「一途」
『えっと、次のメール。みなとみらいにある巨大ポスター見て来ました。すっごくかっこよかったです、て。これをオレに読ませるの。某スポーツメーカーのやつな。で。ホントにあの写真のひととラジオではなしてるひとは、同一人物なんですか、だって』
何とかってアイドル事務所に入っているというコウは、ママいわく、モデルなのらしい。
強豪校でプロをめざすサッカー少年だということも知られていて、いわゆる芸能活動は、雑誌やCMに出てるのと、あとはこのラジオくらいしかやっていないはずだ。
『それって、外見とギャップがあるってことだよな? ここ、喜ぶとこ? 意外におもしろい、とかならいいけど。意外と頭悪そう、とかだったらへこむー』
コウは、ラジオではなしてる印象よりも、意外に、奥が深いとおもう。
黙って立っていたら、一目おかせるような雰囲気が、子供の頃からあった。
そんなコウをチームのリーダーにしていたのが、相手を自分のペースに引き込むような、この軽快なしゃべりだ。
『オレの生声はね、試合を見に来てくれたら聞けるんだけど。でっかい声で、ボールくれって叫んでるから。応援、来てよ。うちわも、コンサートより実用性があるはずなんだけど、オレのってないんだよな。高校生同士の試合会場じゃ売れない、か。そりゃそうだ』
コウは今、千葉県にある中高一貫私立校、千葉鳳翔学園のサッカー部に所属している。
千葉県は、ここ数年で静岡県を越えたとも言われる、育成年代の新サッカー王国だ。
サッカー好きなら誰でも知ってる有名校で、一年生から試合に出ていたし。
去年の選手権では、大会優秀選手にも選ばれていた。
コウがアイドルやモデルとしてものすごく有名になったのは、やっぱりここ一、二年のことだけど。
名門サッカー部でレギュラーをはりながらの芸能活動は、どんなに過酷かと心配になりつつ、半分はあきれてしまう。
それでも、ラジオで聞くコウの声はいつも明るくて、おれに元気をくれる方だ。
『あ、忘れてた。こっそり、番宣しとこう。事務所の先輩が、今度サッカー映画で主演をやったんだよね。そう、アノヒト。それで、彼らの番組でサッカー対決企画をやるらしく、オレが最初の対戦者として、呼ばれてんの。だから、テレビに出るよ。なんか、その次はプロがゲストって噂を聞いたけど。一回目がオレだと、見てるひと、誰コイツってカンジじゃない? あ、顔はCM出てるか。じゃ、名前おぼえてもらうのが目標ってコトで』
おれには分からない仕事のはなしをしてるコウは、おれとは違う未来を見ているように、どうしてもおもえる。
「おまえ、やっぱり帰ってこない気じゃ」
『そうだ。サッカーといえば、よく訊かれるんだけど。高校を卒業したら、オレはプロのサッカー選手になるのかどうかって』
ラジオのスピーカーに耳を押しつけたまま、おもわず、おれはベッドに飛び起きた。
とたん、ガガガ、と電波が悪化する。
「うげげっ」
あわてて元の姿勢に戻ったのに、どうやら肝心なところは聞き逃してしまった。
『──に、いてくれたらな。じつは、S1のクラブから練習に誘ってもらったりしてるんだけど。浮気は良くないでしょ。オレは一途だよ。一途なやつはスキ?』
ハハ、と冗談めかして笑う声が鼓膜をうつ。
「いちず、か」
コウが何と言っていたかは分からないけど、そのキーワードで、何だか確信がもてた。
「コウは、ツバメを夢みてるんだ」
今も、おれと、何も変わらずに。