こいつ俺のこと好きなのかよ!
「野上北。まさか、お、俺のこと好きなのか?」
「え......は?はぁああああ?好きじゃないわよ!むしろ大嫌いよ!」
誰も居ない部屋。
ここは理科準備室。
俺は今学校で三本の指に入る美少女と密室で二人きりになっている。
頭の中で「ピンポンピンポン♪」と音が鳴る。
まるでクイズで正解した時のような音が脳内に響き渡る。
突然やってくるそれは不快感しか無い。
だが、今はそんなことどうでも良いと思えるほどの緊急事態だった。
こいつが嘘を言っている?
そんな馬鹿な......ってことは、俺のこと好きってことかよ!?
こいつ、俺のこと好きなのかよ!!!?
何故俺が「大嫌い」と女子から言われただけで「俺のこと好きなのかよ」と結論付けるのか?
先に言っておくが俺はとんだ勘違い野郎では無いし、妄想野郎でも無いと言っておく。
それは数時間前に遡る。
◆◆◆◆◆
俺の名前は音能勢紬。
中肉中背。
勉強もできず、パソコンとゲームしかやらない進学校で落ちこぼれの高校二年生だ。
現在ボッチのまま十月を迎えた。クラスのやつと会話してない記録を五日連続に更新中。
髪は片目だけ髪で隠しているのと性格のせいでかなり嫌われている。
俺が女子とすれ違うだけで「うわっ、きっも」と言われる始末。
だが、俺は気にしない。
俺はひねくれていると周りからよく言われるが、この自己紹介が今俺の話したいことではない。
本題は別だ。
異変は朝起きたときから起こっていた。
もしかしたら寝ている間に既に身につけていたのかもしてないし潜在的に眠っていたものが出てきたのかもしれない。それは俺には分からない。
とりあえず、この話の物語は妹に起こされているところから始まった。
「ピンポンピンポン」と絶え間なく音が鳴る。
「遅刻するよ!遅刻するよ!お兄ちゃん!」
「ああ、時雨か......」
妹の時雨が俺を起こしに来ていた。
「遅刻するよ」
ピンポンピンポンとまた音が鳴った。
「もうそんな時間!?」
俺は飛び起きた。スマホアプリの目覚まし時計でちゃんと七時半にセットしておいた筈なのに。スヌーズは信用できないから沢山アラームもセットしておいた。それなのに寝坊するなんて。
時計に目をやる。時刻は七時。到底遅刻するとは思えない時間帯だった。
「うっそー!騙されたー!あはははは」
「クソが胸まな板女。人の睡眠を邪魔しやがって」
「あっ、セクハラ!それだから友達ができないんだよお兄ちゃん」
「うるせー。できないんじゃなくて作らないんだ」
「またそれ理由にして逃げてる〜」
こいつは妹の時雨。高校一年生の妹。一個違いだ。
俺とは違う高校に通っているのがせめてもの救いだ。
俺は学校で嫌われている為、妹に火の粉が行きかねないからな。
まあ、妹は顔が良いほうだから嫌われることは無いと思う。
俺と違って人付き合いうまいし。
「あとピンポンピンポンうるせーよ。さっきのはなんの目覚ましだ」
「か、かけてないけど......」
「いや、ずっと耳元で鳴らしてただろ」
「ほ、本当にかけてないよ。誰かお隣さんの家のインターフォンじゃなくて?」
「そ、そうか」
(それにしてはやけに耳元だった気がするんだが......)
この時は結局気の所為だと思い気にしなかったが、学校に行ったらすぐに異変に気付いた。
異変に気づき。直ぐに理解した。
(嘘をついていたら効果音で知らされる?それも俺を対象としていた場合のみにしか発動しない。つまり、そこら辺で会話してる内容が嘘か本当かは分からないということか。嘘を見抜く能力のようなものが身についたというなら朝の妹の一見も理解できる)
なぜなら妹は、遅刻をしないのにすると、嘘をついていたからだ。
「おい、音能勢。ちょっと来い」
先生に呼ばれた。どうせくだらないことだろう。
「......ん」
俺は席を後にする。
「んだよキメー。担任にふてくされてる」
「陰キャは何考えてるかわかったもんじゃねーよな」
「うっわ。なんかやらかしたのか?ざまあああああ」
俺を対象とした陰口に嘘を見抜く能力は反応しない。
クラスの奴等が俺に思っていることは全て本心と言う訳か。
しょうもないぜ。俺なんか相手にしてたってなんの生産性も無いのにな。
「おい、音能勢」
「なんですか先生」
「お前次テストの点数低かったら下手したら留年だぞ」
嘘発見能力(仮)が作動する。
『ピンポンピンポン』と言う不快な音が俺の脳内に響き渡る。
へー。嘘ってことか。てことは留年はまだしないってことね。
「りょ」
「はー。............お前な、そんな感じだからクラスに馴染めないんだよ。もっと物事に関心を持て」
嘘発見能力(仮)に反応はない。
それが本心ね。クソばっかな教師共だからしかたねーよな。
「うぃす」
「......じゃあ、もう行っていいぞ」
「あ、先生」
「なんだ」
「俺に嘘を言ってみてください」
「あ?」
「なんでもいいので嘘を言ってみてください」
「はぁ.........お前は天才だ」
そう言い残し担任は去っていった。担任による皮肉だったがこれではっきりとさせることが出来た。
クイズの正解音のような不愉快な音が脳を駆け巡った。確定だ。嘘発見能力が本当に発動した。
友達の居ない俺は確認のしようが無かったがこれで確定したわけだ。
俺はどうやら嘘発見能力に目覚めたみたいだ。
これを実用していけばお金儲けに使えるかもしれないし、ダウトのときには無敵になる。
ひょっとして凄い能力を得てしまったみたいだ。
まあ、俺TUEEE系とかに比べたらかなり劣るけれど......
(友達で試すこともできないからこの嘘発見のルールを知ることができない。それとピンポンピンポンうるさい。意識的に変えたりできないのか?音量を小さくしたり。あとは嘘を言ってる時に可視化して○か×のどちらかで表示するとかできないかな......あ、でも目隠しの時に○と×が見えなくなるからそれでいいのか.........なんか......楽しくなりそうだな。)
「うわ、何ニヤリってしてるのー。うっわ」
「うるさい。また、お前か。いちいち俺にかまうな」
「あ、あんたが友達居ないから構ってあげてるんでしょ?」
こいつとだけは絡みたくないんだよ。
いつもクラスの奴で唯一構ってきて皆の前で晒し者にするこの女。
野上北来羅。
この女。世間一般で言う美少女とか言う女である。
顔はとても整っており、全てが黄金比かのような造形。髪型は内巻きでショートだ。整っていて可愛らしい顔をしていて芸能界とかに進出したら上位に食い込むであろう。スタイルも普通。背丈はやや小さい。可愛いをこいつに詰め込んで出来上がった感じだ。
が、気が強いし怖いし面倒くさいしルックスを取ったらかなり最悪なやつだ。
しかし、それをカバーしてなおかつプラスに変えてしまうほどのルックス、つまり可愛さや綺麗さを兼ね備えている。
ちなみに俺はぶっ通しで寝たフリで無視し続けてきた。
今日意表を突かれついつい反応してしまった。
クラスのやつと会話してない記録が今日止まった。
「.........」
「む、無視するんじゃないわよ!」
こいつのせいでまた俺の評判が悪くなっていく。まあ別に今更評判を気にしても遅い程度には下がりきっている。
「また野上北さんが構ってあげてるよ」
「超優しいじゃん。性格もいいし顔もいいとか天使かよ」
「やべー彼氏とかいんのかな」
「お前じゃ無理だって」
「それにしても音能勢きめー」
「野上北さんが話しかけてくれてるのに無愛想すぎだろ」
ほらな。こうなることは分かってるんだよ。
野上北は無意識だとしても、月とスッポンで美少女と不釣り合いなこの俺が会話したらそりゃこうなる。なんせ俺は嫌われてるしな。
あいつらは話すことに生きがいを感じているからネタを探している。
俺は叩きやすいから格好の的だ。
「あ、丁度いい。野上北、音能勢。ここにある提出物を理科準備室まで運んどいてくれ」
「...........」
「わ、分かりました」
(お前が絡んでくるからだぞ......まったく)
この後のことはあまり覚えていない。
ただ二人で黙って理科準備室までノートを運び。急に口論になり。
―――そして今に至る。
「まじでキモい」
「おー、すげー嫌われよう。だがな、俺もお前のことが嫌いだよ」
「あーそうですか!私もあんたが嫌いに決まってるじゃない!」
――ピンポンピンポン♪
う、嘘をついただと?
今?「私もあんたが嫌いに決まってるじゃない!」が、嘘だと言うのか?
これを嘘だと言うなら「嫌いじゃない」ってことになるぞ?
なのになんで嫌いじゃないのにいちいち構ってくるんだ?
もしかして、こいつ......。
「野上北。まさか、お、俺のこと好きなのか?」
「え......は?はぁああああ?好きじゃないわよ!むしろ大嫌いよ」
――ピンポンピンポン♪
「あんたのことを好きになる人なんていないわよ」
――ピンポンピンポン♪
「いつも死んでほしいと思ってるし」
――ピンポンピンポン♪
「学校になんて来ないでほしいわ!」
――ピンポンピンポン♪
「そんな嫌いな私があんたのこと好きなわけが無いじゃない!」
――ピンポンピンポン♪
「嫌いなところは全部!」
――ピンポンピンポン♪
「好きな所は一つも無いわ!」
――ピンポンピンポン♪
「あんたと結婚しないなら死ねって言われたら死を選ぶわ!」
――ピンポンピンポン♪
「そのくらい大嫌いよ!」
――ピンポンピンポン♪
「たとえ明日あんたが死んでも悲しまない」
――ピンポンピンポン♪
「これなのにまだ私があんたのことを好きじゃないって信じれない?」
――ピンポンピンポン♪
「や、やめろ。もうわかったから、それ以上しゃべるな......」
「ふ、ふん。どうやら大分効いたようね」
(今まで絡んできたのも全部俺のことが好きだったからなのかよ!?極度のツンデレだった?野上北が?ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ)
俺はこうして『自分だけが自分のことを好きだと知っている』気不味い状況を作り上げてしまった。
そして、嘘発見能力を得てから、数々の災難が降りかかることを。
この時の俺は、まだ気付いて居なかった。