痛みを考えるとそう経ってはいないだろうと予想する。
(なんとなく、次の日の朝くらいかな?)
「それは自分の目で確認してみた方が早いよ。ここの施設は透明なガラス張りで街を一望できる場所がある。そこに行ってみよう? 君が目覚めたのなら、きっとその拘束具は取ってくれるよ。それじゃあ生活できないしね。ここから逃げ出すのは中々難しいと機械は認識しているから、捕らえられた人間もここではわりと自由にできている。まぁそんな人間は僕たちしかいないけれど、機械はそういうとこは寛容なんだ」
彼もスクっと立ち上がった。
ここの部屋はよく見回して見れば10畳くらい?結構な広さがあるじゃないか。
床に寝かされていただけだが、部屋の端っこの方には綺麗に畳まれた布団が2組置いてあった。
「この部屋は……」
「ここは捕虜の部屋らしいよ。まぁ今までずっと僕しかいなかったけどね。一面真っ白で何もない部屋だろう? ドアには鍵も付いてないし、出入自由なんだけどね。服とかは毎日配られるレンタルなんだ。僕はたまたま旅の途中だったから服の予備があって、とりあえず自分の服をランドリーで洗濯して着ているけどね」
彼の説明に俺は頷く。
なるほど……てっきり牢屋のような場所だと思っていたが、思っていたより待遇は悪くなさそうであると。
キョロキョロと見回した先に、ふと床に転がっている見慣れたモノが目に入る。
「あれ、銃がベルトと一緒に置いてある。なんで?」
俺は見た目オモチャの博士の光線銃とこれまたエップス博士特注のベルトを手に取る。
そういえば……と、ズボンの後ろを手で探ると通信機も圏外だが普通にポケットに入っていた。
「その銃は君から離すとニャアニャアと奇声をあげて大変そうだった。触った人間はいきなり倒れるし、触れた機械はすぐに壊れた。君は随分恐ろしい銃を使ってるんだね。それも昨日の夜のことだが」
ドナルドは苦笑いしてそう言った。
「あはは。これは特注です。俺は平気なんだけど」
そう言ってベルトと銃を装着する。
うん、いつも通りだ。
しっくりくる。銃は相変わらず人の体力を抜き取るが、さして気にならない。
「君の正体を考えれば不思議なことではないけどね」
ドナルドはふふと笑った。
その顔は彼女、アパレルによく似ていた。
「俺、機械に負けたんですよね。そんな相手の目を掻い潜ってどうやってここから出ようかな……」
ラマダンでの機械との戦いのやり取りを彼に話した。そして、ここに運ばれた時はきっと自分はバラバラにされたのだろうと思うと身震いがした。
「負けたのは、おそらく敵が一体だと思ったからじゃないかい?」
ドナルドは俺の目を見て真面目な顔で尋ねた。
「えっ、どういうことですか?」
俺はよく分からないといった感じに聞き返す。
「攻撃型の機械たちは群れで行動、人間をあらゆる角度から監視している。たぶん君が襲われた時も、いたのは目の前の小さい機械だけではないはずだ。君がここに運ばれた時はちゃんと四肢は付いていたよ。腕は縛られていたけど、気を失っているだけの感じだった。たぶん眩しい目眩しを前の機械が、その間に後ろから急所……心臓か頭かなんかを別の機械に攻撃されたんじゃないか?」
彼はふぅと一度ため息をつく。
俺は確かにドナルドの言う通りかもしれないと思った。
「ただ、逃げるのではなくて、対策が必要だよ。慌てずゆっくり作戦を練ろう? 機械の街の隙を見つけるんだ。僕も協力する。さぁ、とりあえず部屋の外に出よう。まずは何か食べないかい?」
ドナルドに促され、俺たちは部屋を出た。