直談判
翌日のお昼の休憩時間にリザベルトと共に大食堂に向かって移動していると、ティアネットが飛びついてきて合流する事になり三人で移動していると、この前お茶会の事を知らせてくれたサロンのメンバーの人と出会った。
「ごきげんよう、アルメリー様、リザベルト様」
相変わらずティアネットの事はガン無視ね、この人。まぁティアネットはサロンのメンバーでは無いから、それもしょうが無いのかなぁ?もしかしたら人見知りなのかもしれない……いや、そんなに親しくない私に話しかけてくるぐらいだからそれはないかな……?
「ごきげんよう、ランジネット様」
「……例の件だけど、サムディ、ディマンシュ以外だと私達生徒は学院から出る申請も受理されるのが厳しいじゃない?……だからごめんなさい、私の方は探せてないの。あなたはどこか良い所は見つけられたかしら?」
「それでしたら、『グロワール』が良いと思います」
「あ、あそこは良さそうね!一度行ってみたいと思ってたのよ!ありがとう。助かるわ。ついでに予約も取っておいて頂けます?」
「あ、はい?」
「それでは皆様、ごきげんよう」
有無を言わせず一方的に言いたい事を言うと、彼女は優雅にカーテシーをして手を振りながら笑顔で去っていった。
あまりの事に私は思考停止してしまい、口をぽかーんとあけて彼女を見送ることしか出来なかった。
大食堂の空いている席に座り、三人で昼食をとる。食卓の上の食べ物をつつきながら、勉強会の事を考える。私のことはこの際置いておいて、この二人の成績はどうなんだろうか?と、ふと気になり尋ねてみた。
「ねえ、最近どう?」
「いきなり、『最近どう?』と聞かれても困りますよー?」
リザベルトもそれに同意して首を縦に振る。
「あ、えっとね……成績の事とかを聞きたいの」
「あ~、そろそろ学期末試験があるとかないとか……昨日、スリーズ様達が言ってましたね~。そっか~、ここもテストあるのか~……」
「私は……特に……勉強、問題……ないから……」
リザベルトは見るからに成績良さそうだもんね。ティアネットはもうちょっと自分の事、心配した方が良いんじゃないかしら?
「二人とも聞いてほしいの!何故か分からないけど私、ディマンシュに勉強会に強制参加させられそうなの!
でも、その日は予定がつまってて、勉強会の日程を変えて貰うために直談判しに行こうと思うのだけど……。ねえ?2人とも、一緒に受けて貰えないかしら!?……参加者は増やしても構わないらしいから。一人だと心細いし……」
「え~、勉強会ですか~。嫌ですけど、おね……アルメリー様と同じ時間過ごせるならあり、ですね?いいですよ~!それに、ディマンシュはスリーズ様達と例のアレがありますもんね?いいですよ!」
「わかった……アルメリーの……頼み……だもの……参加……するわ……」
「ありがとう二人共!恩に着るわ!放課後に生徒会室へ行くからついてきてね!」
良かった!これで何とかなりそう……!
◇
放課後、私達は生徒会室の目の前にいた。
前はあんなにすんなり入れたのに暫く来てなかっただけで、いざ扉の前に立つとすごく抵抗感がある。
「あけ……なぃの?」
リザベルトの声に背中を押され、扉のノブに手をかける。
ごくりと唾を飲み込み、ノックをする。
「アルメリーです。エルネット様に勉強会の事について聞きたい事があり参りました」
「よくきたわね。いいわよ入ってちょうだい」
軽く振り向き二人に声をかける。
「入るわよ?二人ともちゃんと付いてきてね?」
二人が頷くのを確認して、ノブにかけた手に力を込める。
「失礼します」
部屋の中にはエルネットとテオドルフの二人しかおらず、閑散としていた。
「ほえ~。これが生徒会室の中ですか~~」
「私も……入るの……初めて……」
「あら、一人ではないのね?」
「リザベルト様とティアネットです。二人共、勉強会に参加してくれるという頼もしい友人です」
「たしかに、希望する者がいれば参加者を増やしていいと手紙に書いたわね。リザベルト様、お久しぶりです。セドリック様の誕生パーティー以来ですね。ああ、そういえばあの時はあなたも一緒だったわね?……それと、そちらの子は初めて見る子ね?」
「アルメリー、リザベルト、久しぶりだな!暫く俺と会えなくて寂しかったんじゃねーか?」
「ふふ。テオドルフ様ったらご冗談を。お久しぶりです」
「お久し……ぶりです……テオドルフ……様」
「な、生テオドルフ様!生エルネット様!尊い~~~!!」
ティアネットは衝撃を受けてガクガクと腰が砕けそうになっている。
さっと机を飛び越え、体勢がくずれかけたティアネットを支えるテオドルフ。
「この可愛い子ちゃんは……。ティアネットって言ってたっけ?」
「あっ、あっ、ありがとうございますぅ~!?」
ティアネットは目をぐるぐる回して混乱している。
「こほん。ティアネットさん、ご自分で立てますね?」
「は、はいっ!」
エルネットのドスの効いた一言でシャキッと立ち上がるティアネット。
「テオドルフ様。失礼ですが、その子はもう大丈夫なようです。ご自分の仕事に戻って頂いてよろしいですか?」
「わりぃな、そういう訳でお互い用件が終わったら後でじっくり話をしようぜ?」
「もぅ、女の子とみたらすぐ手を出そうとするんですから。ダメですよ?テオドルフ様」
「なら代わりにアルメリーでもいいぜ?ははっ!後で近況聞かせろよな!」
彼に対し笑顔を返す。
ティアネットは妄想モードに入り、くねくねと悶えている。
「それで、アルメリーさん。勉強会について聞きたい事って何かしら?」
「……こんな事を聞くのもアレなんですけど、私、勉強会をしてもらわないといけないほど成績が悪いんですか?」
「あっ……」
「……」
「あー、入試の成績は酷いとは聞いたわ?教官達から伝え聞くところによると最近はまぁ、悪くはないみたいね?」
「なら……特に勉強会をして頂く事は無いと思います。……このまま無かった事にしません?」
作り笑いを浮かべエルネットの反応を見る。
出来れば勉強会など無くなって欲しいわ……。
「私としても出来れば他の事をしたいのだけど、こちらにはこちらの事情があるのよ……わかってくれるかしら?」
あー、勉強会は絶対やるんだ……。
なら、日程だけでも絶対に変更してもらわないと。
「エルネット様、勉強会をやるのはわかりました。その事にもう文句は言いません。ですが……日程の変更は可能でしょうか?」
「あら、ディマンシュは都合が悪いのかしら?何か予定でも?」
「今週末のディマンシュはちょっと色々立て込んでまして……できればサムディの放課後に変更して貰えないでしょうか?」
「私も、あなた一人だけ相手にするのはちょっと納得してなかったの。折角、この私が時間を割く訳だし、もったいないじゃない?あなた一人で来てたら却下してた所だったけど、二人も連れてきた。ふふ。これはちょっと勉強会、教え甲斐がありそうね!この想定外の結果には私も考えを改めるしかないわ。いいわ、あなたの希望通りサムディの放課後に予定を変更しましょう」
「ありがとうございますエルネット様!」
「……ここに研究棟を使用するための許可書があります。これにあなた方の名前を書き入れて、指導教官のどなたかにサインを貰っておきなさい。それがあれば当日、研究棟に入れるはずよ。魔道書も忘れないように」
「「「はい!」」」
「エルネット、俺も行って良いか?」
「テオドルフ様、勉強の邪魔になるから絶対こないで下さい!」
「ちぇ~~っ」
「ちぇ~~っ、じゃないです!いいからご自分のお仕事をなさって下さい!」
「へいへい……」
「では、あなた達、私からは以上よ」
「は、はい!」
ティアネットの体を揺すり、彼女を妄想モードから現実に引き戻す。
「ティアネット、いつまでも惚けてないの!要望は聞いて貰えたわ。ほら帰るわよ?」
「あ、アルメリー様~~~!?」
「それでは、テオドルフ様、エルネット様、失礼します」
私達は生徒会を後にする。
こうして、週末の日程をギリギリ調整でき、これで何とかなるだろうと、この時の私は軽く考えていたのだった……。




