【レミナ、どういうことよ……】
「ここ、どう思う?」
「あ〜僕はちょっと違うと」
島の一軒家。
そこの奥の広めの部屋を僕は自分の研究室にしている。
ここでは島の天才科学者エップス博士に作ってもらったデータ研究のための最新式の機械…そして実験のための道具が多数あった。
「そうよね〜ふぅどうしたもんかな」
「やっぱりもうちょい情報が……」
目の前にいる女子、アパレル君は研究者にしては珍しく、慣れない人でも気さくに話しかけられるタイプのようだ。
今まで僕の周りにいた《研究》チームの人たちとはだいぶ違った。
「どうしてもここの配列が……ね」
そう言って彼女は頭を抱えている。
「モンスター協会に行ってサンプル貰ってくるかなぁ……ロットの奥地にもうちょっと行ければ良かったんだけど。レミナが君に見つかっちゃったからな」
ふふっと僕は思い出した。
「あ、それはホントごめんね。あの出会いは偶然過ぎて……今思うとアレが全ての始まりなのよね。みんなとここまで来たのもモンスターのこともリン君のことも……」
「気にしなくて良いよ。それも運命だと思うし」
「ありがとう」
彼女はニコリと笑顔を見せる。
僕もそれに答えるように口角を上げたまま一度だけ頷いた。
しかし……
彼女の言う通りだと僕は思う。
おそらく偶然なんだろうが、確かに出来過ぎている感じも受ける。
あの狡猾なマラカナのことだ。
もしかして、ここまでも彼女の計算内かもしれない。
リンや仲間たち自分やレミナも含めた全てが結局は叔父のレールの上でマラカナですら彼のコマの1つ。
そんな考えが頭の中をよぎって消えないのだ。
きっと裏で引いている僕の叔父。
見た目こそリンやレミナによく似ていた彼だが、ソルトウェルトの考えは本当のところ一緒に住んでいた僕ですら全く読めない。
今でも遠い雲のような存在である。
「そういえはモンスター協会って?」
正面に座っている彼女、アパレルは思い出したように尋ねた。
「ああ、モンスターを専門に研究している不思議な団体だよ。ストゥートとロットでは軍が管理してるからまず彼らを見かけないよね」
はは、と僕は苦笑いした。
「そうね。私たちが《研究》チームとしてモンスター化の特効薬を軍から作るようにせがまれるようになったのはホントここ最近のこと。それまでは謎の生物として研究させられていただけだし、詳しく詮索することは禁止されていた。今思えば、チームの人たちは何も疑問に思わずに軍や国の言いなりなのよね」
「学院ではそうだろうね。そう教育されている。ま、元々そういう人たちの集まりだからね。チームはOBばかりだし」
『ストゥーベル学院』というのはそういうところだ。
外の世界に飛び出してみれば、常に何かに監視され管理され、自由のない閉塞的な国なんだと驚くほど認識させられる。
そう考えている最中……
ピピピと呼び出し音が鳴った。
目の前にいる女子の持っている通信機の方だ。アパレルは部屋の外に出て行く。
また学院の教授? か彼女の仲間たちかなと思って僕は特に気にもせずデータを解析するためノート型のコンピューターに目を戻した。
「ユナ君」
通信に出てしばらく話していた彼女から、不意に名前を呼ばれる。
彼女の顔は、心なしか焦りが取って見れた。
「はい?」
「レミナから電話……あなたにも話したいって」
「あ、僕?」
レミナか……なんで家の電話にかけないのだろうと思いつつ、僕は手を伸ばして通信機を受け取った。
「ありがとう……何? レミナ?」
『ユナァァ‼︎』
「う…」
相変わらず、彼女は声が大きい。
リンの仲間たちに対しては至って冷静に話しているレミナだが、僕に対してはとんでもなく大きな声で訴える。
まるで構ってと親にせがむ子供のように。
研究にのめり込み過ぎて少し彼女を蔑ろにし過ぎたか?
少し申し訳ない気持ちもあるのだが、僕は別にコミュニケーション能力に長けているわけではないもので。
誰かさんと同様、彼女の相手は結構疲れるし正直面倒だった。
そんなことを言ってしまうと彼女は気を引こうとさらにヒートアップするので、もちろんこれは心の中での話だ。
『聞いてくれ‼︎ 大変だったんだ! リンがとーまが! そうそう、あとウィルが!』
通信の先で話す彼女の言葉は相も変わらず容量を得ない。僕はふぅと思わずため息が出た。そんな様子をアパレル君は苦笑いして眺めていた。
「レミナ、何言ってるかよく分からないんだけど、とーまがそこにいるの? というかタケルはどうしたの? リン、生きてるよね? って、なんでウィルまで……ホントどういうことよ」