【また歩くのね……】
「やっと来たな」
学院の第一管理所を出たところでみんなが待っており、グレースは待ちくたびれたとそう言った。
「ごめんごめん。さぁ行こう」
みな何事もなかったかのように出発する。管理所で休憩をしたからか、さっきよりも足取りは軽い。
管理所から30分ほど歩いだろうか。
そろそろ橋の中間地点に差し掛かろうとする頃、空はどんどん曇ってきていた。
時期にもよるがいつもロットでは雲が満遍なくかかっていてどんよりと辺りを暗くしている。
「グレースちょっといい? 明日のことなんだけど……」
ぽやーとロットの空を見ながら歩いていた俺の後ろでワイズとグレースが打ち合わせをしていた。
俺の前には妹と幼なじみのふたり。
「兄貴、ずっと歩いてきたけどまだまだかかるのねぇ……けっこう足にきてる気がする」
最近ろくに話もしていなかった妹は久しぶりに俺と口をきいた。
というと兄妹ゲンカでもしているかのような印象を受けるが決してそんなことはない。
ごく普通の兄妹の関係だ。
「そっかな。俺はさっき休んだから全然回復したよ」
カヲルは興味深く、俺たちの会話の展開を見守っている。
「どういう体力してるの……それとも現場に出るならそのくらい鍛えなきゃダメってこと?」
と、リリフ。
「あーいやいや男女の差もあるっしょ。ね、カヲル」
「え、俺もけっこう足に来てるよ。明日動けなくなったらやだなーってレベル」
「えーそう?」
俺は…あんまり疲れてないなと思う。
「兄貴は体力あんだね〜。そういやささっきグレースとユナの話ししてたでしょ」
「あーうんしたよー。《探索》してたらもしかしたら会えるかなって」
俺は答えた。
「当時、ユナが行方不明だって聞かされたときはびっくりしたけど、そういや2ヶ月くらい前にも噂になったよなぁ……」
カヲルは思い出しながらそう告げた。リリフも答える。
「うん。彼は国の生物兵器に無理矢理連れ去られたっていう噂が立ったのよね」
「ああ。国はデマだって言い張ったけどな。生物兵器なんか造ってない! って」
カヲルは面白くなさそうに言った。
実際にユナは消えているのだ。
原因不明じゃ納得がいかない。
「でも戦前は兵器いたんでしょ? みんなあの戦争で死んじゃったのかしら」
リリフの問いかけに、たぶんねとカヲルは告げてふと俺のほうを見た。
「リン、お前ユナと最後に話してたんだよな」
「そう。確かに話したよ。彼は意味深げなこと何個か言ってたけど、俺は自分のことばかりしゃべってて……」
俺は2年前のユナと自分の会話を思い出していた。
ユナに俺も連れて行ってくれと懇願していたあの頃がふいに懐かしく感じた。
「ああ確か因縁がどうとかのあれ? ユナがいなくなった後やたら気にしてたな」
カヲルはそう言ってポリポリと頭をかいた。
確かに俺は部屋でカヲルにそんなことを何回も言っていたような気がする。
「そんなことあったんだ。全然知らなかったよ」
とリリフは俺を見る。
「うん。それにあの後ユナがもう戻れないかもしれないって言って部屋に入っていったんだよね。なんていうか少し変だな~って思った」
「それじゃあユナは自分の意志で消えたって言うのか。っていうかそれ初耳だぞ!」
カヲルは聞いてない! と少し怒り気味になって俺に言った。
「あーうん、あの時は《探索》に出ればいつか会えると思ってたから…その時に言えばいいかなって思ってた」
「そうか。外にいるんだもんな。会える可能性は確かにゼロじゃない。ユナは何か帰って来られない理由でもあったのかもしれないな」
「何かあったのは確かだと思う。でも心配ばかりしても始まらないしら前向きに考えなきゃ……」
とりあえずオレは『いずれ因縁が分かる』と言ったユナの言葉を信じて待つと告げた。