【船内で】
「グレース、どうしたの?」
「んー、リンから。けど、通信切れた。電波悪いみたいだな」
ピストシア帝国へ向かう船の廊下で、グレースはワイズにそう告げた。
「そう……」
彼女は一言で答え、黙っている。
バモール研究所から少々気まずい雰囲気を感じていたグレースは、今どう言葉を繋げようかな…と悩む。
「カトレアは?」
少しの間の後、とりあえず仲間のことを尋ねた。
「船に酔っちゃったみたい。部屋で休んでるわ。カヲルの方こそどこ行ったの?」
ワイズはそう言って、じっと目を見た。
いつもと変わらない強い瞳を見せる彼女に…少し押されながらも安堵する。
「カトレア船ダメだったか。カヲルは甲板に出た時に若い女性に声をかけて、そのまま一緒に食堂に行ってたよ」
「は⁈ な、まさか……」
「ん?」
グレースの言葉にワイズは猫のようなツリ目を見開き驚いた顔をした。
「あいつ……ナ、ナンパ……してるの⁈」
「えっ、いやいや。なんか知ってる人、風だったよ? あ、君どこかで見たことあるーって声かけてたし」
「それはナンパの常套句でしょう! あんの節操なし‼︎」
「えっ、そうかな」
目の前にいる女子はワナワナと体を震えさせている。これは誰が見ても分かる怒りの震えだった。
「にぶちん‼︎」
「うっ……」
ワイズの怒鳴る声。
鈍い、鈍感……この言葉はグレースにバモールの施設でのやり取りをふいに思い出させる。
「あ、あのさぁ……」
「なによ」
「ワイズって、その……本当に俺を?」
グレースは目を合わせられず、気恥ずかしそうに苦笑いしながら聞いてみた。
その様子に彼女は1度瞳を閉じる。
少しの間。
そして
「さぁ……どうでしょうね」
とだけ言った。
「えっ……」
予想外の言葉にグレースは戸惑い、言葉に詰まる。
「気持ちなんて、どう動くか分からないから。案外、リンの方が将来性あったりして〜とかね」
「えー、あーまぁ、悪いやつじゃないよ。うん。リンは」
うんうんと、なぜか引きつった笑い方でそう話した。
彼の顔を見てワイズは「はぁ」とため息をつく。
「もうちょっと女性の気持ち勉強してちょうだいね。それと、カヲルはどこかしらね 」
「まだ食堂じゃない? ついさっきのことだし」
ワイズはふんっと鼻を鳴らした。
「あっちはとりあえず今とっちめるべきね。女の敵」
「それを俺はほどほどで止めなきゃいけないかな?」
ワイズの自分に対する想いは最近知ったが、自分の気持ちも含め未だ整理がつかない。
悩みの種である目の前の女子は保留という形で対応してくれている。
自分はそれに甘んじている状態だった。
「さて、どう料理しようかな。リリフちゃんと通信機で繋げたまま現場を押さえてみようかしら」
「ワ、ワイズさ〜ん、それはちょっと酷では……」
自分の静止に気にもかけず、ワイズは船の食堂を目指し歩き出した。
グレースも彼女を追いかけ廊下を後にした。