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令嬢は嗤う  作者: バーン
28/63

見舞い

放課後、スリーズのお見舞いに行くために校舎の玄関でフェーヴ達を待つ。

昼休みの時間にティアネットとリザベルトにその話をすると、一緒について行くというので三人で世間話をして時間を潰していると女生徒が一人、私達を見かけて寄ってきた。


「リザベルト様、アルメリー様ごきげんよう。今度のお休み空けておいて下さいましね。またサロンのお茶会が開かれるようなので。今度は趣向を変えて街の方のお店を予約するそうですの。でもまだ決まってないらしくて……。もし良いお店をご存知ならおしえて下さいましね」


そういえばこの人、マドレリア様のサロンのメンバーにいた気がする。名前が思い出せないけど……。


こっそりリザベルトに耳打ちする。


「……彼女の名前、なんだったっけ?」

「ランジネット……男爵家の……令嬢……」



やばい……!休日が……、ダブル…トリプルブッキング!?

ランセリア様とピクニック、スリーズの合コン、マドレリア様のお茶会……こんなに予定がかぶるとは思ってなかったわ。うーん、私達の方の予定を後日にずらす?いえ、スリーズ達やキャスパーの気が変わらないウチに早くやるべきよね。延ばせば皆の予定も合わせ辛くなるし……!なんとかうまいこと考えるのよ私!


「あ、はい、それはもう。お茶会の事、知らせてくれてありがとうございました。ランジネット様」


アンがもういいお店を見つけて気を利かせて予約とってたらどうしよう。帰ったらすぐ確認しなきゃ……!


彼女は軽くカーテシーをすると去っていった。



それから暫くして、フェーヴ達がやって来た。


「おまたせしたかしら?」

「あ、ティアがいる。え、リザベルト様もいるー!?」

「フェーヴ様、サントノーレ様、お久しぶりです……」


距離感が掴めないのか、なんだかぎこちないティアネット。


「私も……行きたい……のだけど……いい……かしら?」

「お見舞い、多い方がきっと喜ぶよー」

「揃ったようですし、行きますわよ」


フェーヴはこくりと頷き、先導して歩き始める。




並木道を通り、私の寮とは逆に続く道を進んでいくと、やがて歴史を感じさせる風格を備えた建物が姿を現す。それは彼女達が入居している寮のようだった。

2階建てだが、パッとみただけでも部屋と部屋、窓の間隔などがゆったりしていて私の入居してる寮より一部屋辺りの面積が広そうな雰囲気がある。


フェーヴはここの寮長に私達の入寮の許可をとると、ずんずんとスリーズの部屋へ向かう。


目的の部屋へ到着したのか、軽くドアにノックして返事を待つ。

やがて内側からドアが開き、メイドが礼をして出迎える。


「その後、スリーズ様の様子はどうかしら?」


フェーヴが事務的にメイドに確認する。


「お昼過ぎに学院の治癒術師の方に来て頂きましたので、もうすっかり元気を取り戻されております。念のため大事をとって本日はお休みされておりますが、先程起きられた所でございます」


「スリーズ様ー。きたよー」

「ドリエマ。こちらに上がって頂いて」

「かしこまりました」


ぞろぞろとメイドの後について行く。

私の部屋と若干造りや広さが違うが基本的には同じような間取り。

寝室で寝ているスリーズ。メイドに助けて貰いながら、ゆっくりと体を起こす。


普段より多い足音にびっくりしているようだった。


「お嬢様、お連れしました」

「……え?何、なんなの?なんだか人が多くない?」

「ついて来たいって言うから連れてきたわ」

「ティア、アルメリー様、リザベルト様まで……?」

「スリーズ様、お久しぶりです……」

「ティアネット……あなた、私の前に来たってことは……少しはまともになった自覚がでたのかしら?」

「アルメリー様、あなたは私の見舞いになど絶対来ないと思ってたわ……こほん」

「リザベルト様、わざわざこんな所までありがとうございます。熱の方は下がりましたが、まだ頭がぼーっとしているので、失礼があるかもしれません。その際はご容赦下さい……」


スリーズはピンク色のフリルが沢山入った可愛いらしい寝間着を着ている。

自分が何を着ているのか思い出し顔を赤らめ恥ずかしがって、シーツを胸元まで引き上げるスリーズ。


「も、萌え……」


なにやら呟きながら、口角を上げつつ両手の指をいやらしく蠢かせるティアネット。


「なによ。どうせ似合わないとか思っているのでしょう!?」

「……いや、ちょっとかわいいな、って」

「か、からかうのはやめてちょうだい!?そ、それよりあなた、ここまで来たのは何か理由があるのでしょう?」


耳まで真っ赤にして、抱えた枕をぎゅっと抱くスリーズ。


「ええ、話が早くて助かるわ。今度のお休みに街のお店を予約してお茶会を開くの。今、私のメイドがお店を探しているわ。声を掛けているのは私、リザベルト様、ティアネット……男子も三名ほどくる予定よ。そうだ、せっかくだからあなたの回復祝いも兼ねましょう。フェーヴ様、サントノーレ様も良かったらどうかしら?」

「どういう風の吹き回し?」

「私達が参加するメリットがないわよね」

「男子もくるの!?それ、いきたいー!」


スリーズとフェーヴがサントノーレをキッと睨み、サントノーレはサッっと横を向いて口笛を吹いてごまかす。


「スリーズ様、最近の私、どうかしていたみたいです。散々吹聴していた話はもう封印しますから、また前のように……」


スリーズの顔が少しだけ和らぐ。


「……コホン。それで、男子は何方(どなた)がくるの?」

「当日のお楽しみ……といいたい所だけど、あなた(・・・)だけでも絶対参加すると約束してくれるなら今、教えてもいいわ?」


この言い方なら、大丈夫かな?


「馬鹿にしないで。男爵家の令嬢たる私が、どこの馬の骨ともわからない男子程度に釣られると思って?」


甘かった!確かに彼女のプライドを軽く考え過ぎていたわ。でも、私がこの名前を出すのは賭けね。スリーズ、お願い自分の本心に従って……!


「わかった。なら名前を言うわ。それでもあなたが参加しないというなら、今回のお茶会は無しよ。その人にもそう伝えるから。いいわね?」

「……いいわよ、教えてちょうだい」

「キャスパー様よ。彼にも声をかけたの。彼は……了承してくれたわ?」


スリーズの瞳をまっすぐに見つめる。

彼女は一瞬目を見開き喜んだかと思うと、すぐに悔しそうな表情になり視線を逸らす。


「私は……」

「スリーズ様、アルメリー様と二人の間に確執があるということは伺っています。ですが、誰が場を用意したかはこの際問題では無いでしょう!?私も、友人として昔からスリーズ様の事を見て知っています。これはまたとない機会!是非、参加なさるべきです!」

「ティア……」

「たしかに。折角だしこの機会を利用してやる!くらいの心意気で望むべきかもね?」

「そうよねー」

「フェーヴ、サントノーレ……。あなた達……」


彼女に考える時間を与えるため、口を閉じ反応を待つ。


「一応確認するわ。フェーヴ、サントノーレ。一緒にきてくれるかしら?」

「はいはいはーい!」

「スリーズ様、サントノーレ様が行くのなら……」

「よかった……。みんな……参加……できて……」


リザベルトも嬉しそうにしている。私も心の中でガッツポーズをする。


「では、お店が決まったら連絡するわね。あまり長いことお邪魔するのもあれだし、そろそろ失礼するわ」

「あ、アルメリー様、私はもう少しここでお話をしていきますので……」

「あまり……遅く……ならなぃ……ように、ね……」

「わかったわ。気を付けてね」


そこでティアネットと別れ、リザベルトと共にスリーズの寮を後にした。




                  ◇




寮に帰ると、寮長に声をかけられた。


「アルメリーさん、いい所に。これからあなたのお部屋にこれを届けようと思っていました」

「あ、寮長様。ごきげんよう」


彼女から一通の手紙を受け取る。


差し出し人を示す、手紙の封に用いられる封蝋の印璽に目がとまる。

この意匠の紋章は確か授業で見たことあるような……?


「ありがとうございます」

「アルメリーさん、一つ質問です。差し出し人は分かりますか?」

「え……えっと、すいません、分かりません!」

「一体、授業で何を学んでいるのですか?これはベルトラン家の紋章です。長女のエルネット様は生徒会に入った程の才媛であらせられます。良く覚えておきなさい」

「分かりました寮長様……」

「しっかり勉学に励むのですよ」


了承の意味を込めてカーテシーをし、その場を後にする。




部屋に戻るとアンがいつものように迎えてくれる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「アンもお疲れ様。どうだった?良いお店見つかった?」

「条件に合うお店が二店舗ほど見つかりました」

「ちょっと困った事になったのよ……」

「どうされました?」

「マドレリア様のお茶会が急遽開催される事になって……予定が重なってしまったのよ。どちらも参加するなら、同じお店か近い所じゃないと無理よね……いや、時間をずらすのも、ありといえばあり?」

「……少し、ややこしい事になってるのですね?」

「そうなのよー。……ちなみにどんな感じのお店?」

「こういったお店には普通、男性の同伴者が必要なので、セルジャン様に同行して頂き、そのお陰で問題なく入店する事が出来ました。一つ目のお店は若者が多く、店内は多くの高い柱で天井まで支えている、仕切りのない開放的な入りやすい雰囲気のお店でした。スィーツのお値段が周辺のお店より少し高めですが、美味しゅうございました」

「……今度、私も是非行きたいわ。また場所を教えてね?それで、もう一つのお店は?」

「二つ目のお店は高級感があり、入店に際し店側が規定した条件があるようで、入店を断られているお客様もおりましたね。店内は何部屋もの大小の部屋に仕切られていました。通された一室で試しに何品か料理を頼んでみましたが、給仕の方の対応も良く、動きも洗練されておりました。料理のお値段の方は、周辺のお店より一段高めでした。両店ともセルジャン様に奢って頂きました」

「……予約はしちゃった?」

「いえ、主の判断を仰いでからと思い、しておりません」

「やるわね、アン。大好きよ」

「如何いたしますか?」

「ちょっと保留にしてて。まぁ、マドレリア様に薦めるなら二つ目の方かな……。明日、提案してみる。ちなみにお店の名前は?」

「店名は『グロワール』です」

「ありがとう、『グロワール』ね。さてと、次は……」


寮長に渡された手紙を見つめ、アンに手渡されたペーパーナイフで開封する。

そこには達筆な文字で丁寧な文章が記されていた。要約すると「あなたの学力等を知りたいので今度の休日に研究棟で特別に勉強会を開きます。確実に参加するように。もし、他にも参加したいという生徒がいれば、その参加を認めます。いきなりこんな事を伝えられあなたも困惑してる事でしょう。この件について、何か質問等あれば生徒会室にて受付ます」という内容だった。


え?何これ、エルネット様に目をつけられる様な事したかしら?それとも呼び出しされるほど私の成績、悪すぎ!?

それに日程がやばいわ。これ以上は休日に予定を重ねるのは無理。……そうだわ、土曜は授業が午前中だけだし、土曜の午後に変更して貰えないかしら?あ、ランセリア様に渡す例のモノも取りに行かないと……。

この手紙にも生徒会室で質問等を受け付けるって書いてあるし……、直接お願いしに行ってみよう……。この手紙があれば生徒会室へ入れるわよね?エルネット様は、放課後なら生徒会室にいるかしら……?


思いを巡らせながら夜が耽るのだった。


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