実技試験2
朝食後、広場に班ごとに整列して集まるように言われていたので、私達は広場に並ぶ。班がすべて揃うと、教官が話し始めた。
「喜べ。今日から君達には楽しい楽しい1泊2日の野外訓練を行って貰う!」
ざわざわ……。生徒達に衝撃が走る。
「さて訓練の内容だが、君達には天幕の設営及び夕食の材料の現地調達をしてもらう。自分達で建てた天幕に一泊して、夜は自分達で採ってきた可食可能なもので調理して夕食を食べる。これは班の仲間との協調性を養って貰うための授業でもある。君達はそこを良く心掛けて欲しい。また、採って来た物は一応持ってきたまえ。食用が可能なものかどうか判断しよう。知らずに食べて食中毒や何かあってからでは遅いからな。また、学院から提供されるのは食器と野外調理場くらいだと思っておきたまえ」
そこまで言うと教官は、幅1cm程の金色のリングが何重にも重なって一組になっている何かの道具を掲げる。
金色の光沢が輝くリング一つ毎に違う色の宝石が一つ埋め込まれていて、それぞれが独立してうごいている。
また、懐からリングに埋め込まれた宝石と同じ色の宝石で作られたペンダントをいくつか取り出す。
「各班の班長には、この首飾りを持って貰う。食料調達中に遭難する愚か者はいないと思うが、一応念の為だ。この『首飾り』と、私が今持っている『魔道具』は同じ色の宝石同士が互いに引き合う。もし不測の事態になった場合でもこの首飾りを持つ班長のいる方向がこちらからでも分かる。……つまり救助に行けるという事だ。もし、何かあった場合は班長の周囲に固まって救助を待て。この魔道具の説明は以上だ」
隣に立っている教官が一歩進み出て口を開く。
「天幕の設営をしたことがないものばかりだと思うが、将来必要になる者も多く居るはずだ。この機会によく練習しておくように。では、天幕の一式を貸し出すので、この後、各班は取りに来るように。以上」
空を仰ぐと天気はあまり良くない。
解散後、天気が気になって近くにいた教官に話を聞くと、ここは山の中腹らしく天気がかわりやすいとのことだった。
確かに昨日より明らかに雲が厚くなっていて、いつ降りだすかわからない予感がする。
「集合ー!」
教官が号令をかけると、広場に生徒が思い思いにあつまる。
まず、教官が、天幕の組み立ての手順をやってみせる。
間隔をあけ、支柱を地面にしっかりと打ち付け固定する。硬く頑丈な長い木の棒を支柱としっかりと縄で組み合わせ、屋根と壁にする為の獣皮などで作った掛け布をかけてその端を縄で縛り固定、縄の端を楔に巻き付けピンと張った状態で地面に打ち込んで固定し完成させてみせる。
天幕の一式を借り受け、場所を決めていざ自分達でやってみるとなかなか上手くいかない。
教官は慣れた様子で簡単に組み立てていたからもっと簡単に出来そうと思っていたのに。
もう一つ問題があった。
流石に婚約前の乙女が異性と同じ天幕に入るのは良くないと指摘を受けたので、私達の班は天幕を男女別々にするため余計に一つ作らなければならなかった。
早くしないと、天気が崩れて荷物が濡れてしまうかも知れない。
男子の天幕は彼が自信満々で「任せろ!」と言うので任せていたら、どうにもこの手の作業は苦手みたいで先程から悪戦苦闘している。「くそッ!」「何故だ!」「おのれッ!」等々、悪態をつくことが多くなっていく。
それを見かねたスリーズとフェーヴが彼の天幕の設営を手伝う。
巡回している教官の指導を受けつつ、時間はかかったが私達の班はなんとか三つの天幕を完成させた。
完成後、「天気がこの先崩れそうだ。雨が天幕に入らないように周囲に溝を掘るといい」と教官から助言を受けたので、それはサントノーレに頼んだ。彼女は土属性の魔法で器用に溝を掘っていく。
男の天幕は彼一人しか使わないので、スペースに余裕があるのでしょうと皆の荷物をまとめて放り込んだ。
また、火属性が得意な者が居ない班もいるので現地で集められる物を使った火の起こし方や、濡れた木は風通し良いように組んで一時間ほど天日で干せば燃えやすくなると言う事も教官から教わった。
天幕の実習が終わると、昼食用に教官達が食材を提供してくれた。夕食の予行演習として、今日の昼食は自分達で一度調理を経験するようにとの指導方針らしい。
一部の生徒から批判が出たが、生徒会の班が率先して調理を始めたため、その生徒達も渋々それに続くのだった。
昨晩は探索の労いを込めてベテランの調理スタッフによる料理が振る舞われ、それはもう美味しかった。それと比べたらどの程度のモノが私達に作れるのだろう?かなりの差がでるのはあきらかよね……。
その差を理解させて少しでも作る人への感謝の心を養って貰うとか、そういった思惑があるのかしら?
教官達から支給された食材は、豚肉の様な脂身の肉と野菜、チーズとフランスパンのような硬いパン、調味料は各調理台の物を使用と言うことらしいので、普通に考えれば肉入り野菜スープもしくは野菜炒めとパンとチーズと言う献立が出来そう。野菜と肉を適当に切って煮たり炒めたりするだけだし特に難しくはないわよね?
「チーズはこのまま、持っておきませんか?帰りが遅くなれば現地で食べましょう」
「ティア、それはいい提案だわ。そうしましょう。では包装に包んだまま、あなたが持っていて」
「分かりました!」
スリーズがキャスパーに手料理を振る舞いたいと言うので、彼女に任せることにした。少々不安なのでフェーヴ、サントノーレにも彼女の手伝いに付いて貰うように頼んでから私達三人と彼は気を効かせて調理場から離れて時間を潰す事にした。
時間をおいて野外調理場へと戻ってみると、他の班はほぼ調理が終わっていたが私達の班だけあり得ない結果が待っていた……。
フライパンは焦げ付き、食材は至る所に散乱し、パンは千切れていたり水浸しになっていたり、床に落ちてグチャグチャになってたりと……つまり全滅していた。
慣れない料理に全力を出した……結果らしい。
サントノーレも流石にこの状況にはあははー、とバツが悪そうな笑顔だが、フェーヴは申し訳無さそうな顔、スリーズに至っては目に涙を浮かべ今にも泣きそうな感じだった。
一体何をしたらパンまで全滅するの……。
彼女達、料理なんて全くしたことがないハズの貴族出身。それでも簡単に出来そうだから、フェーヴとサントノーレも付いてるし、よっぽどのことが無い限り大丈夫……と思ったから気を効かせて離れたけど、やはり近くで見ているべきだったわ……。
食材をダメにして、お昼を食べ逃した私達。ティアネットにいたっては目から完全に光が消えていた。
お腹は空いているが我慢して今晩の食料調達のために現地調達しに行かなければ!次は私達がちゃんとしたモノを作らないと……!私は自信が無いのでリザベルトかティアネット、頼むわよ!
貴族の子息からは大いに不満が噴出したが、やはりここでも生徒会の班が率先して動き出す姿勢を見せたので、渋々従うのだった。
「流石、全生徒の見本ですわ。憧れますー」
「素敵ですぅ~!」
周りの生徒からそんな声が聞こえてくるのを耳にしながら私達の班も野営地から出立する。
野営地の周辺は岩場なので、そもそも食べられそうなものはあまりなく、仕方なく渡された地図を頼りに魚を求め川を目指し、かなり離れたところまできた。
ここら辺まで来ると下草が生え、木が立ち並び林が広がっている。
ポツポツと雨が降り始めた。
手前の茂みでガサッ!と音がした。
ウサギのような赤い目、齧歯類によく見られる飛び出た歯、リスのような脚と尻尾、豚のような鼻と体型をした動物が現れ両足で器用に立ち上がる。
その動物は鼻をヒクヒクさせ、キョロキョロと辺りを伺っている。
「肉だ……!」
キャスパーが思わず囁く。
ティアネットが持っていた弓を無言でキリキリと引き絞り、放つ。
矢は狙いを僅かにそれ、獲物の足元に刺さる。
危機を感じたその獲物は、姿に似合わない俊敏さで逃げ出す。
「みんな、追うぞ!」
「ええ!」
「うん!」
「わかったわ!」
顔や全体的な姿が不細工だったのもあって罪悪感があまり沸かず、皆空腹だったので、もはや肉の塊にしか見えなかった。
皆、目の色を変え必死に追いかける。
下草を踏み分け、倒木を飛び越え、何本もの樹木を右へ左へ避けながら見失わないように私達は、走る走る。
ようやく視界が明るくなり木々を抜けた!と思った瞬間、
「プギィィィ!!」
と言う動物の叫びが聞こえ、
「皆、止まれッ!」
と、先頭を走ってたキャスパーが叫び、急に止まる。
勢いが付いた私達は急には止まれない。みんな次々とキャスパーにぶつかり、後ろから押す形に。
「「「「「あっ!?」」」」
と思った瞬間には動物と私達はみな崖から落ちていた。
短い浮遊感のあと、水面に叩きつけられる。
幸い下が川だったため、命に別状は無かったが少し水嵩が増した川の流れは思いの他強く、どんどん下流に流され思う様に泳げない。
一番近くにティアネットがいた。
彼女の肩からベルト掛けしたバッグが空気で膨らんでいて臨時の浮輪変わりになっている。
「お姉様!手を伸ばしてっ!」
「ティア……ぷはっ!……」
ティアネットの伸ばした手に触れる。
彼女は渾身の力で泳ぎ、流れに抵抗し、無理矢理恋人繋ぎにしてしっかりと私の手を握りしめる。そのまま力強く引き寄せ、しっかりと抱きしめる。
「もう……ブハッ!離しませんからッ……!」
暫く流れに抵抗していたが、もう疲労困憊で身体に力が入らない。こんなことなら、もっと体力を付けておくべきだったわ……瞼が重い……。
「……!………ッ!」
彼女が何か叫んでるが、意識も朧気でもはや聞き取れない。
そのまま、私は意識を失い流されて行った。
◇
「ゲホッ、ゲホッ!……ん」
柔らかいものが私の唇いっぱいに触れて押し付けられている。
薄っすらと目を開けるとぼんやりとひとの顔。
だんだんと焦点が合ってきて目の前の顔がティアネットだとわかる。
私が意識を取り戻したとわかると、瞳に涙を溜めて喜んでいる。
彼女は少し離れていた顔をそのまま近づけて優しく唇を重ねる。吸っては離し、角度を変え何度も口付けをする。
「んー、んー!?」
「はあ、はあ……」
彼女の肩を掴み、無理矢理引き剥がす。
「な、な、な、な、何してるの!?」
「人工呼吸です」
悪びれず、ティアネットは舌をペロリと出しケロリと言ってのける。
「…………!」
私は顔を真っ赤にするが何も言い返す事が出来なかった。
私のファーストキス……。
はっ!?そう言えば皆は?
がばっと起きて周りを見渡す。
私とティアネットしかいない。もっと下流に流されたのだろうか?
いくつか採取用に持って来ていたものは流されている間に失ったみたい。そうやって所持品を確認していると上流の方からずぶ濡れになったリザベルトとキャスパーが歩いてきた。
「おーい!二人とも無事か、よかった」
「アルメリー……ティアネット……二人共、無事で……良かった……」
「そちらも元気そうで良かったわ」
「それで……他の三人は見て無いか?」
「見てないわ。というか私も、ついさっきティアネットに起こしてもらったばかりだから……」
「私もまだ見てないですねー」
ちらっとティアネットの方を見る。
先程の熱烈な接吻を思い出して顔が火照る。
あれは人工呼吸よ。人工呼吸はノーカンよね!?
「もう少し下流の方まで見に行ってみるか」
「ええ、そうね……」
「了解です」
「わかったわ」
下流の方へ暫く歩くと運良く入江になっていた岸に三人とも流れ着いていた。
こんな所まで三人一緒って、ある意味凄いわね。
キャスパーに人工呼吸のやり方をレクチャーし、スリーズを担当してもらう。
もちろん人工呼吸はキスでは無い事を強調する事で、照れて行動を起こさない彼になんとか納得してもらった。
私とティアネットは残り二人を救護する。
ティアネットのネットリとした介抱と救護を受け気がついたフェーヴは、意識がハッキリすると共にショックを受けて思考停止している。
スリーズとキャスパーはお互い顔を真っ赤にして、キャスパーの方は「救護の為だったからな!」と強調し、スリーズも「ええ、ええ、それなら仕方ないですわね!わかってますとも」といいつつ、そっぽを向くが嬉しそうな様子。
天を仰ぐと先ほどまで小降りだったのに、ここに来て雨足が強くなってきた。
足元には河原の大小さまざまな丸石があり足を取られて歩きずらい。また、ただでさえ歩き辛い丸石に雨が降って濡れ、表面が余計に滑る。
「ねぇみんな見てあそこ!」
川と反対の切り立った崖に大人二人が縦に並んでも優に入れそうなくらいの高さまで亀裂が入って開いていて、下の方に行くに従い幅が広くなっている。
洞窟の入り口の様に奥まで続いているように見える。
厚い雨雲で周囲はうす暗く雨が降りしきり足元も悪い中、わざわざ上を見上げる者はいない。
その亀裂の先端に、亀裂によって欠けているが、鋭利な爪で引掻いたような特殊な刻印が施されていた。その印に私達の中に誰も気づく者はいなかった。
「みんなあそこに入るわよ!」
皆頷き、少しでも早く雨を避けようと走ってその洞窟に飛び込むように入る。
土砂降りのような雨で、もう中からは外が見えない。
「はぁー、最悪。すごい濡れちゃったじゃない」
「まぁ川に落ちたからな、いまさら同じことだろう?ははは」
「みんな装備は大丈夫?私、狩猟に持って来たもの流れちゃって……」
「まぁ、持ってきたものは袋ごと流れてしまったが、ほとんどは天幕に置いてきたから私は大丈夫だ。気は失わなかったし、装備はこの通りあるぞ。問題ない」
「私も……」
「一応念のためにポーションとかいくつか持ってきてましたが……しっかりと口を結んでいたので大丈夫でした」
「雨が止むまでここでしばらく雨宿りするしかないかしら?」
「このままでは皆、風邪をひくわね。とりあえず服と……下着……脱いで絞っておきましょう」
「み、見られると恥ずかしいので、キャスパー様はあちらを向いていて下さいましね」
「あ、あぁ、わかった……」
すごく残念そうなキャスパー。スリーズに言われた通り、背中を向ける。
皆、上着を脱ぎ絞り洞窟内にある思い思いの場所の乾いた岩の上に置き、下着は絞った後すぐに着用する。
「何か燃えそうなものがあると良いのだけれど……流石に無いわよね。皆、身をよせあって暖をとりましょう」
ぐぅううう……。
サントノーレのお腹から音が聞こえた。
「お腹すいた~~……」
そう言えば私達、あれからまだ何も食べてなかったわ……。
「ティア、確かチーズがあるんじゃない?」
「そうでしたね!」
ごそごそと肩掛けのバッグをまさぐるティアネット。
「川に落ちたので少々濡れてますが、我慢して下さいね」
「そのくらい問題ないわよ」
「念の為、半分は残しておきますね」
「わかったわ」
半分に切り、それをさらに人数分に切り分ける。
「少ないですが、今はこれで我慢して下さい」
皆、黙々と食べ、体力を使わないよう身体を寄せ合って早々に眠りにつくのだった。
◇
夕方、日も暮れ出した頃、教官用の大型天幕が慌ただしくなる。
「……エルヴィド主任、少々困ったことが起きました」
「どうした?」
「もう夕方だというのにフリュイ・ルージュ班の帰還の報告がまだなく、一応彼女達の天幕も確認しましたが、まだ帰ってきておりません!他の班は全て報告が終わり自分達の天幕に帰っているのですが……」
「なんだと!?」
主任は眉間に皺を寄せ、少し悩んだ様子を見せるがすぐに指示を出す。
「あそこは貴族の子息ばかりの班だったな?下手したら責任問題だぞ!?すぐに捜索隊を組め!」
「しかし、もうじき日が暮れます。夜の捜索は危険です、主任!それに、この近辺の調査では危険な魔物などの生息報告は上がっていないので、彼女達の生命に直ちに影響は無いと思われます!」
「くっ……。だがこのまま手をこまねいているわけにもいかん。誰か!今すぐゲートを使って学院に戻り、応援を要請して来てくれ!教官を中心に救助隊を編成し、生徒会や上級生達にも協力を要請するのだッ!この際すぐこれる者だけでいいッ!今晩中に全ての準備を整え明朝、日の出と共に救助・捜索を開始する!」
「実技試験の方はどうしますか?」
「私は捜索の指揮を取る。明日朝から二、三人連れて行くぞ!副主任、試験の方は頼む!」
「かしこまりました、エルヴィド主任」
「残りの教官はそのまま試験を続けてくれ。あと、生徒会のブルー・ドゥ・ロワ班を呼んでくれ。彼らにも状況を説明して生徒の指導を手伝って貰おう」
「「「はっ!」」」
「皆、無事だといいが…………」
この時から主任教官の苦悩が始まるのだった。
◇
鳥の囀る声で目が覚めた。外を見ると雨が上がっていた。
「おはよう……アルメリー。良く……眠れた?」
「周りはでこぼこした岩で硬いし、あまり快適ではなかったから、身体中が痛いわ。寝るのは寝れたけどね。あはは……」
「笑える余裕があるなら大丈夫だな」
「あ、おはようございますキャスパー様」
起きて会話を交わしていると洞窟の入口の方で足音がする。
「あ、アルメリー様、おめざめですか?おはようございます!」
「みんな、おはよー」
声がした方を見ると、木の枝を集めてきたティアネットとサントノーレが眩しい朝の光を背に入口に立っていた。
「みんな起きたみたいですね。朝食にしますか。と言っても今はこれしか無いですが」
と言ってティアネットは昨日残していたチーズを人数分で切り分ける。
「朝早くからお疲れ様、二人とも。今日は晴れてるみたいだから、持って来てくれた枝は外に置いて乾かしておきましょう」
「「はーい」」
「濡れた服も置いてたらそのうち乾かないかしらー?」
「そうね、出来ることはやっておきましょう。たまにはサントノーレも役に立つ事をいうわね」
「ねえ、スリーズ。川が近くだし、あなたの「火弾」でも川に放り込んだら気絶した魚が浮いて来ないかしら?」
「無理よ。私の火球は火の弾が出るだけだもの。中級の魔法なら爆発するらしいけど……」
「魚は無理かー。ざんねんー」
「なら、奥に進んでみるか?ひょっとしたら食べられるシャンピニオンや、野生動物がいるかもしれない」
「進むにしても枝が乾くのを待ちましょう?私達は昨晩キャンプに帰って無いのよ?今頃教官達が捜索隊を組んで探しに来てるはずよ。発見の手助けになるように焚き火をして狼煙をあげて私達の存在を知らせてからの方がいいわ」
キャスパーは少し不満そうだったが、それ以上は何も言わず口を閉じる。
枝は日当たりのいい所へ置き、私も手伝い風通しが少しでも良くなるように簡易的に組む。皆は濡れた服を河原の日当たりのいい石の上や近くに生えている木へ干す。
「服が乾くまで、水浴びでもどうですか?下着も干せますよ?」
ティアネットが満面の笑みで提案する。
「さんせーい」
「キャスパー様は風で飛んで行かないよう、ここで皆の服を見守ってください。覗きに来たりしたらダメですよ?」
一応スリーズが彼に釘を刺している。
「ばっ、ばかな。私がそんな事する筈が無いだろう!わかった、ここで見張っておく。あまり遠くに行くなよ?」
「では、キャスパー様行ってきますね」
キャスパーは皆に手を振って応える。
私達は入り口から見えない辺りの川辺へ向かうのだった。
◇
近くの大きな岩や木の枝に下着を干して川に入る私達。
「気持ちいい!」
「……本当ね。ふふ」
みんな裸になってサントノーレはティアネットやフェーヴと水をかけ合ったり、スリーズは髪を洗ったりして思い思いの行動している。
サントノーレは均整の取れたプロポーションをしていて、着痩せするのかぱっと見たところ私達の中で一番胸が大きい。フェーヴとティアネットはまな板と言ってもよかった。スリーズはリザベルトと同じくらいあって少し羨ましい。
リザベルトと一緒に川に浸かり身体の汗や汚れを洗い流していると、ティアネットが寄ってきた。
「アルメリー様もこっちで遊びましょう!」
「そうね、リザベルト様も一緒にどう?」
「あ、……うん!」
ざぶざぶと川に入っていき、ふともも近くまで水に浸かり彼女達に混ざって軽い鬼ごっこのような遊びをする。
「うふふ」
「あはは!」
「鬼さん、捕まえてごらんなさい~!」
気付くと視界からティアネットの姿が消えていた。背後から急にザバァッ!!と音がする。背後に急に立ち上がった彼女は抵抗する暇を与えず両手を妖しく蠢かせ、私の胸と太ももやお尻をまさぐる。余り大きくない胸を強く揉まれてちょっと痛い。
「捕まえた!はぁあ……!素敵ですわぁ。ささやかな胸、魅惑の桃色の乳首、美しいラインを描く太ももやお尻!ちょっと、ちょっとだけ触ってもいいですか?はぁはぁ……」
「もう触ってるでしょう!?それに胸を強くもみすぎよ!痛いわ!?」
彼女の手の動きに連動して大小さまざまな刺激が脳へ送られてくる。さらに彼女の両手の指が私の嬌声を求めて蠢く。
「あ、あふっ……。はぁ……え、あ?ち、ちょっと!どこを触ろうとしてるのっ!?」
「うふふ……」
太ももを弄っていた手がさわさわと前方へ、さらに太ももと太ももの間の隙間……秘部に移動しようとする。私は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になる。
「はあ、はあ、ちょっと、それ以上はダメ……よ……」
身体中に走る「快感」と「恥ずかしさ」と「怒り」と「諦め」がない交ぜになり目に涙が滲み訴える。
ゴッ!
後ろで何かを叩く音がした。
「いったーい!」
「アルメリーが……嫌がって……いる、でしょう?」
解放されたので後ろに振り向くと、いつの間にか近づいていたリザベルトがティアネットを止めてくれたみたいだった。彼女を叩いた手が痛むのか摩りながら叱っていた。
ティアネットは頭を押さえて痛がっていた。
「ご、ごめんなさい~!」
「リザベルトありがとう。ティアネット、貴女やりすぎよ?ちょっと痛かったんだから」
「あわわ、嫌いにならないでくださ~い!」
私はため息をつき、口を開く。
「まったくもう。いいわ、許してあげる」
しょんぼりしていた彼女が、一気に満面の笑みになる。
「ありがとうございます!」
スリーズ、フェーヴ、サントノーレの三人は少し離れた所で固まって立ち止まっていて、こちらに背を向けていていた。
ティアネットとの恥ずかしい絡みを見られて……ないと思いたい。
「捕まっちゃった。次は私が鬼ね?」
平静を装いながら、声をかけると彼女達はぎこちなく振り向く。
「ぇえ~、分かったわ!?」
「あははー!うんうん」
「りょ、りょうかいよぉ~!?」
あ、これは見られてた反応。顔は笑っているけど顔が赤くなってみんなちょっと引いているわ。
「今のはティアネットが遊びでじゃれただけだから気にしないで。あははー……」
「こんなことはアルメリー様にしかしないので!」
自信満々に腰に手をあててドヤ顔で宣言するティアネット。
「まぁ、それなら……」
「そうねぇ……」
「そっかー!」
えぇ……。あなた達、それで納得するの!?
「いやいや、あなたねえ……」
できればその変態的ボディタッチ、止めて欲しい……。
有耶無耶に出来たかどうかわからないけど、それからまた皆で水遊びを再開し、暫く堪能して気分をリフレッシュできた。
そのままサントノーレの提案で魚を獲る流れになり、魚を見つけたら魔法で作った囲いへ皆で追い込み、上手いこと入ったら逃げられないように彼女の土属性魔法で侵入路を塞ぎ、生簀状態にして最後は素手で捕まえた。
下着が乾くまでの間に魚獲りに勤しんだ結果、20〜30cm程の大きさの魚がなんと四匹も採れた。
それをティアネットが木の枝に器用に刺してサントノーレと二人で持って帰ったのだった。
◇
「キャスパー様、戻りました。下流の方へ行くとすぐ近くにお身体を流すのに丁度いい場所がありますので、よければ行って来て下さい」
「わかった、ありがとうスリーズ。ちょっと行ってくる」
彼が出ている間、乾かしていた枝を皆で洞窟前に持ってきて焚き火の準備を始める。
ティアネットが慣れた感じで良さそうな長さの枝を選び、剪定や加工をして魚の口から突き刺し焚き火の近くへ突き立てる。
「ティアネット、なんだか凄く手慣れてるわね?」
「こういう時に困らないようにと、父が色々教えてくれましたので」
「お父様、何でも知ってて凄いわね」
「そんなぁ、えへへ……」
暫くして彼が戻ると、スリーズが立ち上がり、皆へ声を掛ける。
「キャスパー様が戻られましたわ。採ったお魚を焼いていただきましょう」
スリーズが魔法で火をつけて魚を焼き、皆で分け合って食べた。
「美味ひい、おいひいよぅ……はふはふ」
「私達、チーズを少し食べただけだったし。空腹は最高のエピスって言うものね」
「ええ、そうね。貴女の魔法のお手柄よサントノーレ」
スリーズが優しくサントノーレの髪をなでる。
皆が食べ終わり、一息つくとキャスパーが提案をしてくる。
「救助が来るまでじっとしていても仕方が無いと思わないか?焚き火はこのままにしておけばいいだろう?先程も言ったが、奥にいけば自生してるシャンピニオンや食用になりそうな魔物がいるかもしれない。なーに、遺跡の魔物も余裕だったじゃないか。あそこに比べここは天然の洞窟。そんな所に大したヤツはいないだろう?」
「確かに……そうかも」
「だねー」
フェーヴとサントノーレが相槌をうつ。
「それにスリーズが教官から渡された、そのペンダントさえあれば多少奥に行っても捜索隊が見失う事は無いはずだ。ちょっとだけでも奥の様子を見てみないか?心配ならここに居る証拠として荷物をいくつか置いておけばいいだろう?」
「ここで大人しく救助を待つべきよ。無駄に体力を使う事は無いわ?」
「私も……そう、思う……」
私とリザベルトが反対した事で、他の子達は私とキャスパーを見比べてオロオロと様子を見ている。
「もういい!俺一人でも奥の様子を見てくる!フェーヴ、明かりの魔法を掛けてくれ」
昨日から一つも良い所を見せれてないのがプライドに障るのか、男を見せようと焦っているのか分からないけど、彼は明かりの魔法を掛けて貰うとすぐに私達の制止の声も聞かず強引に奥へ進んでいく。
スリーズがこちらをチラチラみて、少し悩んだあとキャスパーを追いかける。
「フェーヴ、サントノーレついて来て!キャスパー様お待ち下さい、私達も行きます!」
「「ま、待って!」」
バタバタと二人がついていく。
沈黙が辺りを支配する。
「もう、しょうがないわね……。リザベルト、ティアネット。一緒に行ってくれる?」
「はい!」
「わかった……わ」
結局、私達は引きずられる様に全員で未知の洞窟の奥へと進むことになったのだった。




