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わたしの愛しの頑固ジジイ  作者: 黒椿りすこ
14/20

不穏な動きはあるが

 グランドールの赴任から二年。その間に戦は終わらなかったが、水の領地サランは前よりも戦死者を少なくし、防衛に徹していた。


 グランドールの評判は良く、水の領地は発展をし続けていた。そんな彼の人気ぶりを見て、カノンは笑顔でアレグロに声をかけた。


「あなたと同じくらい人気者ですわね」


 アレグロはいつものように仏頂面で答える。


「俺よりも支持は受けている。殿下のすることは民に目が向いているからな」


 その言葉にカノンは、ふふっと笑い声を漏らす。アレグロは耳をひくっと動かして、片方の眉を上げた。


「なんだ……」


「いえ。あの黒髪のくそボウズと、昨晩は酔っぱらって言っていた人の発言とは思えませんので」


「…………」


「昨日はなんでそんなに怒っていたのです?」


 尋ねるとアレグロは苦虫を噛んだような顔をした。


「殿下が辺境の村を訪問されると言って聞かんのだ」


 アレグロの話によると、グランドールは辺境の村で起こる神秘的な空の現象を確かめると言っているそうだ。


 その村は独自の文化を持ち、領地内とはいえ、交流のない場所だった。隣のシーラン国から流れた民が住むと言われ、近づきがたい雰囲気を出していた。


 その村の空に、数年前から、天使の梯子と呼ばれる自然現象が頻繁に見られた。雲間から光が差し込む神秘的な光景は、神の導きがあるのでは?と、噂されるほどだ。


 その噂をカノンも耳にしていた。だが、特に気にすることもなかった。アレグロも同じだった。それをグランドールは引っ掛かって、自らの足で行くと言うのだ。


「殿下自らが、行く必要ないのでは? この間も熱を出していましたし……心配ですわね。わたしが殿下の名代として赴きましょうか」


 カノンはそう願い出たが、グランドールは未踏の地なら自ら行くといって聞かず、バロックを伴い、辺境の村へ旅立ってしまった。


「あの頑固者め!」とアレグロは立腹していたが、カノンは胸騒ぎを感じていた。


(何もなければよいのだけど……)


 そして、カノンの予感は当たることとなる。


 帰ってきたグランドールは怪我をしていた。


 それどころか、歌うと空に天使の梯子をかけるという不思議な力を持つ少女を連れて帰ってきた。



 ***


 グランドールの怪我の理由を知り、アレグロはまたも怒りをあらわにした。



 彼は王位継承で揉めている第二王子の刺客に襲われたそうだ。水の領地で成果を上げるグランドールを妬んでの襲撃だろうと、バロックから報告を受けた。


「陛下は何をしている! 二人の王子をいつまでのさばらせておく気だ!」


 グランドールの足を引っ張るしかない、無能な王子たちなど見限ればよい。グランドールが王の資質を備えているのは、民の支持を見ても充分であろう。


 アレグロは頭から湯気がでそうになりながら、向こうの状況を知るために、王へ手紙を書いていた。それをいつものように、王の密偵のジンに渡そうとする。


 しかし、ジンはバロックによって捕らえられていた。

 第二王子と通じていた裏切り者として、牢に入っていたのだ。



 ジンは処刑されず、グランドールの配下につくことに決まった。第二王子の動きを探るための二重スパイになったのだ。


 闇夜に紛れ、猫のように現れたジンを見て、アレグロは鋭い眼差しを送った。


「……一体、どういうことだ。陛下は何を考えておられる」


 ジンはアレグロの覇気をものともせず、きししっと歯を見せて笑う。


「ま、一つの試験じゃねぇの?」


 アレグロは片方の眉を上げて怪訝な顔をする。


「この国の王家ってのは、あんたの想像以上にちなまぐさーいんだよ。王位継承権を巡って殺し合いなんて、普通のことだ。実際、先々代は、王位継承権がない王子は全て殺されているしな。んで、先王も他の兄弟、全員、殺しちゃった後、子供世代には殺し合いがないように俺らに見張らせてるってわけ」


「監視してるといっても、実際に殿下は襲われているではないか」


「死んではないだろ? 第二王子ってのは、嫉妬深い構ってちゃんだ。キーキー煩いから、しょうがなく襲ったわけ。じゃないと、狂った王子が自分達の命を奪いかねない。第二王子の側近はとっくに心が離れているからねぇ。使い捨てのゴロツキに、兵士の服装を着せて襲わせたんだよ」


 例えゴロツキだろうと危うく命を落としたかもしれない。バロックがいるからそうはならないとは思うが、とにかく腑に落ちない話だ。


 アレグロは深くため息を吐いて、さらに質問を続ける。


「それで、試験ってのはどういうことなんだ?」


「ん? あぁ、俺の使い方だね。駒として使えるかの試験」


 ジンはにたりと笑顔を見せた。


「俺らはただ命を受けて動くだけの駒だ。死ねと言われれば死ぬし、殺せと言えば殺す。俺らを人と見ずに駒として扱えるようになれば、専属の密偵をまるっと渡せると王は考えてんだよ。だから、試験」


「……第二王子はお前を殿下の元に送り、駒として使ったな。殿下はお前を買収して、駒として使おうとしている」


「そうだな。結果は上々じゃねぇ? だが、グランドール殿下はちと優しすぎんな」


 大事なものが欠けた表情で、ジンは仄暗く笑う。


「……殺されても恨みやしねぇのに。金で買収して野放しなんて、甘すぎ。不穏な奴は手っ取り早く、殺しときゃいーのに」


 影の入った表情にアレグロはまた、深い息を吐き出した。


「……殿下は優しいんだ。無駄な死は好まぬ」


「くくくっ。そうみてぇだな。俺たちからすりゃあ、やりづらそうな主だ」


 ぴょんと、ジンは身軽そうな体を跳ねさせて、窓のふちに腰かける。


「あ、そうそう。陛下から伝言。今回の襲撃ミスって、第二王子はカンカンだ。妃殿下まで狂っちまって、父親のボンクラ公爵に泣きついてる。……キナ臭い動きがあるってさ」


「どういうことだ……」


 ジンは闇に紛れてにたりと笑う。


「グランドール殿下を引きずり下ろすなら、敗戦させるのが手っ取り早くねぇ?」


 その言葉にアレグロは、ひゅっと息を飲む。


「まさか……公爵家が敵と手を組んだとかないだろうな……」


 ジンは目を細めて、歯を見せて笑う。それにアレグロはゾッとした。


「まだ動きは出ていない。陛下も尻尾までは掴んでないしな。それに、敵と自国の王妃と王子が組むなんて、王家の失墜もいいところだ。陛下も慎重にならざるおえない。ま、何か掴んだら適宜、知らせるよ」


 じゃあねーと、友達のような気安さでジンは去っていった。アレグロは詳しく聞きたいと咄嗟に、窓まで駆け寄るが、そこに彼の姿はなかった。闇夜に紛れていなくなった彼に、アレグロは大きく息を吐く。


 そして、今の話をバロックに伝えるべく、足を早めたのだった。




 バロックにその話をすると動揺はしなかった。眉間に深い皺を刻んで、自分の考えを述べる。


「確か……妃殿下のご実家の公爵家は、グリッド国の穏健派……今のグリッド国王に近いものと、交流がありましたよね?」


「公爵家の先代は外交をつとめていた方だ。その関係もあり、グランドール殿下の姉上。ロザリーナ様の輿入れも実現できたと聞いている」


 グランドールの姉、ロザリーナは数年前に前グリッド国王の王妃として迎え入れられていた。


 水の領地を狙うグリッド国の過激派と対抗するべく、穏健派である国王との政略結婚だ。しかし、過激派の一部が暴徒化してクーデターを引き起こし、その際にロザリーナも亡くなっている。


 そのクーデターをきっかけに今、グリッド国は過激派が自治領をおさめ、実質、二つの国に分かれていた。深い傷跡を残す出来事だった。


 ロザリーナの輿入れも、グリッド国の繋がりがあった公爵のひ孫ということも大きい。


 そんな出来事を知っていたアレグロから見れば、家族を殺された相手と組むなど正気の沙汰とは思えなかった。苦々しく嫌なものが腹から込み上げてくる。


「公爵家め……娘かわいさに人の道を外す気か」


 アレグロが怒りを滾らせていると、バロックが静かに言った。


「父上。兵の中から公爵家と接点がありそうな兵を探しだしてください。もし、殿下を敗戦させるのなら、裏切り者を作って隊を撹乱させる場合もあります」


「そうだな……」


 アレグロは誰に探らせるか考えて、次男と三男をいかせようかと思い当たる。次男フーガは前衛を、三男のラルゴは後方支援を見ている。


「フーガと、ラルゴに探らせてみるか」


「兄上たちにですか?」


 バロックが遠い目をしたので、アレグロはなんだ?と声をかける。


「兄上たちが聞き出せますかね? フーガ兄様は父上に似て、戦闘バカですし、ラルゴ兄様は、何を考えているのか正直わかりません」


 さりげなく自分までバカと言われたような気がするが、次男のフーガは確かにアレグロと似ていて戦闘狂である。三男はへらっとしていて本心を悟らせないところがあった。


「フーガは確かに戦闘バカだ。だが、ラルゴはああ見えて、カノンに似てしたたかだぞ」


 肩を竦めるバロックに、アレグロはこの件は任せておけと言って、話を切り上げた。



 アレグロの見立ては正しかった。この二人は公爵家の謀を見つけるのだが、それはずっと後の出来事である。

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