【行ったじゃないか】
「つまりウィルが裏切り者なんだね。あ、これはかなりショックだな……どうして話してくれなかったんだろう。別に責めはしないのに」
島の研究室で僕はスピーカーにした通信機の先のレミナから今までの経緯を聞かされた。
驚きを隠せず、思わず顔が下がる。
『ユナは真面目で話しづらいからな。いわゆるインキャというヤツだな。最近流行りの』
レミナはキッパリ断言した。
「えっ、流行ってるの? というか僕ってそういう雰囲気?」
『真面目くさくて面倒くさい性格だな』
「ダブルでショック……レミナひどい」
僕ははぁとため息をついた。
話しづらい雰囲気なのは自分でも分かっていたけども、レミナといえど人から言われると地味に心に刺さる。
「私の両親はやはり生きていて、2年前父はマーシャって人を探しにロト山脈に……おそらく母も追いかけた」
そう言って考え込むアパレルに僕は頷き、答えようとしたが……
『そう! ロト山脈だよ‼︎ ロト山脈‼︎』
アパレルの呟きに反応して叫んだレミナの声に僕の声はかき消された。
とても大きな声だ。
スピーカーにしておいて正解である。
彼女のこのテンションじゃ、僕の耳がもたない。
「行くつもり? レミナ」
僕は慌てて聞き返した。
『手がかりだろ? とーまはもうフェルテルに行ってしまったが、リンとは向かうぞ?』
レミナは当然だ! と意気込みを見せている。彼女の横にいる……おそらくリンであろう「やだな」という声がボソリと聞こえた。
ロト山脈はピストシア帝国のさらに南西に進んだ先にあり、そこまで高い山ではないが細長く横に連なった山々だ。
そしてそこは龍の住処でもある。
そう僕は嫌というほど知っていた。
「でもさ、ロト山脈って……」
僕はぼそっと呟く。
『どうした?』
「こないだ……じゃないか」
『ん?』
「こないだ何ヶ月か前にタケルと3人で行ったじゃないか」
眉間にシワをよせて語る僕の言葉に、目の前に立つアパレルは驚いた顔でこっちを見ていた。
『おう! 行ったな! それで?』
「レミナが龍と遊んで帰ってきただけだろ! 僕は何日も死ぬ思いをして……そして山には人っ子1人いなかったじゃないか‼︎」
『な、なんだとーー‼︎‼︎‼︎』
彼女の大音量な声が研究室でこだましていた。