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感情を読む能力。テレパシー。
よく言われているのが、「この能力を授かる」と自殺する可能性があるということだ。
知らなくても良いことを知ってしまう。
知る必要の無いことを知る。
この世界は綺麗だと言われているが綺麗なのは外見だけだ。
人間はとっても汚い。憎悪に溢れ、常に他を蹴落とそうと生きている。
それが資本主義の常だから仕方ないものもある。
例をあげながら説明していく。俺の能力はテレパシーには程遠いが嘘を見抜く能力だ。
嘘を見抜くからと言って勘違いしないでほしいことが一つある。
「〇〇君が嫌いです」
――ピンポンピンポン♪
嘘発見能力が探知したのだからこれは嘘の情報という事になる。
しかし、嘘だからと言って反対では無い。
「嫌い」が嘘なら「好き」とはならないということだ。
あくまで「嫌いではない」だけで「普通」という可能性も有りうる。
嘘を見抜くのに確定して良いのはyesかnoの時であるが、「好き」か「嫌い」の間に「どちらでもない」という曖昧なものが存在する。
自分自身が二択だと思っていても、隠れていた選択肢を見つけることが出来ずに勘違いしてしまう場合もあるということを理解しておきたい。
ただ、「嫌いではない」ことで「嫌い」という選択肢が消えるだけだ。曖昧な選択肢は無数に存在する。
「朝ゴハンをとりましたか?」
「はい」
――ピンポンピンポン♪
この場合は朝ご飯を食べていないことが確定する。
このように能力を使う場合。二択な場合とそれ以上ある選択肢で見極める必要があるということだ。
って思ったけどクラスの皆(野上北除く)に嫌われているから話すことも無いしあまり意味がないが、今後何かの利益の為に使う時、理解しておかねばならない。
しかし、質問の工夫しだいで知りたいことを知ることもできる。
自分自身を好きか知りたい時。恥ずかしさとか人間的感情を置いといて、こう質問すればいい。
「俺のこと好き?」
「いいえ」
――ピンポンピンポン♪
好きか?と聞いて「いいえ」と答え、嘘ということがわかったのだから「好きではない」が嘘になるということだ。
『好きではない』。これにより、好きではないの意味には大まかに「好きではない。普通である」と「好きではない。嫌いである」が含まれるということが分かる。
ここに曖昧さがある。
しかし、「好きではない」が嘘だと知った場合。必然的に自分のことが好きということが分かる。
極端な話し、「好き」かどうか質問をし「はい」だった場合。好き以外は含まれない。「好き。好きである」となり、曖昧さが無い。
これは先に質問で知りたい答えを提示しているのが一つの理由である。
質問を自らする時、知りたい情報の曖昧さを消すことができるのだ。
閑話休題。
この能力はテレパシーのように知らなくても良いことを知ってしまう。
質問をしなくても、相手が発言をしたことは全て嘘か真実か判定されてしまうからだ。
俺はできればこのことを知りたくなかった。知りたくなかったのだ。
◆◆◆◆◆
結局野上北とは口論をしながら自分たちのクラスに戻ってきた。
「はあ、結局あんたと一緒に帰ってきちゃったじゃない!」
「勝手についてきたのはお前だろ?」
「あんたがついてきたんじゃない。ストーカー」
「は?!それは......」
俺はできればクラスの中での口論は避けたい。
理由の一つに、クラスで嫌われているやつの証言と学校で一位二位を争う美少女の証言では信用度が明白なのだ。俺に分が悪い土俵とも言える。
「ストーカーとか音能勢キモ」
「うわ、また野上北に付きまとってるよ」
「お前が野上北と釣り合うわけないだろ」
「気色わりい」
「スカしててキモいんだよインキャ」
当然陰口を言われるからだ。
「まあ、いいわ。許してあげる」
「............」
常日頃からクラスの奴等に嫌われている俺は陰口の本当に思ってるかどうか嘘発見能力で知ったところでという感じだ。何を今更。
敵意なぞいくらでも感じてきた。
問題は、憎悪を知った時ではなく好意を知ったときだ。
俺はあいつとの関係は凄く良いものだと思っていったし、ボッチの嫌われ者の俺と仲良くしてくれる良いやつだと思っていた。俺もどこか自然と惹かれていた。
しかし、それがもし「好きな人だから」という理由だったら?
今までの友情は全て嘘になるわけで、俺が「好きな人でもなんでもない人」だったら同じように接してくれていたのか?答えは違う............。
西九条つくし。
不思議系地味め美少女。普段はイヤホンを常に付けている。基本的にふわふわしてるやつで、男からは「守ってあげたい」と、人気だ。
髪型は前髪が目にまでかかっているが、一度前髪がなくなるとすぐさま美人で可愛いということが分かる。前髪で目を隠していたため、皆がつくしのことを美人だと気づくのに時間がかかった。
俺の友達だったやつだ。
出会いは高校一年生の秋。
面倒くさがりの俺はゲームを歩きながらやるどころか、帰るのすら面倒で放課後によく学校内の端の木に寄りかかって満足をするまでゲームをやっていた。誰にも見つからない、というか寄り付かない。そんな場所だ。
いつもと同じようにその木に向かうと先客が居た。そいつもゲームをやっていた。
そう、西九条つくしだ。
当然俺はぼっちだったのとゲームの話し相手が欲しかったのが理由で盛り上がった。それはそれは盛り上がった。
今思うと全てがおかしかった。
いきなり俺と同じ場所で同じゲームをやっているわけがないし、今思うと最初に会った時俺が一方的に話しただけで盛り上がっていなかったような気がする。
今日も俺は寄ったのだ。ゲームを友達とする為に。
「へー、そうやってすれば良いのか」
「そうだよ。そこで話しかけてすぐ退散を三回繰り返して黄金の果実を落とせば隠しステージに進めるよ」
「つくしすげーな」
「......うん」
いつもどおり普通に話してたし、ゲームをやっている時ずっと西九条つくしは嘘をついて居なかった。
「はあ、今日も一通りやったし帰るわ」
「うん」
「門まで送ってくよ。逆方向だろ?」
ここから俺はミスをした。
こいつになら話してもいいかなって。
「あのさ、つくし」
「な、なぁに?」
「ギャルゲーの話なんだがな」
「う、うん」
「主人公のことを『嫌い』って言ってたやつが自分のことを好きだった場合どうすれば良いんだ?」
「お、落とし方?ってこと?」
「あ、いや、まあそんな感じかな」
「相手が主人公のことを好きなら普通にやってけば落とせると思うよ。ツンデレキャラだねそれは」
「なるほどなー」
わざわざこいつに言う必要なかったじゃないか。何故言ってしまったんだ。
後悔しても遅い。後の祭りだ。
「その状況に俺が置かれてたら俺はどうしたら良い?」
「へ?............げ、ゲームのしすぎだよ」
「そ、そうだな。こんなこと起こるはずがない」
「でも......私は攻略簡単ですよ?」
「え、つくし......それはどういうことだよ?」
ありえないと思った。
二度も、ましてや俺には不釣り合いなほどの美少女が俺のことを好きだなんて。
勘違いしてバカだなー俺は!恥ずかしいぜまったく。で終わると思っていた。終わらせれると思っていた。
「それは......音能勢君のことが好きだから」
「え、つ、つくし?」
「嘘ですよ」
――ピンポンピンポン♪
嘘発見音は無情にも俺の脳で響き渡った。
やはり男女間に友情は芽生えない。