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令嬢は嗤う  作者: バーン
18/63

お茶会

それから何事もなく二日が過ぎ、大食堂でリザベルトと昼食を摂っていると、フェルロッテが自信満々に私達の座っているテーブルへやって来た。


「二人共ここに居たのね。お茶会の詳細が決まったから伝えに来たの」

「わざわざありがとうございます」

リザベルトも座ったまま、ぺこりとお辞儀をする。


「五の鐘が鳴る頃にこの大食堂の中庭で行う事になったわ。ここを休日に使用するための申請も受理されたし、今から楽しみですわ」

「私達、何かお手伝いすることはありますか?」

「何か……あり……ます?」

「準備も何も……今回担当の方々のメイド達がほぼ終わらせてしまうのではないかしら?」

「それより何を着ていくか……当日のドレスを選ぶ事の方が私達にとって大事じゃない?」

「え?制服じゃないんですか?」

「あなた制服で参加するつもりだったの!?平民の生徒ならいざ知らず、私達が休日まで制服ってありえないわよ。あははっ!」

「そうそう、そういえば今、巷で流行っているドレスがあってね……」


彼女のドレス談義を昼休みが終わるまで聞くハメになってしまった……。まぁリザベルトが興味津々に聞いていたのでそれはそれでよかったのかな?






その日の放課後、催事準備室で仕事をしていると不意にランセリアが尋ねて来た。

セドリックの誕生日以降なんとなく避けられている気がして何となく話しかけ辛かったが、やっぱり気のせいだったのかな?


「アルメリー、ちょっと来てもらってもいいかしら?」

「あ、はい。少しお待ちくださいランセリア様」

「委員長、少し抜けてもいいですか?」

「できるだけ早く戻ってきてね?」

「わかりました」



廊下に出ると、そこで待っていた彼女は身を翻し歩き出す。どうやらついてくるようにということらしい。おとなしく黙って付いて行くと校舎から出てさらに暫く歩き人気のない中庭まできてやっと止まり、スカートを翻し振り向く。

笑顔を浮かべており、今日は久しぶりに機嫌が良さそうに見えた。


できればあの時に得た情報の報告ができればと思うが、人気がないとはいえ建物の影や植え込みの向こうに隠れた人がいないとも限らない。

こんなところより前回のピクニックみたいな完全に部外者がいないと思える場所で報告がしたい。あの時のいい雰囲気を思い出しながら、彼女が口を開く前に声をかける。


「次のお休みに、またピクニックにでも行きませんか?」

「あら、あなた……その日はフェルロッテとお茶会に参加するのではなくて?」


あっ、やばっ……。そういえばそうだったわ……。って、あれぇ?あの時やっぱり聞いてたの?


「すみません!そうでした!で、では次の週あたりにでも……どうでしょうか?」

「ごめんなさい、暫く予定が空いてなくて……」


そう言うと彼女は申し訳なさそうに顔を曇らせる。


「そ、そうですか。それならいいんです、アハハ……」

「それで、私の用件なんだけどそろそろ話してもいいかしら?」

「あっ、はい!」


元々、彼女の方に用件があり私が付いてきたのだ。ちゃんと聞こうと姿勢を正す。


「最近、ちょっと欲しいものがあってね。私が探しに行ければいいのだけど、あいにく予定が詰まってて……正直、困ってるの。代わりに頼めないかしら?」

「はい!ランセリア様の頼みなら喜んで!」

「ありがとう。助かるわ。友達っていいものね」


柔らかく微笑むランセリア。


「それで、その……ランセリア様が欲しがっているものは具体的にどういった物なのでしょうか?」

「それが名前しかわからなくて。『アルクアンシエル』というものらしいのだけど、売っているお店を探して欲しいの。お願いできるかしら?」


欲しい物なのに具体的な色や形、大きさ、用途もわからない……ってどういうことかしら?少し訝しむが彼女の希望は出来るだけ叶えたい。頭をもたげた疑問を口には出さず飲み込む。


「何か情報が掴めれば報告しますね!」

「ええ、お願いね。仕事のお邪魔をして悪かったわね」

「いえいえ、全然そんな事ありませんよ~。では、途中まで一緒に帰りますか?」


一緒に戻りながら少々雑談でも出来るかなと期待したが、彼女はそこから動こうとはしなかった。


「ランセリア様?生徒会室へ戻られるのでは?」

「ごめんなさい、ちょっと他にも用事があるから。一人で先に戻っていて?」

「分かりました。ではお先に失礼します」


ペコリとカーテシーをする。手を振る彼女に見送られながら一人準備室へ戻るのだった。




                 ◇




親の仕事のお陰で現生徒会役員達とは幼い頃から友人として親しくしてきたマルストンは、ランセリアとの密会で初めて見た彼女の仄暗い感情に違和感を憶えた。彼は数日後、意を決してアルベールに相談すると彼は早速教官に話を通し、休日に生徒指導室の使用許可を取ってくれていた。


午前中に合う約束をしたこの二人以外に休日の校舎には誰もおらず、辺りは静寂に包まれている。


「会長、お時間を割いて頂きありがとうございます」

「君からの折り入っての話とは珍しいな」

「……ランセリア様の事で。セドリック様の誕生パーティ以降、どうも何か様子がおかしいのです」

「ふむ……それで、どうおかしいと思うのだ?」


何処まで話してもいいのだろうかと悩みながら慎重に言葉を選ぶ。


「……先日、ランセリア様からとある非合法の薬が入手できるかどうか問われました。

ぼくは最初のうちはその存在をはぐらかしていたのですが……書物か何かで知識を得ていたのでしょうか、それがある事を確信しているみたいでした……」

「彼女の……アルエット家の屋敷にも膨大な文献があったからな。中にはその手の物が記された書物があってもおかしくは無いだろうな……。続けてくれたまえ」

「その類の薬は、非合法の領域で取引されていると聞き及んでいます。それを入手するためには誰かがそこへ行き、買う必要があります。ですが私に頼むでもなく、ご自身でも行くつもりがなく、生徒会役員にも行かせないとも仰っていました。ランセリア様にその購入役を誰に頼むか伺いましたが、結局誰なのかは教えて頂けませんでした……」


……だが、ランセリア様なら誰に頼む?ぼくが知っているあの方はそんなに交友関係は広くないハズだ。それに僕だけに話したというのは生徒会はおろか、他の人にあまり知られたくないという事。あの方の周囲に秘密を守り、進んで行動してくれそうな人物……はっ、まさかアルメリー様……!?彼女なら周囲から浮いているし、話が他人に漏れることはまず無いだろう。端から見てもあの方に懐いている様にも見える。

しかし……あの聡明なランセリア様が、危険のある非合法の領域へ自身を慕うアルメリー様を送り込むだとか、そんな嫉妬に駆られた子供じみたマネをするはずが無い。いや、あって欲しくない……だが、あの時のランセリア様は明らかに普段と違っていた……。


「彼女の性格的にそういったモノに手を出すというのは、確かにおかしいな……。マルストン、よく教えてくれた」


今のぼくではあの方に対し何もできない。せめて推測から導き出した結論をアルベール様に伝え、彼女を少しでも守って貰うことができたら……。


「あくまでこれはぼくの推測ですが、もしかしたらアルメリー様に依頼する可能性も……」


「マルストン、私は君を信頼している。その君がそう言うのだ。可能性は高いのだろう?……分かった。この件は私が預からせて貰う」

「ありがとうございます。友人が道を踏み外すのを黙って見ていられなかったので。それに会長の婚約者でもありますし、悪い噂が立つ様な事があってはいけませんから」

「そうだな……」

「では、ぼくはこれで失礼します」


難しい顔をされて悩んでいるが、会長ならきっとなんとかしてくれるだろう。

ランセリア様にこの報告がバレたら……。いやいや、そもそも「誰にも言うな」とは口止めされてなどいない。ぼくが勝手に忖度しただけだ。きっと彼女も分かってくれるはず。

相談して肩の荷が少し軽くなった気がする。ぼくは一礼し生徒指導室を後にしたのだった。






寮でお昼を頂き、自室に戻ってシュミーズにドロワースというラフな格好になりダラダラしていると、アンが小言を言ってくる。


「いくら休日とはいえ、だらしがないですよ。お嬢様」

「休日ぐらい、いいじゃない。それに最近ちょっと暑くなってきたし……」

「もし急な来客があったりしたらどうなされるんですか」

「約束もしてないし誰も来るわけないわよ~。アンはホント心配性よね~」


コンコン。

タイミングを計ったようにドアからノックの音がする。


ちょっとー?言われたそばからフラグですか、これ~~!?


「おや、どなた様でしょうか?ちょっと応対してまいりますね」


ドタドタと慌てて寝室の方へ隠れる私。


「お嬢様、お客様はリザベルト様と仰っておりますが、いかがいたしますか?」


寮の棟と部屋番号は教えていたし、『好きな時に遊びに来てね!』とは伝えていたけど、いきなり来られると心の準備が間に合わないわ!


「ちょ、ちょっと待ってもらって!今身だしなみ整えるから!」


早々に着替えは諦める。せめて髪ぐらいは梳かさないと。櫛と格闘すること数分、何とか最低限の体裁は繕えたハズ。


「お待たせ。アン、入ってもらって?」

「かしこまりました」


アンが彼女を導いて部屋に入ってくる。


「い、いらっしゃーい♪」


アンは片手で目を覆い、天を仰いでいる。

リザベルトは一瞬目を丸くしたあと、口を手で覆い笑い出してしまった。


「あははっ!笑って……ごめ……なさぃ。あはっ。普段……ちゃんと……してる……から……あははっ!」

「お嬢様、だから言ったじゃないですか……」


頭をポリポリ掻き、「あはは……」と愛想笑いするしかない私。


「よかったら……、ぉ茶会に……一緒に……と、思って……誘ぃに……きたの」

「勝手に……来ちゃって……ごめんね……ふふっ」


二人だけの時は敬称なしで呼んで欲しいと言われているので、その約束を守り彼女の名前を呼ぶ。


「いえいえ、いいのよ。全然!あ、リザベルトの今日のドレスとってもお似合いね!」



彼女の身を包んでいるドレスは瞳と同じ落ち着いた薄い緑色でフリルや装飾が抑えめなシンプルなものだがスカートの襞の内側に隠された流れるような飾り布が見え隠れしている。風をはらんで広がればとても美しく見えるだろう。

だが一番目を引くのはVの字に大きく空いた胸の部分だ。ほど良い大きさで谷間が出来ている。羨ましい。私もこのぐらいは欲しい……。


「そうだ丁度いいかも。ねぇリザベルト、今日着ていくドレスを選ぶのを手伝って貰えませんか?」

「ええ……喜んで!」


と言ってもここに持ち込まれた衣装の中で自分の趣味に合うドレスは無いのである……。

姿見の鏡の前で数着あるドレスを交互に体に合わせて、リザベルトとあーでもないこーでもないとはしゃぎ合う。やがて彼女が薦めるドレスに決まった。

それは白とピンクのストライプの生地が目に鮮やかだが、フリルをできるだけ抑えたシンプルなドレスである。

アンに手伝ってもらい、それに袖を通す。


「じゃ、アン。ちょっと早いけど行ってくるね!」


私は元気よく手を振り、リザベルトは軽く会釈をする。





現地に到着すると、日傘を優雅に肩に掛けて七、八名の令嬢達が朗らかに談笑している。準備を頼まれた方々かな?それにしては何もしてないけど……。

視線を移すと令嬢たち近くのテーブルを中心にして中庭に点在しているテーブルを数人がかりで動かしてきてその周囲に配置しなおしたり、食器類を持ってきて並べる人や、ティースタンドの1段目にサンドイッチ、2段目にスコーンのようなもの、最上段にケーキなどを美味しそうに盛りつけたりと、忙しく働いているメイド達がいた。


彼女たちは専属メイドに全て任せてるし、それでいいのかな?こういった私的な事とか、わざわざ授業でやらないから私も細かい作法とか知らないのよね。

そういえば、この前の森でピクニックした時よりも日差しが少し強くなってる気がする。私も彼女達みたいにオシャレに日傘を差したい。帰ったらアンに日傘があるかどうか確認してみよう。



「こんにちは。本日はよろしくお願いします」

「あら、いらっしゃい。アルメリーさん、リザベルト様とご一緒なのね。今日は楽しんでいらしてね」

「はい、ありがとうございます」

「こん……にちは。よろしく……おねがぃ……します」


先に来られていた方々と挨拶を交わす。

少し離れたところで既にお茶会を楽しんでいる他のグループがいた。

よく見ると中心にいたのは、忘れたくても忘れられない例のアイツ!なんでこんなとこで鉢合わせになるの……。


何事も起きませんように……。と祈り、目を合わせない様にそろりと背を向けようとしたが、世の中そんなに上手くはいかないようだ。


「あ~ら、そこにいるのは……アルメリーさんではないかしら?ごきげんよう」


一足遅かった。やはり気づかれてしまった。

なんとか聞こえない振りでスルーしようとするも、さらに大きな声で煽ってくる。


「あらあら、田舎貴族は挨拶も碌にできないのかしらねえ。ホホホ」

「「「全くですな、ハハハ!」」」


取り巻きがまるで合唱するように嫌らしく笑う。


準備をしていたメイド達も何事かと手が止まってしまっている。マドレリア様達が来られる前に準備が終わっていなければ怠慢だとして彼女達が怒られてしまうかもしれない。

私の所為で関係ない彼女達に迷惑を掛けるわけにはいかないわ。


「ごきげんよう、クリュエル様」

「あらぁ?声が小さくてまっっったく聞こえませんわねぇ。いいでしょう。私、とおっっってもやさしいから、ちゃんとあなたの声が聞こえるようにそちらへいって差し上げますわ!」


彼女はおもむろに席を立ち、ぞろぞろと取り巻きを引き連れてこちらに近づいてくる。


「あなた、あの方の二人だけの弱小サロンに入ったのではなかったかしら?一体ここで何をしているの?」

「見ての通り、お茶会への参加です」


彼女が顎を動かすと取り巻きの一人が何やらごにょごにょと唱えるとその子の周囲に発生した拳大の水球が急速に回転し、発射される。

攻撃される!と思い私は咄嗟に手で頭を守り、目をつむって衝撃に身構えるが一向に何も起きない。


後ろで何かが落ちた音がして、目を開ける。振り向くと芝生の上にお皿が落ち、ずぶ濡れになったクッキーが辺りにぶちまけられていた。

幸い芝生のクッションのお陰でお皿が割れて無いことに安堵する。


「なっ!何をするんですか!?」

「あら、あなた(・・・)には危害を加えていませんわよ?アルメリーさん」

「だからってこんな事……!」


「それにあなた達もこんな子と付き合ってあげるとか、なんておやさしい(・・・・)のかしら。頭が下がりますわぁ。オーッホッホッホ!」

「そんな慈善活動なんかより、もっと楽しいことをなさって学院生活を送ればよろしいのに。ホホホ」

「アルメリー様……この方は?」


少し怯えたように聞いてくる先程まで朗らかに談笑していた令嬢達。


「この方はクリュエル様と言って、テオドルフ様の愛好会の一人なんです。少し前に無理やりこの方のサロンに入れられそうになったことがありまして……正直あまり関わりたくない方の一人です……」


ビキビキッ!っと青筋を立てるクリュエル。


「なんですって!?私はあなたと同じクラスのあの三人組から直接ッ!あなたがクラスで浮いていると聞いたのよ!?だからやさしい……いえ、とてもやさしい私は可哀相なあなたを!わざわざ誘ってあげたのよ!勘違いしないで欲しいわ!事情を知らない他の方が困惑してるじゃない!」


確かに困惑している。だけどそれはクリュエル、あなたに対してだ。この時のトラブルの顛末については、既にフェルロッテからサロンのメンバーには説明して貰い皆には納得してもらっている。

目の前のあまり面識のない令嬢の話より、フェルロッテという高位貴族の令嬢の話を信じるのが世の常なのである。



「あなたのついた嘘で私の繊細な心はとても傷つきました。謝りなさい、訂正しなさい、そして跪いて私の靴にキスしなさい!」


私が微動だにせずにいると、さらに言葉を重ねてくる。


「……それが出来ないというのなら、次はそのテーブルの上にあるものすべてを綺麗に洗い流してあげてもよろしくてよ?」


彼女が指をパチンと鳴らすと取り巻きの内、二人がズイっと前に出てきて何やらごにょごにょと唱えると、その子達の周囲に数個の拳大の水球が発生し水流の尾を引きながら急速に回転する。


「さあ、早くしなさい?私、あまり待てませんわよ?」


そこへ背後から複数の足音が近づいてくる。


「さあ、さあ、さあ!早く!」


足音が立ち止まるとパチ・パチ・パチ……と、ゆっくり扇子が開いていく音が周囲に響く。


「……そろそろ予定の時間なのですが、まだ準備が終わってないのはどういうことかしら?」


用意を担当していた令嬢達とメイド達の顔が一斉に青ざめる。闖入者があったとはいえ、準備が間に合わなかったのは自分達の責任なのだ。


「すっ、すみません、マドレリア様!開始のお時間までに準備を終わらせることができず……」


代表して謝罪をする彼女に、マドレリアは手のひらを向け発言を制止する。


「作業を邪魔されたのね?それなら仕方がないわ。あなた達を許します。……それで、あなた。私のお茶会の邪魔をするなんて、ただで済むと思っているのかしら?」

「マッ!マドレリア!?それにフェルロッテ……様まで!?」


マドレリアが何やら呟きはじめる。人差し指と中指の二本だけ伸ばし、他の指は握り込んで渦巻く水球に狙いを定め、魔法を放つ。


取り巻きの二人の周りに浮かんでいた水球が一瞬で全て弾け飛び、辺り一面を濡らす。


「きゃっ!つめたっ!」


二人のすぐ近くにいたクリュエルは髪や顔、ドレスにもかなりの水が降り掛かり意外に可愛い声を出す。


「ちょっと!どうしてくれるのよ?お気に入りのドレスが濡れちゃったじゃない。許せないわ!あなた達、何でもいいからマドレリアにぶち込みなさい!」


取り巻きの男の一人が驚愕する。


「なっ!?ディスペル系の魔法……!?」

「あら、よく気づいたわね。それに私の魔法は、あなた達のどんな魔法より早く詠唱が終わるわ?それがどういうことか分かる?」

「キーッ!あんたたち、何とかしなさいよッッッ!!」


無茶ぶりをするクリュエルだが、取り巻きは無駄を悟っているのかざわつくばかりで何も行動を起こそうとはしない。

悔しそうなクリュエルと勝ち誇っているマドレリアの無言のにらみ合いが数分続いた後、取り巻きの男が意を決して発言する。


「クリュエル様、そろそろ我々の申請した時間が終わりに近づいています。ここは一旦、撤収いたしましょう」


「……ふ、ふんっだ!あなたに負けたわけじゃないんだから!時間が来たから仕方なく帰るんだからね!覚えてなさいよ!」


すごすごと撤退していく彼女達。そんな彼女たちを見送る哀愁を帯びた調べのように、五の鐘の音が辺りに響く。


「時間が少しおしちゃったわ。あなた達、急いで準備してもらえるかしら?」

「「「はい、マドレリア様!」」」


お茶会が始まると早速授業の話や、流行りのドレスやスィーツの話、恋愛話などに華が咲き皆ニコニコと笑顔を浮かべ話題は尽きない。

私がかつて通っていた高等学校のような乱れた言葉使いや、陰口、特定の誰かを悪し様に言ったりなど聞いているだけでも不快にさせる話題が一切でてこない。

ピュアで上品、朗らかな口調で高い知性をさりげなく感じさせる内容の会話が交わされる中、私は話のネタを提供できないので主に聞き手にまわり、時折相槌を打つなどして王都の気になるお店の情報などを手に入れて案外楽しく過ごすことができた。




                 ◇




ここはアルベールの入居する寮の近く。霊廟と共に小さな教会が建っている。日は落ちて薄暗く、辺りに人の気配は無い。アルベールは護衛を外で待たせ、一人教会に入っていく。

室内は暗く、奥に設置されている燭台に僅かに明かりが灯っているだけだ。彼はその灯りを頼りに懺悔室に入る。


「……プロスラン、いるか?」

「はっ、こちらに」


向かいに設置されている個室から声が返ってくる。


「忙しい所、呼び立てて済まない。実は頼みたい事があってな……」

「アルベール様もお変わりがないようで……」

「個人的な頼みだが、引き受けてくれるか?」

「我が機関は王族、ましてや第一王位継承権を持つアルベール様の頼みとあらば何なりと。して、いかような任務でしょうか?」

「通常任務の合間で良い、王都でアルメリーという子を見かけたら守ってやって欲しい」

「ははは、ご冗談を。顔がわかりかねますので無理ですな」

「では、追って魔法兵団監察部からの視察官という肩書きと彼女の資料を与える。学院長にも話を通しておく。それで数日の間、自由に学院へ出入りできよう。必要とあれば授業の視察を許可する。自由に見て回り、彼女の容姿を覚えておけ。学院内で本人との接触は禁止とする」

「了解っと。人使いが荒いですな、我らの王子様は。フフッ」

「頼んだぞ」


アルベールの発言が終わると同時に、向かいの個室にあった気配は音も無く消え去った。そこから退室すると、彼は懺悔室に背を向け颯爽と教会から出て行く。


「待たせたな。用は済んだ。帰るぞ」

「「はッ!」」


それだけ言うと彼は護衛を引き連れ寮に帰還するのだった。

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