【マラカナ・リヴァルがやってきた】
僕はこの1週間、薬の研究と博士の家を行き来、そしてマラカナの突然の訪問などと、仲間と一緒に忙しい毎日を過ごした。
「お久しぶりですね……ユナ」
「……どうも」
僕はマラカナと対面、嫌な気持ちを抱きつつ軍に協力することで、変わりに軍が総力を上げてリンを探すことに落ち着いた。
「もちろん、我が国にとっても将軍にとっても彼の損失はとても重い。国の総力をかけて探し出しますよ。そのかわり薬の開発、研究の提示をお願いしますね。アプとともに」
「分かってるよ。この際仕方がないし、どっちにしろ薬が作れれば軍に渡すつもりだった。ロットの人を救いたいからね」
リビングのソファに浅く腰掛けているマラカナに、僕は対面する形でテーブルを挟み彼女の前の椅子に座って話している。
アパレル君は研究室。
リリフは買い物。
ワイズとカトレアの2人はカヲルがいる部屋でグレース君と連絡を取っていたが、きっと彼らの会話もすべて傍受されているだろう。
「まさか、リンの発信器が壊れているとは思いませんでした。レミナはまだついていましたが、お陰で捜査は難航しています」
マラカナは淡々と告げた。
「レミナのピアスが発信器ね。彼女の耳なんか見たこともなかったからなぁ……あれ、外してくれないの?」
「もし今度はレミナが攫われたら逆に追いやすくなります。付けたままにしてください」
僕の言葉にマラカナは取らないで欲しいと言った。
「まぁ僕も彼女にじーぴーえす持たせているけどね」
「ふふ、考えることは同じですね。彼らをこっそり監視して利用している。やはりあなたは優秀です。戻ってきて欲しいですよ、『学院』……そしていずれはバモールに」
マラカナは不適な笑みを向け、言葉を放つ。
「なんとでも言えばいいさ。僕はそんな駆け引きには乗らない。戻る気もないし、それとも力ずくで連れて行くか?」
「そんなことはしません。あなたの意思で戻っていただくことを所望します。いつでも待ってますから。と、その桃は……」
マラカナは棚の上に袋の中に入ったまま置きっぱなしになった桃に気づいた。
レミナがモモブモモブールから持ってきた桃だ。
「桃? あぁレミナがいっぱい持ってきたやつ。食べてなかったな。それどころじゃなかったんでね」
「少し頂いても宜しいですか? これから将軍のお見舞いに行くのです」
「好きなだけ持っていっていいよ。叔父はそんなに具合悪いの?」
僕は逆に尋ねる。
「死にかけています」
マラカナは真顔で答えた。
「まぁ、仕方ないよね。リンたちとは体が根本的に違うのに無理するから」
僕はさも当然とばかりにふんと鼻を鳴らした。
「不老不死の薬、開発してくれませんか?」
「無理に決まってるでしょ? 命に寿命はいつか来る。叔父が死ぬ時が寿命だ」
全くなにを言い出すやら……と彼女の物言いに少々呆れてしまう。
「冷たいですね。まだ41歳なんですよ?」
「だから? リンたちにしたことを考えたら許されることじゃない。今までに研究所がロットの人たちにしたことも……」
国や軍、研究所がした非道な人体実験の過去は消えないのだ。僕もそこは譲れない。
「それは将軍時代ではないです。ソルトウェルトも被害者ですよ? 実験体なんです」
「でも研究はやめなかった。同じことだよ。僕の言えたギリじゃないけど……」
マラカナはため息をついた。
「第5兵器のことは聞かないのですか? 昔、管理ビルの地下であなたに告げた……」
「どうせ、作ってないんだろう?」
僕はちらっと横目で彼女を一瞥する。
「よく分かりましたね。ええ、作ってません。フェイクです。私たちが作ってるモノはもっと夢のある……」
「不老不死の研究でもしてるわけ?」
「してません」
「なら、宇宙かな? 行きたいんだよね? 上へ」
これは『学院』の生徒だった頃に聞いた。
「否定はしませんが、違います」
「ならなにさ。核兵器とかも僕は怪しいと思ってるよ」
「兵器開発は今止めています。敵に見つかりますから。将軍の病名は『がん』というのです。体中にできている不治の病です。今の人間を蝕む……圧倒的に死亡原因第一位である病気。それの完全なる消滅薬です。これは人類が長生きするための夢なのです」
マラカナの口から出た初めて知る研究内容。これには僕も少し驚きだった。
予想外だったからだ。
「なーんだ、バモールも思ったより良いことしてたんだね。知らなかったよ。だからってリンたちのことは帳消しにならないけどね」
「この星を救うためにあの子たちを作ったのです」
「まぁそのことに関しては敵が大きすぎるから、対策は正しかったかもしれないね。さぁもう帰ってくれない? 僕も忙しいからさ! まずカヲルを……ロットやとーまを助けなきゃ。リンのことはレミナたちも探してるから」
僕はマラカナにそう告げて、お引き取りしてもらったのだ。