【いや、なんでもない】
通信機。
これは、俺たちの国では『スキャナー』と呼んでいる。
この『持ち歩ける電話』は、祖国ストゥートのストゥーベル学院から、チームのグループのリーダー、副リーダーのみに支給されていた。
これをこの世に出した偉人、それはたぶんレミナから渡されたこの通信機を作った者と同じあの島にいる老体の彼に違いなかった。
『も、し……?も、リ……ン、だ、めだ……これ』
ユナとアプと話した後、俺は船でピストシアに向かっているであろうグレースたちの通信機へと連絡をしているところだが……
「グレース? もしもし? なんか電波悪いよ。あっ、切れちゃった……」
ブッ! っといつもと違った不快な音を立てたそれは通信が途絶えていた。
「おかしいな。船の上でも昨日は普通に話せたぞ?」
レミナはそう言って横で腕を組み、眉間にシワを寄せてこちらを見ている。
「うーん、何事もなければいいけど」
「まぁ仕方ない。私たちはフェルテルまで戻るか?」
俺はまいったなと無意識に頭を掻いた。
そんな俺を見、レミナはどうする? とやる気なさそうに尋ねた。
ロト山脈に行かないことで彼女の興味は削がれ、もはやどうでもいいといった雰囲気である。
「とーまはもう行っちゃったしね。もう昼の1時近いか……フェルテルまでどのくらいかかるのかな?」
「うーん、けっこうここは離れている気がするな。何時間かはかかるかもしれない。後はこの先にある街まで行ってアルパカたくしーを使うかだな」
ついでに飯も食べれるぞとレミナは言葉を追加した。
「そっちの方が早そうだね。あ〜なんか早くみんなに会いたいなぁ。というか、ちょっと学院にも帰りたい……」
最後の方、俺は小さめの声でぼそっと呟いた。
「もうホームシックか。リンは子どもぽいな! ははは」
しっかり聞いていたレミナは、隣で笑いながら諭すように言葉を放った。
「あからさまに子供見た目のレミナに言われなくない。っていうかさぁ、レミナって本当に俺と同じクローンなの? 考え方とか性格とか全然似てない」
俺は少し恨めしそうな顔で口をむっと尖らせて言った。
「ははは。なんでこんなに性格が違うんだろうな! 育った環境か?」
彼女は相も変わらずケラケラと笑っている。
「かもしれない。そういや、レミナは俺が家や学院で過ごしている間も軍で……」
はっ……と、途中で言葉を止めた。
これは彼女の傷を広げる過去だと、遅れて気づく。
「ん? なんだ?」
レミナは怪訝な顔で覗き込んだ。
俺は慌てて首を横に振る。
少し軽はずみな発言だったと反省しながら、口をつぐんだ。
「いや、なんでもない。そろそろ行こう。なんか食べたい!」
「そうだな! なんか食べよう」
とりあえず、ここから1番近い街まで歩き出すことにした。