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令嬢は嗤う  作者: バーン
34/63

交歓

予約していた店『ジルエット』に着くと、既に店の前に男子が来ていた。


「二人共、久しぶりね!委員会以来かしら。キャスパー様も、……来て頂きありがとうございます」

「アルメリー……。やっぱり……私が……いると……つまらない……かも、しれない……わ」

「そんな事ないわよ!リザベルト様綺麗だし、居てくれるだけで場が華やぐわよ!」

「そんな……」


片手を口元に当て、頬を染めて照れるリザベルト。


「きょうは……。皆さん……よろしく……ね……」

「かっ、可愛い!」

「ピエロ君、残念ね!リザベルト様にはちゃんと婚約者がいるのよ。だから諦めてね?」

「そんなぁ〜〜!」


キャスパーが何か言い出そうとした瞬間、視界の陰から何者かが勢いよく出てきた。


「お姉ぇさ、はっ!?いえ、アルメリー様ぁ!」


胸元に飛び込んでくるティアネット。


「相変わらず、お胸が可愛らしいですね。だが、そこが良いです!」


胸元に顔を埋めてスリスリと擦り付けてくる。


「あーっ!もうっ!この子は……は、な、れっ、なさいっ!」


その様子を見てたキャスパーは出そうとした手を引っ込めて、開きかけた口を閉ざす。


そこへ賑やかな声が聞こえてきた。


「ここですわ、スリーズ様」

「ここが、そうなのね」

「ん、ふふっ!何たべようかな〜!」


「はっ!?キャスパー様!本日は、お日柄も良く&%#……」


スリーズはそこにキャスパーがいるのに気がつくといきなり動揺しはじめる。


「あ、ああ。良い天気だな、スリーズ嬢。今日はよろしく頼む」

「……」


スリーズが固まってしまったのでその場を引き取って、皆を店内に誘う。


「外は暑くなってきましたし、立ち話もなんですから、皆さんお店に入りましょう」


ぞろぞろとキャスパーを先頭に店へ入る私達。

入り口近くの受付に座っているお姉さんに声をかける。


「予約していたアルメリーとパシオンですけど……」

「少々お待ちください」


帳簿をパラパラとめくる受付嬢。


「アルメリー様と、パシオン様ですね。確かに。では、こちらへ」


そう言って受付嬢は予約席に私達を案内するため、先頭に立って颯爽と歩き出す。


「パシオンくん、君の名前を勝手に借りちゃった。ごめんね?」

「いえいえ、全然いいですよ!アルメリー様に使っていただけるのは、僕としても光栄です!」

「ありがとう!」


全員が座れそうな長テーブルまで案内されると、「飲み物をご用意致します」と受付嬢は奥へ入っていった。


ティアネットの方へ顔を向け、視線が合うとお互いしっかりと頷く。


事前に決めていた打ち合わせ通りに、後は任せたわよ。


彼女はさっそく懐から巾着袋を取り出して宣言する。


「それでは、席順を決めたいと思います。みなさん、この袋には人数分の用紙が入っています。組になる様に番号が振ってありますので同じ番号の人同士が対面に座るようにして下さい。また、時間経過で席順は変えるつもりなので、気楽に引いて下さいね!」

「うむ。わかった」

「ええ、わかりましたわ」

「はい!頑張りましゅ!あぅ、かんじゃった……」

「……。うん、わかった……わ」

「おう、まってました!」

「私の向かいには誰がくるのかしら?楽しみね」

「では、時計回りに順番に引いて下さい」


順番に一人ずつ巾着袋から紙を引いていく。


「皆さん引き終わりましたね?では、順に番号を発表して下さい」


「2よ」

「他に2番を持っている方いますか?」

「僕が2番です。やったぁ!僕はピエロだよ!宜しく!」

「ピエロ君……ですか。私はスリーズです。よろしく」


明らかに落胆してるのが見て取れる。スリーズってばわかりやすい性格だわ……。


「私の相手はどなたかしら?3番よ……」

「俺が3番です。俺はパシオンといいます」

「初めまして。私、フェーヴと申します」

「フェーヴ様ですね!どうぞよろしくお願いします!」

「次は俺か、4番だ。俺の相手は……と」


おずおずと、リザベルトが手を上げる。


「えっ!あなたが僕の……相手?」

「えぇ……4番。……私は……リザベルト……よろしくね……」


キャスパーはリザベルトを見てちょっと引き、固まっている。


「えっと……じゃぁ……向かいに……座っても……いいかしら?」

「あ、はい。おかけになって下さいリザベルト様」


キャスパーは意識を切り替え笑顔で答えると、椅子を引いてエスコートした。


「ありがと……」


「キーッ!参加してる男の子、少なくないですか!?もう男の人、全員相手決まっちゃったじゃないですかー!!」


サントノーレは悔しがって地団駄をふんでいる。


私が口を開く前に、ティアネットが先に説明してくれた。


「あー、それは……今回のお茶会を企画した時点で呼べる人が殆どいなくて……。アルメリー様とキャスパー様の一件でアルメリー様はクラスの男子達からは敬遠……。いえ、一線を引かれてるのは知ってますよね?それに私も男子の知り合いなんて居ませんし……」

「あ、そうだったー」

「だから、今回呼べた男子は委員会で知り合ったお二人と、キャスパー様だけなの。ごめんね」

「なるほど、それで男性側が少ないんだー」

「ちなみに、スリーズ様とキャスパーは学院に入る前からの知り合いなのよね」

「ですよねー」

「え、あの2人が!?」


そうだったのね……!?。知らなかったわ。


「そうよ。スリーズ様は前からキャスパー様の事……」

「なっ……!何言ってるのこの子ったら!?オホホホ!」


サントノーレの発言を大声を上げて遮るスリーズ。


口笛を吹いてあらぬ方向をむくサントノーレ。そして、その様子をニヤニヤしながら見ているフェーヴ。


なんだか面白い事になりそうだわ。


「えっと、残る番号1。私と……」

「私ですね!アルメリー様!……最後に残った番号で繋がった私達。これはもうビンビンに運命を感じちゃいますね!」


いうがいなや飛びついてくるティアネット。


「あっ、えっと……。あははは……」


調子に乗った彼女に、拳骨を入れる。


「いっ、痛ーい!」

「いいから大人しく座っておきなさい」

「はーい……」


ちょっと羨ましそうな、そわそわした目でこちらの方を見ているリザベルト。


今の所はバッチリ大丈夫よ!という意味を込めて彼女にウィンクをする。


彼女は困ったような笑顔を返す。



席順は以下のようになり、各々が決まった席に座る。


サントノーレ  ………  

リザベルト   ………  キャスパー

フェーヴ    ………  パシオン

スリーズ    ………  ピエロ 

アルメリー   ………  ティアネット



そうこうしている間に飲み物が運ばれてくる。見た感じ果実を丸ごと搾っただけの王道的なジュース。それが皆の席に行き渡った所で、ティアネットがスッと立ち上がり、飲み物の杯を掲げる。


「では、スリーズ様のご回復のお祝いと、皆様の仲が良くなりますよう祈りを込めて。乾杯~!」

「「「乾杯!」」」


「ティアネット。私、ちょっと席を外すわね」

「あ、もしかしてアレですか?あはっ!付いて行きましょうか!?」


ティアネットったら全くもう。


「一人で大丈夫だから!それよりも司会進行よろしくね?」

「はーい」


テーブルから離れると、近くのウェイトレスに話しかける。


「あの、お手洗いはどちらかしら?」

「あちらの奥になります、お客様」

「ありがとう」



この世界に来て、不安なことが一つあった。

前世では上下水道が完備されていて各家庭、各施設にはトイレが完備されており、用を足しおわったら皆、手を洗うということが当然の常識(ふつう)となっている清潔で衛生環境が高いレベルで維持されている世界で過ごしていた私は、中世ヨーロッパなどでは庭などに排泄物が垂れ流しされていたとかで衛生環境が悪かったと、何かで読んだ記憶があった。

もし、この世界がそのような不潔で衛生環境が悪い世界だと耐えられない可能性があった。


だけど、そんなそんな心配は杞憂に終わった。この世界では街の至る所に糞尿がまき散らされることもなく、繁華街にあるお店にはちゃんとお手洗いが常備されていた。水の供給や排泄物がどう処理されているのかは知らないし、よく分からないけど、トイレや衛生の概念が最低限ちゃんとあった事に私は精神衛生上、非常に助かっていたのだった。


私がそんな事を考えながらお手洗いのドレッサールームで待機していると、暫くしてフェルロッテが入ってきた。

早速、今日の参加者の軽い紹介と、このお茶会の司会進行をティアネットが進めている事などを伝えた。それから二人揃ってお手洗いを出て、自分のテーブルを目指す。


テーブルに戻ると、そのまま彼女を紹介する。


「皆さん、注目〜。この中では話した事が無い人もいると思いますが、生徒会執行部のフェルロッテ様です!つい先程お手洗いでばったり出会いました。お話をすると今日の集まりに大変興味を持たれたので、それならばと来てもらいました!」


彼女の登場はかなりのサプライズになったみたいだった。


「精霊祭以来ですね。フェルロッテ様」

「お久しぶりです、フェルロッテ様。精霊祭では委員会一同お世話になりました」

「パシオン、ピエロ。あなた方も精霊祭やその準備でよく働いてくれました。私も学院内を回っている時に、時々あなた方の仕事ぶりを拝見させてもらいました」

「光栄です。ありがとうございます」

「僕、がんばった!」

「ええ、ピエロはよく頑張ってましたよ」


パシオンがピエロを褒める。


「フェルロッテ様、サントノーレ様の向かいが空いてますのでそちらへおかけ下さい」

「分かったわ。よろしくね、サントノーレさん」

「あわわ……。よ、よろしくおねがいしましゅ……」


「……噛んだな」

「噛んじゃいましたね~」

「噛みましたね」

「うぅ……」


そんなやり取りの中、堂々と席に着くフェルロッテ。


彼女の登場以降、トラウマを思い出したのか、表情が一切なくなり無表情となったキャスパー。スリーズ、フェーヴ、サントノーレの三人も緊張のあまり固まってしまっている。

それもそうか、この三人は生徒会とはほとんど接点がないものね……。でも、会話をしていけば、そのうち慣れていってくれるはずよね?さぁ、ここから作戦開始よ!


「皆さん席に着いたし、まずは軽くゲームでもしましょう!」

「いいね、賛成だ」

「そうだな。俺もいいぜ」

「じゃあ最初は王様ゲームにしましょう!」

「王様ゲーム?」

「はい。くじを引いて、当たりを引いた人が『王様』となって番号を指定して命令をするんです。王様の命令は絶対なので、指定された人はどんな命令でも聞かないといけません。例えば『2番の人、今着ている服を1枚脱いで』とか『3番の人が5番の人と手を恋人つなぎして』とかそんな感じで1ゲーム終了です。服を脱いで、という命令だと靴や靴下でも1枚扱いと解釈して構いません。終わったらまたくじを戻して引いて王様を決めて……と繰り返します」

「王様ゲーム……ってそのゲームの名称自体、不敬罪になるんじゃないの?」

「で、では、主様ゲームという名前に変えましょう。それで、今から番号を割り振ります。アルメリー様が1番、スリーズ様が2番、フェーヴ様が3番という風に……時計回りにぐるっと回って私が最後の10番となります」


そう言いながら、ティアネットが巾着袋から数本の細い木札を取り出した。


「すみませーん。空のマグを一つお願いしまーす」

「かしこまりました」


店員さんが厨房の方から木製のマグを持ってきてきてくれた。ティアネットはそのマグの中に木札を全て放り込む。


「これでよしっと」

「ティアネット嬢、何をしているんだ?」

「これからやるゲームの道具ですよ〜。えーと、木札の中に赤い印がついた当たり札が1枚ありますので端の方から時計回りに引いていって下さい」


「では、アルメリー様から引いて下さい!マグの中は見ちゃダメですよ-?」


彼女はマグをこちらへ押し出してくる。

確かに、時計回りだと机の端の人から引くのは仕方ないわね。


私は真ん中あたりにあった木札を引いた。

その木札には印が付いていなかった。


「あら、残念。じゃ、次はスリーズ様ね。はい」


マグを彼女の方へ回す。

彼女が引いた木札にも印は付いてなかった。結局、当たりを引いたのは4番目に引いたリザベルトだった。


「ええと、……私からの……指名は……。そう……7番の方が……、私の肩に……頭を預けて……寝て……ください」

「7番は私だ。だがこの時間に寝るのは流石に難しいものがあるぞ……?」

「おお、キャスパー様!良いですね!羨ましい!」

「ほんとに寝なくても良いんですよ、形だけでも。さぁさぁ!」

「ほら、ティアネット嬢もこう言ってますし!さぁ、キャスパー様、リザベルト様の方へ。目を瞑って頭を預けて下さい。それっぽい雰囲気を出すだけでもいいので!」

「分かった。では失礼する……サントノーレ嬢、席を空けて貰っていいか?」


彼女の隣に座っていたサントノーレはうなずき、席を立って後ろで待機する。キャスパーはテーブルを回って空いたリザベルトの隣にすわる。


「ど、どうぞ……」


彼はゆっくりとリザベルトの肩へと頭を乗せる。そして目を瞑った。


「ふむ、これは中々に心地が良いものだな。たまにはこうして眠るのもよいかもな……」

「……」

「……」

「……」

しばらく沈黙が続く。

「あ、あの……」

「なんだ?」

「ごめん……なさい、やっぱり……なんでも……ないです」

「そうか」

「はい、そこまでー!ではキャスパー様、サントノーレ様、席にお戻り下さい。木札を引いた方はマグに戻して下さいねー」


ティアネットは木札を回収する。マグの中で札をシャッフルしてサントノーレの前にマグを回す。


「次は私ねー」

「やった!いきなり当たりきたーっ!3番の人、私の頬っぺにキスをしなさいっ」

「え、ちょっと待って。えーと、私そっちの気はないんだけど……」

「今は私が『主様』よ!私の命令は絶対よー!」

「わ、分かったわよ……」

「……」

フェーヴはサントノーレの両肩に手を置く。

「えいっ!」

ちゅっと、フェーヴはサントノーレの頬に唇をつけた。

「はい、終わり!これでいいでしょ!」


サントノーレは頬を上気させてちょっとぼーっとしている。


「あ……うん。えへへ……」

「じゃ、次のゲームにいきましょっか!」




それから数ゲームが終わるが、皆命令の内容が大人しく、これといった進展はなかった。

その間に皆がそれぞれ頼んだ料理が次々と運ばれてきていて、テーブルの上はすっかり賑やかになっていた。


あまりにも進展がないのでテーブルを回り込み、ティアネットと少し話をする。


「うーん、全然だめねぇ……」

「なかなかうまくいかないものね」

「こういうのは焦らない方が良いですよ。きっといつかチャンスが来ますから」

「……そうよね。まだ始まったばかりだしね」


皆こういったゲームにあまりなじみがないのか、今一つ盛り上がりに欠ける。

どうしたものかと考えあぐねていたら、不機嫌な声が聞こえてきた。


「つまらないわね……」


声の主の方をふり向くと、フェルロッテが椅子から立ち上がる。


「こんな子供だましみたいなお遊び、いつまでも付き合ってられないわ」


彼女はそう吐き捨てるように言うと、皆を睥睨する。


「私もそう思ってた所ですわ」

「ちょ!?フェルロッテ様、スリーズ様まで!?」

「結局、このお茶会は何がしたいのかしら?アルメリーさん。説明して下さる?」

「えっ!?」


どうしようかしら?フェルロッテに、このお茶会の本当の目的『スリーズとキャスパーのカップル成立計画』っていう事を説明したほうがいい?だけど、皆の前でそれを言ってはだめよね?


でも、正直に本当の目的をフェルロッテに伝えてしまったら、彼女はそのまっすぐな性格上、キャスパーに対してどストレートに、『あなた、この子と付き合いなさいな』と言い放ってしまう可能性が非常に高い。それはどうしても避けなければいけない……!


彼女は親切心からの提案のつもりだけど、彼女の発する言葉は育った環境上、無意識的にどうしても命令の様な上からの発言に聞こえてしまうし、二人とも自尊心が高いから反発して素直に聞く事ができないばかりかこの先も一定の距離を置いたまま、必要以上に近づく事無く学院を卒業、なんてことになりかねない。


今日は私にとっても千載一遇の機会……。これをキッカケにクラス内の環境を改善したい、、という思いも無いわけではないけど、やはり目の前に幸せになれそうな子がいるなら、全力で応援してあげたい。

イレギュラーの参加者の所為で、この機会を台無しにされる様なことはあってはダメなのよ!


この状況で私にできる事は……。頭をフル回転させ、この場を切り抜ける方法を考える。


「あの、その……私は、ただ、皆と楽しくおしゃべりしたくて……」

「嘘おっしゃい。本当は何か別のことを企んでいるんでしょう?」


くっ……。この人、妙な所で勘が鋭いわ。


私は意を決し、ティアネットの隣からフェルロッテの席までいくと少し強く手を掴む。


「すみません、フェルロッテ様。ちょっと失礼します」

「ちょ、ちょっとアルメリーさん?」

「フェルロッテ様、ちょっとこちらに来て下さい」


強引にドレッサールームに引きずっていこうとする。


「え、どうして?」

「お願いだから来て下さい。あとでちゃんとお話はしますので」

「そ、そう……なら仕方ないわね……」


渋々ついてくるフェルロッテを連れて、お手洗いへ移動する。

ドレッサールームへ入るなりフェルロッテがいきなり強い口調で質問してくる。


「ちょっと!どういう事?」

「落ち着いて聞いて下さい。実は今回のお茶会はスリーズ様達の事を前から知るティアネットと一緒に企画したもので、目的は『キャスパー様とスリーズ様、この二人の仲を良くする事』だったんです」

「……え?」

「企画してる時にティアネットから聞いて知ったのですが、どうやらスリーズ様がキャスパー様の事をお慕いしているみたいなのです」

「なら、話しが早いわね。私が一声掛ければ……」


やはり思った通りだわ。


「それを思いとどまって頂きたいのです」

「なぜ?そこまで二人の事が分かってるのにじれったいじゃない」

「お二人とも、自尊心が高い方なので、上から命令するように付き合えと言われても多分、反発すると思うのです。表面的には聞くふりをしてもすぐに別れてしまう、そんな気がして。なのでちょっと回りくどいようですが、彼に気づかせる、もしくは彼女が自発的に言えるような雰囲気を私達で醸し出す事が出来れば、今回のお茶会は成功だとおもうのです。じれったいのは重々承知ですが、なにとぞご理解してくださいませ」

「……間接的にならいいのね?苦手だけど分かったわ。でもこのまま進展が望めないと思うとやっぱり我慢できなくなるかもしれないわ。何かいい作戦はあるのかしら?」

「はい。私達に考え(次のゲーム)があります。なので、今暫く見守っていただけますか?」

「わかったわ」

「ありがとうございます。では、皆も待っていると思うのでひとまず戻りましょう!」


二人はドレッサールームから出て皆の待つテーブルへと戻る。戻る際に大回りしてティアネットの肩をポンポンと二回叩く。これは事前に二人で決めていた席替えの合図である。


「皆さん、主様ゲームは一旦終了とさせて頂きます。あたらしいゲームを始める前に気分一新するため、席替えをしましょう。皆様、くじを引いて下さい」


新しい席順は以下のようになった。


キャスパー  ………  パシオン

ピエロ    ………  サントノーレ

ティアネット ………  リザベルト

アルメリー  ………  フェルロッテ

フェーヴ   ………  スリーズ



「それで、これからどんなゲームをするのかしら?」


フェルロッテは正面のアルメリーを見つめる。


「はい、今度はですね……コイン裏表ゲームをやりたいと思います。ここに人数分の同じ硬貨を用意してあります。これを皆さんに1枚ずつ渡します」


テーブルをぐるりと回り一人に1枚ずつコインを配っていく。


「一回目は司会者がまず質問をします。この質問は必ず『はい』か『いいえ』で答えられるものにしてください。それに対する答えを『はい』ならコインを表、『いいえ』ならコインを裏にして見えないように一斉にハンカチの下に置いて下さい。ハンカチの中でコインをシャッフルして『はい』と『いいえ』の結果をみんなで見て感想を言い合うというゲームです。二回目以降は時計回りで皆にも一人ずつ質問をしてもらいます」


アルメリーは、次のゲームの説明をしたあと料理の皿を動かしてテーブルの中央辺りに空間を確保しハンカチを置いた。


「うん、なるほど。それはさっきのゲームより面白そうね。早速やりましょう!」

「ティアネット、司会よろしくね」

「わかりましたー。では、いきますよ?最初の質問!……今、誰か好きな人がいますか?」

「ちょ、ちょっといきなり何て質問をするのよ!?」


慌てた様子でスリーズが焦るが……。ティアネットは人差し指を自分の口元に当てて『静かに』とジェスチャーする。


「スリーズ様、もうすでにゲームは始まっていますよ?さぁ、コインをハンカチの下へお願いします。結果が出てから感想を言い合いましょう!」

「あ、ええ……ごめんなさいね」


ハンカチの下に皆がコインを入れ、ティアネットがそれをシャッフルする。

ハンカチを取り、コインの裏表を数える。


「表が二枚!?きゃっ♪」


ティアネットは満面の笑みを浮かべて喜んでいる。

前からそうではないかと思っていたが、やはり彼女は恋ばながとても好きみたいだった。


「この中に2名も誰か好きな人がいる方がいるんですね〜!誰かなぁ~ふふふっ」

「詮索はダメよ〜?ティアネット」

「じゃぁ、次は僕だねっ!質問。……それはこの中にいる人ですか?」


ピエロ君、良い質問よ、それ!


ハンカチの下に皆がコインを入れ、ティアネットが先程と同じようにシャッフルする。

ハンカチを取ると、表が一枚。後は全部裏だった。


スリーズをチラリとみると少し顔が赤くなっている。……ということはやはり彼女のコインかー。彼女もなかなか初心(ウブ)な反応を見せてくれるわね。可愛いところあるじゃない。


「次は、私か。質問……それは同性ですか?」


結果は、全部コインが裏。


「同性が好き、という可能性はコレで消えた訳か……」


そうキャスパーが呟く。


「次、俺ですね。では質問します。……その……好きな相手は俺ですか?」


次の結果は、全部コインが裏。

パシオン君が一人ショックを受けて落ち込んでいる。ちょっと可愛そうだけど、あはは……。


これで状況は、今好きな人が居るのが二人。二人の内、その対象はこの中にいる子が一人。その相手は異性。パシオン君でも無い。残りの男子はキャスパーかピエロ君か。確率は1/2。いくら男子が鈍感とはいえ、キャスパーもその恋愛対象が自分だとうすうす感じてきたんじゃないかしら?……逆にそうじゃないと困るわ。あと、ここでサントノーレが変な質問をしなければいいのだけど……。


「次、私ね?質問〜。……私と付き合ってみたいという人はいますかー?」

「「ちょっ!?なんてはしたない質問してるのよ、あなた!」」


サントノーレの質問に、スリーズとフェーヴが同時に凄い剣幕でツッコミを入れる。


「だってぇ~~」

「だってじゃないわよ!」

「そうよ、そうよ!」

「なんだよぉ、二人ともー。そんなカリカリしないでもっと気楽に行こうよ?」


ピエロ君は天然だからこんな事言ってるんだろうけど、今はそういう場合じゃないのよね……。


ハンカチを取ると、コインのうち三枚が表。


「この結果って、男子全員ってバレバレじゃないの。あははははっ!」


フェルロッテがとても機嫌良さそうに笑っている。

男子はみんなちょっと照れている。


は!?男子ィィイ!全員って何よ!?それにキャスパー!あなたもなの!?そりゃ、サントノーレもそこそこ可愛いけどっ!


フェーヴは頭を抱えている。



「次、私です……ね。質問……キャスパー様……これだけ……積み上げ……られて……気づかない……のですか?……それとも……気づかない……ふり……?」

「リザベルト様!?質問は『はい』か『いいえ』で答えられるモノで……」


ティアネットがあくまでゲームのルールに則り質問内容に待ったを掛けるが、キャスパーが応酬してしまう。


「私がなんだというのだ!?私に何を求めている!?」

「分かり……ませんか……?今この中に……好きな人が……いる人が二人。……その中で……その相手が……この中に……一人。その相手は……異性。……パシオン君……では無いです。……なら残りの男子は……キャスパー様か……ピエロ君です。……確率は1/2……ピエロ君には……悪いですが……多分……彼は違うと、……思います……」

「つまり……、この中に私に好意を持っている者がいる……と、いうことか!?」


キャスパーは一同を見回す。

このグループの中で一人顔を赤らめている娘がいた。


「スリーズ……お前なのか?」


スリーズはコクリと頷いた。でも、恥ずかしいのか彼女はキャスパーと目をあわす事が出来ないままでいた。


「私の目は、曇っていたのか?一体いままで本当に何を見ていたのか!こんなに近くに想ってくれている子がいたとはな……。スリーズ、何時(いつ)からだ?それに……本当に私でいいのか?」

「はい……。小さい頃から貴方様の事、お慕い申し上げておりました……」


最後の方は蚊の鳴くような声だったが、彼女は勇気を振り絞って言いきった。


「女性の口からここまで言わせたのよ。ここは男の方からビシッと行くものではなくて?」


フェルロッテが目を輝かせ、キャスパーに追い打ちを掛けるように迫る。


「お、オホン!。スリーズ。もし、そのー、なんだ……」


沈黙が暫く続き、静寂が辺りを包む。やがて意を決したキャスパーが頬を染め口を開く。


「……私と付き合ってくれるか?」

「はい……。喜んで!」


二人はどちらともなく席を立ち、移動すると手を取り合って幸せそうに微笑みあった。周りの皆も拍手で祝福する。


「……彼女にとっては今日まで長かったでしょうね。でも良かったわ。彼女の思いが通じて」


二人の様子を暖かく見守っていたが、不穏な気配を感じ視線を移すと、そこには虚ろな瞳でじっと二人を見つめるパシオンの姿があった。


「パシオン君……?」

「あ、いえ……。別になんでもありません。すみません。続けて下さい……」


声を掛けられたパシオンは我に返り、視線を逸らした。


「では恋人が一組できたので、一旦休憩にしたいと思います」


一応、今回の目的は達成できたわね!安心したらお腹が減ってきちゃった。折角美味しそうな料理が並んでいるのだから食べちゃおう。


料理を自分の皿によそって食べようとしたところにスリーズが側まで近づいてくる。


「アルメリー……、このお茶会、……誘ってくれてありがとう。とだけ言っておくわ。ちょっとあなたの事、見直したっていうか……」


頬を上気させた彼女はそう言い残すと、照れ隠しなのか踵を返しスタスタと元の位置へと戻っていった。

私は唖然として、思わずフォークとナイフをぽろりと手から落としてしまう。


え?なに?どういう事!? 彼女の意図が分からず戸惑う。


きょろきょろ見回すと、フェーヴとサントノーレもニコニコとこっちを見ている。

どうやらこの三人組との関係は少し良好になれたみたいだった。


その後も歓談が続き、テーブルの上に並べられた料理も空いた皿から回収されていき、良い雰囲気のまま、やがてお茶会はお開きの時間になる。


フェルロッテが優雅に立ち上がり、宣言する。


「皆様。いきなりの参加にも関わらず、私を快く受け入れてくれてありがとう。お陰で楽しい時間を過ごせましたわ。お礼に、ここのお支払いは私が持ちますわ!」

「いいのですか!?」

「もちろんよ。私を誰だと思っているのかしら?」


フェルロッテが尊大な態度で言い放つ。


「せめて自分の分くらいは……」


パシオンが控えめに発言する。


「あなた?私に恥をかかせるつもり?」

「……失礼致しました」


大人しく引き下がるパシオン君。場の空気が緊張してきたので、私はその場を和らげるべく声を上げる。


「ありがとうございます。フェルロッテ様。それでは、お言葉に甘えて先に外に出てお待ちしておりますね」


男子は軽くお辞儀、女子はカーテシーをして、ぞろぞろと店内から出て行く。


外で待っていると暫くしてフェルロッテが店内から出てきた。


「もう日も暮れかけています。貴方達、道草せずに帰りなさいね。学院の生徒としての自覚を持ち、明日の授業に遅刻などしないように。では皆さん、ご機嫌よう」


フェルロッテがそう言って帰ろうとすると、誰ともなく一人ずつ彼女に挨拶していく。


全員の挨拶が終わった頃、生徒会で見かけた事のある男子生徒が二人ほど現れた。多分、執行部のメンバーだろう。彼らは黙って彼女のエスコートをする。


近くでずっと待機してたのかな。ご苦労様です。


「では、我々も帰るか。スリーズ、よかったら学院まで送ろう」

「ありがとうございます。フェーヴ、サントノーレいきますわよ」


ピエロとパシオンが所在なげにしていたので声を掛ける。


「あの三人組と一緒に帰ってあげて。女性の護衛は男の子の務めでしょう?」

「あなた方の護衛はよろしいのですか?」

「こちらは大丈夫。リザベルト様の防御魔法は強力で頼りになるからね!それにキャスパー様一人だと、ちょっと頼りないし……ね?」

「はっ!そういうことでしたら!彼女達を学院まで無事にお届けいたします。では失礼します!」

「わかったー。僕がんばる!」


彼らを見送っているリザベルトとティアネットを後ろから抱きしめる。


「さてと、私達も帰りましょうか?」

「そう……ね」

「は~い!」


三人で並んで歩く。


「今日は楽しかったです!フェルロッテ様が参加されたのにはマジでビックリしましたが。また一緒に行きたいですね♪」


ティアネットがにっこり笑って話しかけてくる。


「えぇ、そうね。私も、とても楽しかったわ!」

「こんな日が……、ずっと続けば……いいのに……」


あかね色に染まる空に、時を告げる鐘の音が鳴り響く。


「あっ、やばい!これは八の鐘じゃない?もうじき寮の門限の時間よ!?寮長に怒られちゃう、急がないと!」


「えっ、本当ですか!?」

「二人とも、近くの駅まで走るわよ!付いてきなさい!」

「馬車がすぐ……来てくれる……かしら……?」

「そんなことは!駅に着いてから考えましょう!!」


私はそう言うなりスカートをたくし上げ、駆け出す。


「あぁ、待ってください~!」

「待って……」


二人は慌てて後を追いかけるのであった……。

結局、門限前には寮に到着できたが入り口で寮長に見つかり、「淑女が走るなんてはしたない……もっと余裕を持って行動しないからこうなるのです……」など淑女としてあり方、態度、考え方など様々な事柄を延々と聞かされる羽目になったのだった……。


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