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令嬢は嗤う  作者: バーン
48/63

幼馴染

「アルメリー様、起きて下さい。そろそろお時間ですよ?」


窓から入ってくる日差しが眩しい。

起きたばっかりだというのに、全然寝た気がしない。


「あら、目の下に隈が出来てますよ?ベッドに入ったあと、こっそり夜更かしでもされましたか?」


メイドのアンが心配そうな顔で訪ねてきた。


「う~ん……すぐ寝たはずなんだけど……」


頭が全然働かない。ヤバいわ……。今日は朝から魔法の授業がある日なのに。


「うぅ……。眠い……今日、学院やすむぅ〜……」

「そんな事言ってると立派な淑女にはなれませんよ?支度しますので、さあ、起きて下さい」


半ば放心状態のまま、上から下まで完璧に支度が整えられて部屋を追い出される。


寮からとぼとぼと校舎に向かって歩いていく。


「もう……朝から最悪だわ……」


悪態をつきながら校舎に向かう。

途中でティアネットが声をかけてきた。


「あっ、アルメリー様。おはようございます♪」

「おはよう、ティアネット……」


眠そうな声で挨拶を返す。


「何だかお疲れの様ですね……。昨日夜更かしでもしましたか?目の下に隈が出来てますよ?大丈夫ですか?」


察しの良い彼女はすぐに私の異常に気付いたらしい。


そこへリザベルトが合流してくる。


「おはよう。ねえ……何を……話して……いたの?」

「見てくださいリザベルト様、アルメリー様の眼の下!隈が出来てるんですよ?」

「……ホント、出来てる……アルメリー、体調……大丈夫?」


二人共、心配してくれている。私はいい友人を持ったなぁ。(゜ーÅ) ホロリ


「正直言って最悪ね……。横になれるなら、どこでもいいわ、すぐにでも寝たい、ていうか寝れるわ……」

「せめて校舎まで行きましょう?」


ティアネットが困ったように笑う。


「もし、……本当に、調子……悪くなったら……治療室、行こ……?」

「うん。そうするね……」


などと話しながら三人で校舎に向かって歩いていくのだった。



           ◇



練習用木人形に火球が命中し、炸裂して室内に爆発音が響き渡る。

あの魔法は、後期から教わった中級魔法の「爆裂火球(エクスプロジオン)」だわ。


「スリーズさん、調子がいいわね!後期に入って教わったばかりの中級魔法も、もうすでに覚えて安定して使えているし、あとは、上乗せができるようになれば言うこと無しね」

「はい、ありがとうございます!」


教師に褒められ、嬉しそうに笑うスリーズ。


魔法の授業。スリーズは、私からみて三列ほど離れた所で練習用木人形に魔法を放っている。


「スリーズ様カッコいいー!」

「ふふん、それほどでも!」


髪を手櫛でファサーとたなびかせて流してドヤ顔するスリーズ。


「はい、すぐ調子に乗らない。サントノーレさん、貴女はもう少し真面目に授業に取り組みなさい」

「はーい」




最近のスリーズは着実に成長していると思う。実技試験において特に評価された私達の班の班長をやっていた事もあり、教官が注目する事も多い。魔法の授業では特に目を掛けてもらっている気がする。


彼女に比べ、私は上乗せ※がすんなり出来た以外、伸び悩んでいる。

それに今日もしっかり寝たはずなのに、何故か集中出来ないし、普段と比べ魔法があまり撃てない。なぜなの?

練習用木人形を前に魔法を一、二発撃つと頭がクラクラして失神しそうになる。


本当、調子が悪い。その原因が不明なだけに不安になってくる……。

でも、私も班の一員だったもの、他の生徒達に比べれば皆に注目されているのは間違いないわ。

頑張らないと。


練習用木人形を見すえる目に力を込め、スリーズに負けないよう同じように覚えたての中級魔法『氷騎槍(ラン=ジェラシオン)』を唱える。


『我は命じる 水よ出でよ 水よ 氷の騎槍を象り 眼前の敵を貫け 氷騎槍(ラン=ジェラシオン)


涼しげな音が連続して発生し、伸ばした手の先の宙に、氷の塊が騎槍の姿を(かたど)っていく。


突然、目の前が真っ暗になる。


ざわっ……。


生成中の氷の騎槍は注がれていた魔力が途切れた為に、形を維持できず宙に霧散する。


「きゃーーー!?」


人が倒れる音と、近くで順番待ちをしていた女子生徒が悲鳴をあげる。


「アルメリーさん!?」


教官が振り向いて駆け寄り、倒れた彼女の上半身を抱き上げる。


「アルメリーさん!大丈夫!?私の声が聞こえるかしら!?」


教官は頬を軽く叩きながら声を掛ける。

他の生徒も彼女の様子に気付き、駆け寄ってくる。


「う、うぅん……」

「気がついたわね?よかった。どこか痛い所はない?」


言われて体のどこも痛くないのを確認すると、


「……は、はい、大丈夫です」


そう答えると、教官が心配そうな目で見つめてきて、支えながら立ち上がらせようとするが、私は目の前がグルグル回るような感覚に襲われ、座り込んでしまう。


「あなた、よく見たら顔色も良くないし、調子が悪いのかしら。体調は大丈夫?」


と、教官は優しく声を掛けてくる。


「実は、朝からあまり良くありません……」

「それはいけないわ。体調や精神的な事も魔法には大きく影響するし、一度治癒術士に診てもらった方がいいわね?誰か、アルメリーさんを治療室へ連れて行ってあげて?」


教官が周りを見渡す。


「わ、私が……!」


リザベルトが手を上げる。


「あっ、ずるい!教官、私も付き添います!」


教官がティアネットに注意する。


「ティアネットさん。あなたは魔法が苦手で魔法薬の精製の才能があると小耳に挟んでいます。ですが、この授業はあくまで魔法の授業です。魔法の良し悪しのみが判断基準です。あなた、実はまだ魔力の制御が不安定なのでしょう?」

「……は、はい」

「それは詠唱の韻律や発声が正しく習得できてないからです。言っときますが、あなた……このままではヴィオレ学級へ落ちてしまいますよ?人間、誰にでも苦手な事はあるものです。たとえ威力が低くても、効果が弱くても良いのです。魔力の制御が上手に出来るようになれば後の事は自然についてきます。さあ、練習あるのみです」

「そんなぁー……」


打ちひしがれるティアネット。


「では、リザベルトさん、アルメリーさんのことよろしくね?」

「……はい、教官!」


リザベルトは嬉しそうに返事をする。


「……さ、アルメリー。私の肩に捕まって?」

「ありがとう、リザベルト……」


私は彼女に支えられて治療室へ向かうのだった。


                      ◇



 治療室に到着するとリザベルトは引き戸を開け、治癒術士を呼んでくれた。


「どうしたのかな?」

「……この子が、ちょっと……調子悪くて……授業でも……数回、魔法を……撃っただけで……倒れて……しまって」


治癒術士にリザベルトが症状や状況を説明すると、今度は私の方に確認をしてくる。

「君、名前は言えるかね?」

「はい、大丈夫です。アルメリー・キャメリア・ベルフォールです」

「うん、意識はしっかりしてそうだね。では詳しく聞いていくよ?あなたは……魔法を使うと、まず……どうなりますか?」


私は素直に答える。


「……頭がクラクラして、目眩がします」

「他には?」

「えっと……目の前が真っ暗になる感じで……」

「……ふむ。……そうですか。では、ちょっと診てみましょうか。ちょっと君、彼女を寝台に寝かせるのを手伝ってくれないかな」

「……は、はい!」


私は二人に寝台に寝かせられ、横になる。


治癒術士は頭に手を翳してぶつぶつと詠唱を唱えると、私の頭から足先まで手をかざしていく。


「……なるほど」

「どうなんですか?先生……」

「心配いりませんよ。これは何かしらの病気とかではなく、ただ純粋に魔力が枯渇している……魔力切れを起こしているだけですね。少し私の魔力を与えましょう。それだけで大分症状が改善するはずです。ですが無理は良くありません。よかったら寝ていきなさい。そうすればじきに回復するでしょう」


と治癒術士の先生は言う。それを聞いてリザベルトも安心している。


「よかった……アルメリー、大丈夫だって……」


「分かりました。そうさせていただきます」

「私も……付き添い……するね?」

「ありがとう。でも、授業はいいの?」

「授業より……貴女の様子が……気になるから……」


その様子を治癒術士の先生は微笑ましく見ている。


「では、いきますね」


治癒術士はぶつぶつとつぶやいて魔法を唱える。


治癒術士のかざす手がぼんやりと光り、その光が少しずつ身体の中へ……暖かいものが流れ込んで来るのがわかった。

先ほどまであれほどひどかった眩暈と頭の不調が、ずいぶんと和らいだ気がする。


魔法を掛けてもらった後、リザベルトが私を手伝ってくれてベッドへ移動し横になった頃、ノックの音がした。


「先生、ちょっと職員室まで来てくれますか?」


用務員の女性が、先生を呼びに来たみたい。


「おや、お呼びがかかったようだ。すまないが君達、席を外すよ。私が帰ってくるまで室内は静かな方がいいだろう。私が出たら鍵を掛けておきなさい」


治癒術士の先生が席を立つ。


「……分かり、ました」

「……では。直ぐに向かいましょう」

「ありがとうございます」


リザベルトは先生を戸口まで見送る。足音が聞こえなくなると彼女は鍵を閉める。戸が開かない事を確かめるとアルメリーが横になっているベッドへ近づく。彼女を見るとすでに寝息を立てていた。


「あぁ……寝顔も……とても……かわいいわ。うふふ……」


暫く寝顔を眺めているリザベルト。

やがて、彼女のほっぺたをつんつんして反応を楽しむ。


「んぅ……」とアルメリーの口から声が漏れる。


アルメリーの無防備な寝顔は、まるで天使のようなかわいらしさを放っていた。彼女が安らかな眠りについているその姿は、リザベルトの心を穏やかな幸福感で包み込んだ。


「う~」

「む~」


つつくたび、少し困っているような反応されるのがたまらなく愛しい。


やがて寝返りをうち、掛けてあったシーツから彼女の綺麗な手が出る。


リザベルトは、頬から手を離すと最初は彼女の手の甲をさわったりしていたが、そのまま指だけを絡めて握り合い、暖かな体温を確かめる。


アルメリーの手を繋ぎながら、リザベルトは自らを抑えるのが難しい葛藤に苛まれた。

彼女を求める自らの感情を静めるしかないと自分に言い聞かせる。

愛しい友の身体への仄暗い欲求と、それを抑えようと抗う純粋な心の苦悩が、彼女の胸を締めつけるように絡み合っていた。


だが、アルメリーのぷるぷるとしたかわいらしい蕾のような唇を見つめていると、心は背徳的な誘惑に囚われ、抵抗することができなくなっていく。ついに限界を迎えたその魅惑の一瞬、リザベルトは衝動に駆られ唇を重ねてしまう。


「はぁ……。貴女は……私の……もの。誰にも……渡したく……ないっ」


そう言うと、再びキスをする。リザベルトはその甘く切ない味に恍惚としている。

暫く余韻に浸った後、長いキスをしたかと思うと短いキスをし、頬や首、額にも優しくキスをする……。


                      ◇



何かが上に乗っているのか身体が少し重たく感じ、目が覚めてしまった。

薄っすらと目を開けるとリザベルトが情熱的に私の額や頬、唇にとどまらず、首筋などまで、あちこちにキスをしていたのだった。


えっ、何?何がどうなっているの?あぁ……リザベルトのいい香りがする。はわぁ……気持ちいい……。じゃなくて!あわわ……こんなの、こんなの……起きられないじゃない!


とりあえず、彼女が落ち着くまで寝てるふりをして起きる機会を待とう……。


「あぁ……アルメリー……」


彼女の柔らかい唇が触れるのを感じる。少し待って見たが、その行為は一向に終わりそうになく、そのまま起きるタイミングを逸してしまった私は、彼女のなすがままに身を任せるしかなかった。


暫くして彼女は上体を起こすと、呟く。


「これは……いけない、わ……。アルメリーが……ちょっと……苦しそう、よね……?そうだわ……緩めて……あげれば、彼女も……楽になるわ、よね?」


え!?リザベルト何する気なの?


彼女は寝ているアルメリーの胸元のリボンをほどき、そのまま流れるように一つ、二つ、と器用に上着のボタンを外していく。あっと言う間に全てのボタンを外すと制服のブラウスをはだけさせる。

そして躊躇なくキャミソールをたくし上げると、白い肌が露わになる。


「……なんて……白くて、綺麗な肌……」


何この子、脱がすのはやっ!うまっ!?


普段はどちらかと言えばお淑やかでゆったりした感じなのに、とても器用で驚く。


「楽に、なった……でしょう……アルメリー?うふふ……♡」


理性という社会通念上の堅牢な城壁と、物理的に他人の視線から身を守る為の防壁という意味を持つ衣服、その二重の守りが、片方は彼女の愛情と欲望によりたがが外れ陥落し、もう片方はその手に秘めた鮮やかな手法で優雅に流れるように突破されてしまった。


私は肌が露出してしまったという状況に、恥ずかしさのあまりみるみる顔が紅潮していく。だが彼女は、その意識が身体からささやかに盛り上がっている双丘へ集中しているためか、まったく気が付いていない。


「ふふ……。かわいい。あぁ、そうだわ……彼女……私を見る時……よく胸を……羨ましく……見ている……よね。胸は刺激を……与えると……大きくなる……と、何かで……読んだ気が……するわ?うん、これは……彼女の為。……彼女の為に……する事だから、……彼女の肌に……触れるのは、……何の問題も……無い、……わよね!?」


い、今更、何言ってるのよ!せめて一言私に聞いてからにしてよ~!⁄(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)⁄


彼女はそう言って自分を納得させると、更に胸を覆う下着に手をかける。その下に控えるアルメリーの胸は少し小さめだ。そっとずらすと可愛らしい胸があらわになる。その可憐さに心を奪われたように、暫く見つめて恍惚とする。


その肌に吸い寄せられるように手を近づけると、ささやかな膨らみを揉む。

形を優しく変えながら、その感触とぬくもりを確かめる。


次第に彼女の息が荒くなっていく。そして少し身体を起こすと片手をスカートの上から自らの花園に手をかけ、慰める。


「はぁ……はぁ……」


そして、再び両手をアルメリーの胸の上に置き、円を描くように按摩する。


「こうやって、……胸の、周りから……血行を良くして……いって……」


言いながら、その手はじりじりとその中心を目指して行く。


そのなだらかな丘の頂点にある桜色の突起が、肌に与えられた刺激によってぴくぴくと起立していく。


リザベルトはそれを見ると満面の笑みを浮かべる。


向かって左のささやかな膨らみの突起を指で転がす。そして右の膨らみの突起を舌で転がすつもりで顔を近づける。重心が変わった事で落ちてきた髪の束が顔の横へかかると、流れるような仕草で自身の耳の上に置く。


リザベルトの舌が突起に触れるか触れないかの寸前で、指でずっと刺激されていた突起の刺激に我慢出来なくなり、思わず声が出てしまう。


「あっ……ん!♡」


びっくりするリザベルトと思わず目が合う。


「……」

「……」


お互い暫く見つめ合うと、気まずそうに笑いだす。


「「あはは……」」


「アルメリー……いつから……起きて……」


私は彼女の疑問に答える。


「……リザベルトが、私の首とかにキスして……触られた辺りから」

「ほとんどっ……!ぜ、全部じゃ……無いですか!?あぁ!」


彼女の顔が赤く染まり、恥ずかしそうに微笑みながら、慌てて私の服の乱れを直し始める。その様子を見て私も自分の状況を再認識して真っ赤になる。


服のボタンが止め終わった辺りで、出入口の戸の方で鍵をガチャガチャする音が聞こえてきた。


「ヤバい!先生が帰ってきた!」


私は急いでシーツを被って寝たふりをする。


帰ってきた治癒術士の先生は、引き戸をあけると直ぐにリザベルトに様子を尋ねてきた。


「……どうだい?彼女の様子は?」


「問題……ありません、わ。……先生。ベッドに……横になると……すぐに、寝て……しまいました」

「そうかい。多分寝不足だったのだろうね」


治癒術士の先生は優しそうに微笑む。


その後、リザベルトに先生がいくつか質問をすると、授業時間の終わりを告げる予鈴が鳴る。


暫くすると廊下側から「廊下は走らない!」「すみませーん!」という声と一緒に足音が聞こえてきた。


ガラガラッ!バン!!


荒々しく引き戸を開ける音がしたと思うと、現れた人影が、ベッドへ飛び込む。


「ぐえっ!」

「きゃんっ!」


「こらっ!治療室では静かにしなさい!体調が悪い子が休んでいるんだ!大人しくしなさい!」


治癒術士の先生が叱る。


「アルメリー様、大丈夫ですか!?」

「あなたが来るまで大丈夫だったわよッ!」

「……あははっ!」


飛び込んで来たのはティアネットだった。


「もー、私、心配で心配で……授業が上の空でしたー」


彼女はあざとい仕草で訴えたと思ったら、すかさず私の顔をじっと見つめる。


「ど、どうしたの?」

「いやー、魔法の授業中より少し顔色が良くなったかなー?と思いまして」


そこへ割り込むようにリザベルトが入る。


「先生が……言うには、……睡眠が必要なの……アルメリーは。……だから、貴女の……ような、……騒がしい……子がいると……寝られない……でしょう?」


ティアネットは開いた手を口元にあて、『いっけなーい』というような仕草をして、てへっと笑い、ぺろっと舌を出す。


「アルメリーの、事は……私が、……見ておく、から!」

「さっきの時間、リザベルト様はずっと一緒だったじゃないですかー!代わってくださいよー!」


「二人共、うるさいですよ!彼女が休めません!出て行きなさい!」


怒られた二人は治癒術士の先生によって、医務室から追い出されてしまったのだった。



                      ◇



数日後の放課後。

生徒会室で雑談中ーー。


エルネットは後期から生徒会の庶務についた直属の後輩、アルメリーとカロルに対してお茶の講義をしている。お茶についての適切な温度や、お湯の量、蒸らす時間、茶葉の解説などの講義をしながら、実際に自身も淹れて実演しながら、練習の様子を見ている。


自分やその子の練習で淹れたお茶でスイーツを食べる私達。他の生徒会役員達と和気藹々楽しく過ごしている。


テーブルの上にはカラフルなガラス製のティーカップが、フルーティーな香りの漂うアールグレイティーで満たされていた。上級生の前にはエルネット様が淹れたお茶が、下級生の所には私とカロルが淹れたお茶が並び、テーブルの上には、様々な形と色を持つスイーツが並んでいた。

一つは小さなガラス容器に入った、透き通るようなジュレ。その中には深紅のベリーとキラキラとした星のような砂糖が散りばめられていた。隣には、ふんわりとした生地で包まれたクリームとヴァニーユ・ビーンズが香るマカロン。

その色彩はまるで虹のようで、一口食べるたびに異なる味わいが口いっぱいに広がる。

さらに、ふわふわのホイップクリームとフレッシュなフルーツが彩るタルトも。まるで芸術作品のように美しく、食べることをためらいたくなるほどの華やかさを放っている。

その他にも、香り高いショコラとフィリアのケーキや、色とりどりのマカロン、フルーツたっぷりのサンドイッチなど、多彩なスイーツがテーブルを飾っていた。

彼らは笑顔でおしゃべりをしながら、それぞれのお気に入りのスイーツを選び、口に運んでいく。甘い香りと和やかな雰囲気が、生徒会の中にひときわ優しい空気をもたらしていた。


「ああ~。何て美味しいのかしら~。思わず蕩けそうですわ~」


思わず声が出て、頬が緩んでしまう。


「私、このショコラのケーキ大好きです!エルネット先輩、ちょっと聞いていいですか?このケーキに使われている、黄色いモノはなんですか?」


カロルが、エルネットに質問する。


「それはフィリアといって、紫色の星形の花から採れる硬い殻に包まれた黄色い種子なの。甘くて香ばしいから、お菓子やお茶によく使われるわ」

「なるほどー」


カロルはとても感心している。


「私、平民出なので、こんな美味しいスイーツとか……今までほとんど食べたことなくて。たまにここは天国なんじゃないか?と、思うくらいです!」

「あらあら~。それは良かったわ~」

エルネットはそんなカロルをにこやかに見つめる。


「……そうそう、エルネット先輩ちょっといいですか?」


ふと、思い出したことをエルネット様に聞いてみる。


「何かしら?」

「この前、魔法の授業が七段階に分かれる、って言ってたじゃないですかー?五学級(五段階)にしか分かれませんでしたよ?」


リザベルトも隣で、うんうんと頷く。


「そうなの?ごめんなさいね。私達の時はそうだったから……。うーん」

「今年の入学者は、例年より少々少ないらしい」


と、セドリックは彼女に助け船を出すと左手でメガネの位置を直し、また卓上のスイーツへフォークを伸ばす。


「そうなのね!ありがとうセドリック!」


エルネットはセドリックに礼を言うと、こちらに向き直り、


「それに授業が進めば、必要に応じて学級が増えるかもしれないし……?」

「あっ、確かにそうですね!すみません、出過ぎた事を言ってしまいました」

「うん、いいのよ。私もこれから気をつけるわね」


頭をぽりぽりとかくエルネット先輩、かわいい。


そうだ!この機会に、ついでに会長にも聞いてみよう。


「会長、ティアネットの事、覚えていますか?」

「勉強会に一緒に来ていた子だったか?」

「ええ、そうです。生徒会室に入れないまでも、何か一緒に出来ないかと思うのですが……」

「うむ、そうだな……」


アルベールは顎に手を当て、少し考える。


「アルメリー、以前君がしていた掃除ぐらいならしてもらってもいいが。この校舎を掃除してもらい、生徒会室の外に雑務がある場合、君の補助をする……と言う、感じでも良ければ、だが」

「会長!」


セドリックが抗議をしようとするが、アルベールは彼に手のひらを向け、制止する。


「全く知らない子を使うと言う訳ではない。また、その際、生徒会室に入る事は許可しない。それに本人が嫌がれば、この話は無しにしよう。それでどうだ、セドリック」

「例外を作ることはあまりしたくは無いのですが……。他の生徒の手前、贔屓と取られるのも出来るだけ避けたいと思いますが、清掃作業を自らすすんでやる、と言うのであれば……やむを得ませんね」


会長の顔が綻ぶ。


「全く……。仕方ありませんね」


その顔をみたセドリックが、やれやれといったように困ったように笑う。


こちらに向き直ると、キリっとしたいつもの感情を表に出さない表情になり、


「アルメリー嬢、会長の話は聞いていましたね?彼女に伝えておいて下さい。『明日の放課後生徒会室前に来るように』とだけ。私が直接話をして彼女の意志を確かめます。必要最小限の事だけ伝えるように」

「わ、分かりました!」

「リザベルト、彼女が必要最小限の事以外、言わないよう見てて欲しい」


リザベルトはこくんと頷く。



その翌日、アルメリーからそれを伝えられたティアネットは放課後、生徒会室前に出頭する。彼女はそこで待っていたセドリックに対し、二つ返事で即答、「是非やらせて下さい!」と彼が軽く引くほどの熱意で訴えかけ、その役目を手に入れたのであった。



                      ◇



ティアネットがセドリックとの会話に臨んでいた少し後、エルネットが庶務の後輩二人に声を掛ける。


「アルメリーちゃん、カロルちゃん。ちょっと学院の見回りをして来て貰えないかな?」

「見回りですか?」

「そう。これから秋、冬になっていくと風も強くなるし、古くなってる所とか、壊れそうな所とか壊れている所、危険が予想できる交換した方がいい所とかを見つけたら報告書に書いて提出して欲しいの」

「「はい、分かりました!」」

「じゃ、頼んだわね」


私達はエルネット先輩から渡された『点検調査報告書』を持って生徒会室から出る。


まずは本校舎から調べる。生徒会室のある三階から始め、二階、一階へと降りていく。

校舎の内側は特に問題はなかった。


「じゃ、次は校舎を外から見てみましょう?」

「そうですね!」


エントランスで外履きに履き替えて外へ出る。

本校舎を、ぐるりと回ってみる。

特に問題は無さそうだった。


「本校舎の方は問題無さそうね。次は、大食堂の方へ行ってみる?」

「そうですね、アルメリー様」


私は周りをキョロキョロと見渡し、近くに人がいない事を確認すると、彼女に話しかける。


「周りに人がいなければ、『様』とかつけなくていいからね?」

「は、はい。ありがとうございます。前期の学級で敬称付けて呼ばないとうるさい人がいて、嫌な思いした事があったので……すみません」


そっかー、カロルさんも大変だったんだなぁ。


校舎の廊下側を通り、大食堂へ向けて歩いて行く。


廊下をバタバタと走る足音。上から男子が大声でふざけあっている声がした。


「アルメリーさん、あれ気になりませんか?」

「え?どこどこ?」


足を止めて彼女の指差す方を見る。


「あそこ、柵がちょっと緩んでいるように見えません?」

「ほんとだ、報告書に書いておきましょう」


わたしが目を落とし報告書に書き込んでいると、上の方で勢いよく人と人がぶつかる音と、「あっ……!」っと言う声が聞こえたと思った。


後ろで、硬い物と何かが接触した鈍い音、そして、何かが割れる音と人が倒れる音がした。


ハッと振り向くと、カロルが頭から血を流して倒れており、その周りには陶器が砕けて散らばっていた。


「カ、カロル!?カロルさんっ!?大丈夫?しっかりして!」


どうしよう、どうしよう……!?

頭の中はパニック状態になり、気が動転する。何も考えられない。


その時、上から声がかけられた。


「大丈夫ですか~?」


その能天気で悪びれていない声にいら立ち、怒りで冷静さを取り戻せた。


「この子が頭から血を流してるの!急いで治療室に連れて行きたいから手を貸して!」


声のした方へ私は振り向き、大声を出してそいつらを呼びつける。


「おっ、お前が悪いんだよ!」

「はぁ?ふざけてたのはお前の方だろ!?」


言い争いをしてる生徒たちに私は声を荒げる!


「どっちかなんて今はどうでもいいから!早く来て手伝って!!」

「お、おぅ……」

「わ、わかった……」


駆け下りてきた男子達に彼女を担いでもらうと、私たちは治療室へと向かうのだった。



                      ◇



治療室へ着くと、そこにいたのはこの前の先生とは違う初老の治癒術士の先生だった。私は治癒術士の先生に状況を詳しく説明する。先生は彼女をベッドへ寝かせるように指示し、男子生徒たちが彼女をそっとベッドへ寝かせると、治癒術士の先生は彼女が気がついたら声をかけるから、彼らにそれまで廊下に出て待つように言う。


男子生徒の二人が治療室から出て行くと、先生は患部の周辺を触診したあと力強く頷き、手早く血を拭き取り、傷口を綺麗にしてから回復魔法をかける。

みるみるうちに患部が再生されていき、傷痕が残る事なく元通り綺麗になった。


「頭蓋骨に何も異常が無くて良かったよ。これなら彼女に後遺症も残らないだろうね」


先生が保証してくれたので、私もやっと安堵し、大きく息を吐く。

彼女の脳や顔に傷が残らなくてよかった……。


先生が彼女のベッドの脇に椅子を用意してくれたので、それに座り彼女のそばで見守る。


しばらくすると引き戸が勢いよく開かれる。


「先生、怪我人が!至急、練兵場へお願いします!」


革の防具を着た男子生徒が駆け込んできた!


「やれ、今日は(せわ)しないのぅ!それじゃ、ちょっと様子を診てくるから君、その子の事、頼んだよ!」


そう言って治癒術士の先生は生徒と一緒に治療室から出て行ってしまった。




急に辺りが静かになって、どれくらい経っただろう?暫くすると彼女の口から「うぅ……ん」と声が漏れる。


彼女がうっすらと目を開ける。

気がついたのか、ガバッと上半身を起こす。


「うっ!」


頭に痛みが走ったのか、額を押さえて顔を顰める。


その後、必死な形相で彼女は信じられない(・・・・・・)言葉を叫ぶ。


裕翔(ゆうと)!、芽依(めい)!」


彼女は平民出身。それは名前で分かる。自己紹介の時に新入生と言っていた。なら齢は15歳。その彼女が子供の名前を叫ぶなんてこと、ある!?いや、この世界だとわからないけど。でも……もし、既に子供がいたとしても、この世界の名付けのルールに沿った名前のはず。今、彼女が叫んだ名前は明らかに日本で子供につける名前だった!


私は恐る恐る彼女に(たず)ねてみた。


「あなた、自分の名前……分かるかしら?」

「えっと……城野真奈美……。あれ?カロル・オーギー?……分からない……」


彼女は頭を抱え、混乱した様子で狼狽している。


「……城野……真奈美……。何か記憶に引っかかる……」


そのまま断片化した深い記憶を辿っていく。


そう言えば、前世の幼馴染に……美、って子がいたような……。確か、真奈美……、小学校の頃、近所に引越してきた子。……そう、城野真奈美!


「えっ!?真奈美?真奈美ちゃんなの!?私、京子!分かる?氷室京子!」

「京子ちゃん、こんな顔だったっけ……ふふ……」


安心したのか、彼女はそのままフッと気を失い、倒れる。私は咄嗟に背を支えると、そのまま丁寧にベッドへ寝かせる。彼女はスースーと寝息をたて、眠りに落ちてしまったみたいだった。


ティアネットに続いて、この子もなの!?ただでさえ珍しい転生者が、私の周りにこんなにも集まるなんて、明らかにおかしい。一体何が起こっているの……。

信じられない出来事に思考がついていかず、私は気味の悪い寒気を覚え、一人身体を抱えて震えるのだった。




                      ◇



「じゃ、行きますよジェレマン君」

「はい、マルストン会計」

「会長、では行ってきます」

「ああ、分かった。気をつけるんだぞ?」

「学院内でどんな危険があるんですか。あはは!」

「そうだな……」


アルベールはフッと軽く笑う。


二人が生徒会室から出て行くのをアルベールは見送る。


「ジェレマン・プレシアンスか。教官達からの話だと、予知能力があるとか言う話だったな……」


アルベールは彼についての報告書に再度、目を通す。


======================================


報告書


件名:実技試験の事故に関係する予知能力者についての報告


本報告書は、予知能力者の実技試験において発生した事故の経緯と影響についてまとめたものである。


事故の概要:


予知能力者である平民出身の学院生Aは、出身の村で幼い頃から悪い出来事を次々言い当て、周囲から忌み嫌われていた。魔力の判定で学院へ入学した後は、悪い出来事の発言を控えており、自分の周囲だけで起きる良い出来事だけを予知として発言していた。そのため、予知の発言回数自体は少なく、教官達も注目していなかった。


しかし、実技試験について悪い予知を見たAは、周りの者や教官にも実技試験の中止を訴えた。予知の内容は「学院の制服の上に鎧を着込んだ生徒が大蜘蛛と戦って倒れる」というものであった。しかし、Aが平民出身であることや、遺跡にはそのような魔物の報告がなかったことなどから、Aの訴えは重く受け止められず、黙殺された。当時学級担任の教官Bも、教官会議にその報告を上げなかったという。


その結果、実技試験が予定通り行われた際に、Aの予知が現実化してしまった。子爵の長子である学院生Cが大蜘蛛に襲われて死亡し、他にも多数の負傷者が出た。


事故の影響:


この事故により、学院は以下のような影響を受けた。


- 子爵家から多額の賠償金を請求された。

- 学院の信用が低下し、幾つかの有力な貴族家からの申し出により当学院に対する

寄付金が減少する恐れが発生した。

- 実技試験内容や安全対策を見直す必要が生じた。

- 実技試験会場の選定方法、試験会場の事前調査を徹底する事となった。


また、この事故を受けて、教官会議はAの予知能力について再評価し、重要度を上げる事とした。今後はAの予知発言に対して適切な対応を行うことが求められる。



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別紙に「平民出身という彼の発言力の無さを、強化して欲しい」との要望が綴られていた。



「生徒会への推薦リストの中に彼を捩じ込んで、生徒会役員という泊をつけることで発言力の強化を……と言う事か。そこまで教官達はジェレマンの事を重要視してるのか。これから彼の発言には十分留意しておくとしよう……」


そう言ってアルベールは遠い目をするのだった。


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