4 神様再び
魔物に向かって駆けていった俺は、剣で思いっきり斬りかかった。
「はあぁ!」
気合の雄叫びと共に振り下ろす。
「ボォフッ」
魔物ーーというか猪なのでもう猪でいいや、は斬りつけられると鼻息を荒くし俺に向かって突進してきた。
俺は思い切り吹き飛ばされ尻もちをつく。
更にのしかかってこようとしたが、剣をデタラメに振ると猪は俺から距離をとった。
俺はようやく立ち上がると、剣を再び握りしめて猪に斬りかかる。
しかし、猪はもの凄い速さで俺から離れては突進を繰り返してくる。
ま、まずいな。
やっぱり勝てそうにないぞ。
不安になった俺は、エールさんに助けを求めるべく後ろを振り向いた。
「ブォッフッ」
後ろを振り向いた瞬間、猪に突撃され、衝撃で剣を弾き飛ばされてしまった。
俺に馬乗りになり、何度も何度も前足で踏みつけてくる。
まるで荒波に揉まれているかのように身動きがとれない。
「でりゃぁあ!」
掛け声の後、俺の顔面に大量の血が降り注いだ。
「すまない。けしかけておいて助けるのが遅くなった」
猪を一撃で仕留めると、エールさんは猪をどかして俺を介抱してくれた。
しばらく休み、動けるようになった。
剣と荷物を拾い街へと帰ることにする。道中はエールさんが護衛についてくれた。
街へ戻り、ギルドで採ってきたキノコや芋、木の実なんかを買い取ってもらう。
「これも頼む」
俺が荷物をカウンターへ並べていると、エールさんが先ほどの猪を載せた。
「コイツは君をけしかけたお詫びだ、貰ってくれ」
断る理由もなかったので、俺は素直に好意を受け入れることにした。
換金が終わり、ギルドのすぐ隣にある宿泊施設で今日は泊まることにする。
本当は孤児院に戻ることもできるのだが、出てすぐに戻るのはなんだか気が引ける。
エールさんにお礼を言って宿の前で別れると、俺は部屋のベットに思いっきり寝転んだ。
今日の収穫は全部で6万円程度。
その内5万5千円はあの猪だ。
俺はもう冒険者になることを半ば諦めていた。
魔物を狩ることができれば、あの買取金額だし生活に困ることはなくなるだろう。
でも、俺にはムリだ。
剣だけでは勝てない。かといって魔法じゃ魔物どころか犬猫だって倒すことはできない。
冒険者なんて、俺には荷が重かったんだ。
とりあえず今日は疲れたので、何も考えずに寝ることにした。
「ようやく魔物と戦ったのう」
聞き覚えのある声がした。
不思議と目を開けてもいないのにその人物の姿が見えた。
起き上がろうとしたが、まるで体の感覚がない。金縛りというやつか。
「ああ、気にせんでいい。ここは夢の中じゃ」
そう言って、十数年前に一度見たきりの神様が立っていた。
「本当はもっと早く出てくる予定だったのじゃが、お主がまるで魔物と戦わんかったからのう」
髭を弄りながら俺の瞳を覗きこんでくる。
「最初に魔物と戦うまでは姿を見せないと決めておったんじゃ。神様が一度決めたことを覆すわけにはいかんからな」
どうやら俺が魔物と戦わなかったからゲームでいう説明チャートに入れなかったらしい。
「どうじゃ、この世界は。中々面白いところじゃろう」
「・・・面白いわけないでしょ。こんなクソゲーみたいな世界」
苛立った俺は相手が神様だというのに語気を荒らげてしまう。
「ほう、つまらんか。お前さんの希望通りに剣と魔法が活躍する世界なんじゃがな」
「魔法って、こんな使えない魔法なんてあっても意味無いでしょう」
俺は指に魔力を集めて灯りをつける。
「ステータスメニューが見れれば楽勝だって言ったじゃないですか。僕のステータスじゃあんな魔物にだって勝てやしない」
「誰も楽勝だなんて言うとらんじゃろう。死ぬことは無いと言ったんじゃよ。この街だって安全じゃ。実際にお主は親に捨てたれたにも関わらず今こうして生きておる」
ーー俺は親に捨てられてたのか。転生したから親が居ないものとして扱われてたのかと思った。
「主はこの街は好きか?」
突然そう問われ、意味もわからず沈黙してしまう。
この街が好きかって? そんなの考えたこともない。
前世の世界のほうが生活は楽だし、娯楽も多い。ご飯だって向こうのが断然おいしかった。
この街にはなんだかんだで10年近く住んでいるが、特に思い入れなんて無い。
「別に、好きじゃないです」
だから俺は正直に思うところを伝えた。
「なら、元の世界に帰りたいかの?」
・・・元の世界。
こっちの世界じゃどうせ苦労するだけだ。それなら元の世界のほうが全然マシだ。
帰りたい。それが、今の俺の素直な気持ちだった。
「その様子は帰りたいようじゃの。じゃが、先ほども言うたが、神が一度言ったことを覆すことはできん」
神様は冷たく告げる。
「この世界の住人の寿命は大体60手前くらいじゃ。残りの人生を十分に謳歌すると良い」
「ま、まって下さい。せ、せめて、前の世界に戻れないなら、もう一度別の世界に連れてって下さい」
ダメ元で神様にお願いした。どの道この世界じゃ野垂れ死にするのが落ちだ。
だったらもう一度やり直したい。せめて、ちゃんとした異世界で冒険してみたい。
そう思って咄嗟に出た言葉だったが、返事は冷たいものだった。
「ダメじゃ」
「ど、どうしてですか。この世界だって僕の希望で適当に送っただけで、別に此処じゃなければいけなかった訳じゃないでしょう」
訴えるも、神様は黙ったまま目を閉じている。
暫くすると閉じた目をゆっくりと開き俺の目を見つめた。
「以前、この世界に転生する際にワシが話したことを覚えておるかの」
言われて思い出そうとしていると、構わず神様は続けた。
「生物無生物を問わず、現世のモノは命題へと向かうために役に立っておるという話だ」
そういえばそんなことを言っていたような気がする。俺は役に立たないからこの世界に送り出せれたんだっけ。
「主はこの世界でも役には立たなかった。他の世界に言っても迷惑なだけじゃ」
俺はこの世界でも役立たずなのか・・・。
どうして、俺が他の人と比べて何が違うというんだ。
「俺が何したって言うんだよッ。他にも役に立たない奴なんて幾らだっているだろッ。・・・どうして俺ばっかり」
どうして、どうして。俺の頭の中にはそれしか出てこない。
まるで壊れてしまったかのようにその疑問しか浮かんでこなかった。
「どうして、か。そうじゃの、簡単に言うなら・・・主が自立しとらんからじゃの」
「自立?」
どういうことだ? そんなことで俺はこんな目にあっているのか。
「僕以外にも自立してない人間なんて大勢いるでしょ。それこそ何万人なんて数字じゃきかないくらいに」
「いいや、おらんよ。どんな人間だって、主と同じ状況に陥れば懸命に生き足掻こうとする。しかし、主の行き着いた答えは別の世界に転生させてくれ。じゃからな」
「・・・確かにそう言ったけど。でも、この世界で冒険者なんて続けられないし、魔法だってーー」
「冒険者ができないのなら、なぜこの世界では生きていけないんじゃ?」
言葉を遮って神様は告げる。その瞳はとても厳しく、俺を糾弾するようだった。
「主のステータスと、先ほど主を助けた冒険者。そのステータスをよく思い返してみよ」
言われて、自分のステータスとエールさんのステータスを思い返していた。
【名 前】佐倉 蔵之介
【ランク】2
【レベル】2
【体 力】41
【筋 力】49
【知 力】51
【経験値】70
【スキル】ライト ウインド ヒート コールド
【名 前】エーレンフリート・ヴァールブルク
【ランク】2
【レベル】2
【体 力】85
【筋 力】67
【知 力】64
【経験値】655
【スキル】剣術 調理 医療
「ステータスで決定的に違う部分があるじゃろう」
「・・・経験値」
「その通り。経験値とはその言葉通りに経験してきた値を示すもの。エールくんはその人生を冒険者として過ごし、経験値を蓄えてきたのじゃ。経験値こそがこの世界での強さじゃ」
「でも、経験値って普通は倒してレベルアップに繋がるものじゃ・・・」
「転生する際、主はレベルを最大にして欲しいとワシに言ったのう。しかし、それは大きな間違いじゃ。レベルが高いから強いのではない。強いからレベルが高いのじゃ」
「それって同じ意味じゃないですか」
「全然違うぞい。スキル欄を見よ。主はライトを使えるが、それはスキル欄にライトがあるから使えるのではなく、ライトが使えるからスキル欄に名が載るんじゃ」
俺にはどっちでも同じに聞こえる。結局ステータスが悪いから勝てないってことじゃないか。
納得出来ない俺を、神様は子供を諭すように、しかし厳しい表情で見詰める。
「一生懸命生きていないものを、導くことはできぬ。ステータスが低いから、スキルが無いからといって主はこの世界での人生を諦めるのか?」
それはかつて、両親に言われたことと同じような言葉だった。
ニートになり、部屋に引きこもっていた頃、俺は両親に叱られた。
才能もなく、コミュニケーションも取れない、俺に合う仕事が無いから働かないと俺は部屋でゲームばかりやっていた。
何を言われても働こうとしない俺に、いつしか両親も何も言わなくなった。
「まぁ、主の人生じゃ。後は好きにすると良い」
それだけ言い残して、神様は姿を消した。
・・・俺は、どうすればいいんだ。
体を起こし、ベットに腰を掛ける。
これからの身の振り方を考え、不安に頭を抱える。
部屋の窓から朝日が見えた。
その陽射を浴びて、神様の言葉を噛み締めていた。
あと一話で終わりです。
元々箸休め程度の軽い気持ちで書きましたので、物語として動きがあるものじゃありません。
ただ、このステータス設定等は次回別の小説を書く際に引き継ぐかもしれません。




