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TSUBAME=PHOENIX  作者: カノウラン
第2章:KOH
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画策

たしかに、今から電車に乗って最寄り駅に着くころには、完全に日は落ちてるはずだ。

夜道に備えてきたからこそ、オフホワイトの布サックなんだけど。

オレが事故にあったら責任は彼女にいくんだから、そうワガママも言えなかった。

窓から見えるビルに、西日が反射してる。


「けっこう、日も長くなってきたのになァ」


まだ衣替え前だけど、昼間はもう、とても学ランなんて着てられない。


「文句言わないの」

「そろそろ、プレミアリーグも最終節か」

「えっ?」


何のはなし、と問いたげな視線を見下ろす。


「なあ。先輩たちの番組のどれかに、代表の津田信夫しのぶがゲストに来るってはなしがないか、調べといて」


いちばん有りそうなのは例のサッカー対決企画だけど。

ないならないで、テレビ局内で遭遇ぐらいは、狙わないと。


「ねえ。代表って何の?」


こくり、と小首をかしげるすがたも小鳥のようではあるけど。

和むより、あきれの方が勝った。


「アンタ何年オレのマネージャーやってんの。サッカーに決まってんだろ。サッカーの日本代表」

「あら、そう。そんなのがあるの」


オレの白い目なんかものともせず、すぐに手帳を取り出してメモを取る。

ツーカーとはいかないけど、頼めばきっちりやってくれるから、オレにはそれで十分だ。


「で。何なのこのひととは、訊かないわけ」

「航クンにとって用がある人なんだろうな、とおもって」


ぱたん、と手帳を閉じて、黒目がちの瞳がオレをちらりと仰ぐ。


「じゃ、訊くわ。何なの、このひと?」

「現『静岡フェニックス』の代表」

「ええ?」


素直におどろく顔を見ながら、そういえば、代表の肩書をふたつも持ってる人なんだな、とおかしくなった。


「このひとがイエスと言えば、向こうの方は何とかなるとおもうんだ」

「事前交渉をするって、こと……?」


まるで悪事でもはたらくみたいに、語尾が何だか頼りない。


「人数がいるほど、はなしはややこしくなるからね。どっちにしろ、向こうに断わる余地なんかないはずだよ」


オレがほほえむと、オレのマネージャーは必ずうさんくさそうな顔をする。

津田さんの稼ぎで作ったクラブの経営は、ASリーグ昇格で、限界にきてるはずだ。

全国規模の遠征費用はばかにならないし、アマチュア選手だけじゃ上位も狙えない。

それでも、彼らはS2昇格を目指すだろう。

もう一度、S1の舞台で戦うため。

そして『飛燕』のサッカーで、今度こそ、日本一の栄冠を手にするために。

そのために必要なのは、資金だ。

それも、アテにできる金。

でなければ、何度だって、クラブは潰されてしまうだろう。


「心配しなくても、うまくやるよ。だって、オレたちの夢がかかってるんだから」

「航クンの夢より、そのためにどんな手段を使うのかが、心配」


さすが、五年も面倒をみてくれてる人だけあって、よく分かってるな、と苦笑が浮かぶ。

オレがアイドル事務所になんて入ったのも、すべてはその手段ってやつだ。

ただのサッカー選手には、クラブに対して何の力もないんだってことは、六年前の一件でよーく分かった。

それでも、津田さんが持てる力のすべてをかけて残してくれたものは、オレたちの手でぜったい形にして、次の世代に渡してみせる。

仲間集めなら、内匠たくみに任せておける。

そばには頼りになる大人がついているし、寂しいくらいが、ナンパにも精を出すはずだ。

問題は、何よりも金だけど。

静岡市内に、すでにプロのサッカークラブ『ユニオン清水』が存在してる限り、新たなスポンサーなんか期待できないし、自治体の支援も受けられない。

だからこそ、オレは静岡に留まることなく、もっと広い世界に、可能性を求めた。


それからもうひとつ。

『ユニオン』には、真太郎という貸しがある。

ライバルチームの下部組織に入ってやがるオレたちの仲間を、そのままくれてやるわけにはいかない。

どこまでも、課題は山積だ。

だけど、津田さんの帰国報道を耳にして、解決の糸口が、オレにはたしかに見えてきた。



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