【ユナの戸惑い】
名もなき漁村から船で少し北に位置する霧に囲まれた島。
ここは僕とレミナの隠れ家である平屋の一軒家がある。
僕はまぁ色々あってタケルと港で出会い、この島まで連れてきてもらってからもう2年になる。
つい先日、レミナとモンスター化の解毒薬精製のサンプルのためにロットまで足を運んた。
調査中の彼女がメートリーの森でリンとカヲルを見かけたと聞いた時、僕はやはり彼とは離れられない運命にあるのだなと確信したのだ。
その後、仲間の不調によりグリル村に滞在しているのではないかと、レミナに手紙を届けさせ僕は彼に会いに行った。
約束の0時……リンは待っていてくれていたのだ。
僕の大事な友達。
彼には罪悪感もいっぱいあって一目会ったら申し訳ない気持ちのが勝ってしまった。
モンスターになってしまった人を助けることができたら、いつかリンを迎えに行こうとは思っていた。
こんなこと言うと生き別れた恋人みたいだなって思われるかもしれないけど、一応僕はノーマルです。
なのでいくら1人は妹で、もう1人の女子の滞在は研究のためとはいえ、この状況は僕も少し戸惑いがあって然るべきである。
「ユナ兄さん、これ使っていいの?」
「あ、うん。ごめん、何?」
呆然としていた自分にふいに掛けられる言葉。僕は慌てて聞き返した。
「ホウキ! 掃除するから」
「ご、ごめ……ありがとう」
僕は辿々しい言動で応える。
「どうしたの? ユナ兄さん。しばらくここに泊まらせてもらうんだから、別に遠慮しなくていいのよ?」
「そのまさか、昨日いきなりみんなが来るとは思ってなかったから……今になってかなりその……動揺してて……はは」
レミナとずっと暮らしてきた筈の僕はなぜか実の妹のリリフともう1人……アパレル君というリンが連れてきた女子に対して緊張が半端なかった。
「慣れるまで大変だろうけど、ちょっとだけ我慢してね。服とかは持ってきたのだけど、色々と日用品も入り用だから、買いに行きたいし。今のうちに掃除終わらせちゃうね」
「あ、うん。よろしく」
僕はあの子と2人か……と少し体が強張ったのを感じた。
少し緊張するけど、この妹がいるだけでまだ良い。
けれど、本当の意味で女子と2人きりになるのはさすがに頭が痛い。
あの綺麗な女子は失踪した僕の跡を継いで《研究》チームで同じ様にモンスター化の特効薬を開発中なのだというのだ。
もちろんそのために来たのだと分かってはいるのだけども。
そう思いながらソファの方で休んでいる栗色の髪の女子を見やる。
(リンの好みタイプだな。まぁ分かりやすい彼のことだから絶対好きに違いない)
僕は色々と巡る感情を押し込め、研究室の方へと向かった。